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『武器なき斗い』優生学を批判し自慰の有害性否定した山本宣治 [懐かし映画・ドラマ]

武器なき斗い

『武器なき斗い』(1960年、大東映画、新日本映画社)のモデルとなった、旧労働農民党代議士山本宣治(1889年5月28日~1929年3月5日)の命日が今日です。労働農民党は無産者政党。山本宣治は政府の治安維持法改正に反対したために刺殺されてしまいます。山本薩夫監督作品です。



武器なき斗い』は、以前もご紹介したことがあります。

『武器なき斗い』は、戦前あった、労働農民党の代議士を1期つとめた山本宣治を描くノンフィクション映画です。

労働農民党は、今でいうと、国民民主党から共産党までが集まったような無産政党です。

治安維持法で共産党は非合法化され、宗教団体や、左翼活動、自由主義、市民運動等まで弾圧が広がっていった時期だったのです。

日本共産党によると、山本宣治は党人として英雄視されていますが、実際には亡くなってから入党したことになっており、山本宣治は今でいうと左派に位置する無党派の科学者でした。

共産党に担がれて代議士になり、政府の治安維持法改正に反対したために、右翼に刺殺されてしまいます。

Wikiにも書かれていますが、亡くなってからも遺族が、ずいぶんお上にいじめられたようです。

戦前は戦争協力映画も撮った反省から、戦後は共産党員監督として、労働者のたたかいやレッドパージ、権力側の腐敗などを積極的に撮り続けた山本薩夫監督作品です。

主演は、劇団民藝を宇野重吉らと立ち上げた下元勉です。

山本薩夫監督で、宇野重吉ら劇団民藝の俳優による左翼、労働者弾圧映画は、この頃はよく作られました。

ラストシーンで、労働組合など赤旗に囲まれて、山本宣治の葬式が行われるのですが、泣いて弔事を読む学生の役が、山本薩夫の甥の山本學です。

左翼的なイメージでは山本圭、リアルで左派的な発言を行っているのがその下の山本亘(今も毎日安倍政権の批判ツイートをしています)ですが、山本薩夫の映画は、たぶん山本學が一番出演が多いと思います。

山本學と山本圭は、昔あったゼンボウという反共雑誌によると、額は書きませんが日本共産党に寄付をしていることになっています。

その一方で、成蹊つながりで、山本學は「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」にも名を連ねていました。

どちらが“本心の山本學”なのかは詮索しませんが、俳優というのはデリケートな仕事ですね。

オナニーの有害性を否定


山本宣治は、東京帝国大学理学部動物学科の出身。

京都帝国大学大学院では染色体の研究を行い、同志社大学では人生生物学や、性教育啓発家として性教育の講座を持っていました。

年配の方は、自慰行為は体に悪いと教わりませんでしたか。

疲れるとか(笑)

山本宣治は、学者の立場から真面目にそれを否定していた方です。

もし生きていたら、日本の性教育は変わっていたかもしれません。

きっと治安維持法だけでなく、そのことでもお上と衝突したのでしょう。

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優生学を批判


もうひとつ、お上と相容れないことがありました。

優生学を批判したことです。

優生学というのは、遺伝的原理から人間の質の「改善」を標榜する研究です。

知能指数の低い人や、障害者が生まれないようにしようということです。

が、倫理的な問題と、人格を構成するのは遺伝だけではないのに遺伝だけを基準に「間引き」することはそもそも「改善」なる命題においても合理性を欠いています。

現在ではさらに進んで、前提となる「優生」なるものがしょせんその時時の「価値(つまり主観)」に過ぎないという踏み込んだ見解もあります。

7年前、自閉症は、脳の免疫細胞であるミクログリアが過剰に働いていることと関係がある、という報告がありました。

ひとつのたとえですが、一時期のBSEにおけるプリオンのような、脳を破壊する未知の細菌なりタンパク質なりが出てきたとき、もしかしたらそのミクログリアが活発に働いたものだけが対抗できて生き残るかもしれません。

つまり、自閉症に関与する活発な細胞こそが、「優生」であるということになるかもしれないのです。

科学はものの実在を客観的に示すことはできても、それが「優生」であるかどうかは価値判断であり、医師だろうが科学者だろうが、決めることはできないのです。

自身が障害者なのに勘違いしている人もいるのですが、「障害は個性だ」というのは、実はそのような意味を含んでいます。

それにしても山本宣治、得難い学者でした。

惜しかったですね。

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コメント 10

犬眉母

戦前は詳しくはわかりませんが、
性のことを扱ったら、それだけで弾圧されそうですね。
by 犬眉母 (2019-03-05 01:56) 

末尾ルコ(アルベール)

『武器なき斗い』優生学を批判し自慰の有害性否定した山本宣治・・・この作品についてはまったく知りませんでした。ご紹介、有難うございます。とても興味があります。
その主張に賛成するか否かは別として、実はわたしは歴史上の革命史が基本的に大好きで(笑)、フランス革命、ロシア革命、キューバ革命などには目がなくて、書籍も目に入ったものはいまだに極力読むようにしております。とにかくおもしろいんですよね。これら以外の現代史の中の革命についてもいつも興味を持っておりますし、戦前・戦中の共産主義者や無政府主義者の動向などについても、もっといろいろ知りたいと思っております。だからこの作品も機会があれば、ぜひ鑑賞したいです。
わたしの家では両親が日教組だった(特に母は政治色ゼロですが、時代風潮で入らざるを得なかったようです)こともあり、『赤旗』を取っておりましたが、その影響もあり、「治安維持法」という文字を見ると、「小林多喜二の拷問による死」を連想します。『赤旗』では定番のエピソードで、よく写真付きで載っておりましたから、子どもには衝撃的でした。

>年配の方は、自慰行為は体に悪いと教わりませんでしたか。

「体に悪い」もよく言われておりましたし、「罪悪感を抱く」という話もありましたですよね。わたしはそのどちらもなかったです(笑)。その理由は、快感には何ものも勝てなかった・・・と言うよりも(笑)、比較的早い段階でそうした説に根拠がないことを何かで読んだという気憶があります。

>優生学を批判したことです。

そうなのですか!遺伝で何もかも説明しようという考えはそもそも気持ちよくないですね。「何が優生か」を押し付ける考えとなると、もう論外だと思います。「勝ち組・負け組」なんていう考えも、けっこう優勢思想と地続きのような気もします。

>話題になれば視聴率も上がる、という期待で。

なるほどです。やたらとバラエティに顔を出す「学者」の古市憲寿などもそのタイプですね。
それにしてもかつてはテレビの売れっ子も、必ずしも好きではなくても、(まあ、才能はあるだろうな)と納得できる人が多かったです。ところが今は、有吉弘行、坂上忍とか、「資源の再利用」みたいな人たちが中心となっており、この上ヒロミや長嶋一茂では、もう何をかいわんやの世界に感じます。

>賑やかしに過ぎない連中がたくさんの金を稼ぎ、副業で海外まで支店

そうなんです。ここが日本の芸能界の最もダメな部分の一つでしょうね。しっかりと地道に活動している俳優や歌手たちよりも、本来別に存在しなくてもいいような連中がバラエティのひな壇に座っているだけで大儲けしている。わたしは才能がある人たちがいくら設けてもいいと思うのですが、日本の場合は(何でこんな連中が・・・)というのが多過ぎます。

濱田岳は数年前は、(いい俳優だな)と思ってたんですが、最近は少々鼻につくようになってます。ただ、新調を含め、容姿的に、オファーされる役柄は限られるでしょうから、当人にとってもこれから年齢を重ねるにつれて難しくなるというところはあるかと思います。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-03-05 03:06) 

ヤマカゼ

戦前の暗い一面ですね。
by ヤマカゼ (2019-03-05 06:01) 

pn

本番するほど疲れないと思うけど(笑)
by pn (2019-03-05 06:14) 

Rinko

労働農民党という党があったんですね。
もっと活躍して欲しかった人に限って早く逝ってしまわれますね。。。
by Rinko (2019-03-05 08:25) 

扶侶夢

学生時代に読んでいた某青年誌では「オナニーをすると頭が悪くなる」なんて書いてあり、悩み相談コーナーではオナニーの弊害は本当ですか?というものが多かったですね。
今でも変わっていませんが、そういったデタラメな説で若者を混乱させる事が多いですね。
by 扶侶夢 (2019-03-05 10:40) 

斗夢

言論で人を殺す団体も恐ろしいですが、刃物をふるい
鉄砲を撃つ団体も恐ろしい。
by 斗夢 (2019-03-05 16:30) 

えくりぷす

山本宣治という人物、初めて知りましたが、なかなかこんな生き方はできるものではないですね。
山本學と山本圭が共産党に寄付しているという話ですが、戦後の共産党支持は、戦争に唯一反対した党ということからくるもので、割とカジュアルなものだったのでは?と推測しております。
by えくりぷす (2019-03-05 17:10) 

ナベちはる

労働農民党という党があったこと、知りませんでした。

「現状の日本を真面目に変えたい」と思っている人が早く逝ってしまうのはどの時代でも同じのようで、なぜか寂しくなります…
by ナベちはる (2019-03-06 00:37) 

風の友

山本宣治の生家がいまでも宇治市にあります。
「花やしき浮舟園」という料理旅館です。
ここのホームページにも山本宣治のことが掲載されています。
http://www.ukifune-en.co.jp/about.html

by 風の友 (2019-03-10 01:10) 

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