渡辺晋、“プロダクション”のビジネスモデルを作った男 [懐かし映画・ドラマ]
渡辺晋さん(わたなべしん、1927年3月2日~1987年1月31日)の生まれた日です。渡辺プロダクションといえば、1970年代ぐらいまでの芸能界で隆盛をきわめた芸能プロダクションですが、「芸能」に限らず「プロダクション」という事業体のモデルを作った方と言えるでしょう。(画像は断りのないものはGoogle検索画面より)
今日は誕生日ということで、昨年第13回渡辺晋賞の授賞式が行われたんですね。
多くの方が関連ツイートをされています。
今日は音楽クリエーターで、プロデュースやマネージメントにも優れた功績を残した人を表彰する渡辺 晋賞の第13回授賞式が。今回は荒井由実さんやYMOなどをプロデュース、作曲家として「エメラルドの伝説」「翼をください」など多数の作品があり、アルファレコードを設立した村井邦彦さんが受賞。 pic.twitter.com/Y4KzryB1gp
— 湯川れい子 (@yukawareiko) 2018年3月2日
渡辺プロ所属の、ビビる大木が司会をつとめたものの、本人は創業者の渡辺晋には会ったことがないと告白しています。
第13回 渡辺晋賞
— ビビる大木 (@bibiruookichan) 2018年3月2日
司会をやらせていただきました。
大木は渡辺晋さんには会ったことがないのです。もう晋さんを知らない世代が中堅になっている芸能界。
渡辺晋さんは渡辺プロダクションをつくり、日本のエンターテインメント界を創った方です。
大木ももう大人なんだなぁ。?? pic.twitter.com/WmqYna1K0f
渡辺晋さんはベーシストであり、ミュージシャンとして仕事をしていた時期もありましたが、その不安定な身分から芸能事務所を創業し、ナベプロ帝国とまで呼ばれる大きな事業にしたことは多くの人に知られています。
現在のナベプロの芸能部門は、ワタナベエンターテインメントとして分社化され、娘の渡辺ミキさんが社長兼会長をつとめているんですね。
渡辺晋のいなくなった後の渡辺プロは大変だったが、今振り返ると、ほとんど0から作り上げる楽しさもあった。ネプチューン、ふかわ、ビビる、TIMと次のエンタメを模索してもがいた日々。その、少年漫才師として異彩を放ってたビビる大木が渡辺晋賞の司会とは、感慨深い。 https://t.co/jX86fEiqvp
— 渡辺ミキ (@NasenaruQueen) 2018年3月4日
芸能界の新しいビジネスモデルを構築
今、芸能界で隆盛を誇る芸能プロダクションというと……、まあいくつかありますね。
どの会社も、大なり小なり渡辺晋社長時代の渡辺プロ、通称ナベプロをお手本にしているのだと思います。
では、渡辺晋さんがどのような仕事をしたのか、渡辺プロダクションとは何だったのか、ということを私なりに簡単にご説明します。
1950年代ぐらいの芸能界というのは、映画会社、レコード会社、劇団といった、メディアを持つ企業がタレントを抱えていました。
メディア企業はそれぞれの契約で丸抱えタレントに仕事をさせ、メディアへの出演以外の今でも“営業”と言われるイベントは、地方地方の興行師が胸前三寸の報酬で仕事をさせていたわけです。
それに対して渡辺晋氏は、自社にタレントを抱えてそれらにタレントの報酬を要求し、かつメディアに企画を持ちこんで映画やドラマを作ったり歌を出したりする「マネジメント兼制作会社」を実質業務とするプロダクションというビジネスモデルを構築しました。
つまり、
1.メディアを持たずとも、人材と机と電話だけでメディアを牛耳れる
2.メディア企業に使われて働かされるのではなく、メディアに人材を送り込んでイニシアチブを取れる
ビジネスが成立したわけです。
2については、たとえば興行主ときちんとビジネスとして契約し、所属タレントは月給制が実現するなど、芸能界の近代化にはかりしれないプラスをもたらしたことがあると思います。
たとえば、『クレージーの怪盗ジバコ』(1967年、東宝・渡辺プロ/東宝)は、自社が著作権者になり、自社のタレントを送り出し、自らは製作者となり、出演までしました(画像は劇中より)
ただその一方で、「イニシアチブを取れる」ことが悪く作用して、今で言う“ゴリ押し”が生じることもありました。
以前ご紹介した、オーディション&スカウト番組の『スター誕生!』(日本テレビ)が始まる経緯などはまさにそれだったわけです。
ナベプロ帝国は、タレントを何百人も抱え、メディアやレコード会社を牛耳り、さらに政財界にも強力なコネクションを持つとされ、批判はタブー視されました。
そんなとき、渡辺晋さんは、日本テレビの人気歌番組『NTV紅白歌のベストテン』に対抗して、同じ曜日と時間帯にNETテレビ(現・テレビ朝日)の『スター・オン・ステージあなたならOK』という競合番組を始めるといい出しました。
しかもナベプロ側は、「(紅白歌のベストテンの)放送時間をずらさないのなら、うちのタレントは出演させない』とまで通告。
すると、日本テレビ側はそれに屈せず、「出さないのならそれで結構、ではこちらでタレントを作りましょう」という発想を持ち、『スター誕生!』が始まったというのです。
それによって、サンミュージックやホリプロなど、新興の事務所のタレントが送り出されることになり、ナベプロ一強が崩れるきっかけとなりました。
もっとも、これだけだと渡辺晋さんが強欲な独裁者のように見えますが、必ずしもそうではなくて、『8時だョ!全員集合』が人気番組になったら突然半年間、日本テレビに移したことがあります。
その半年間は、人気が下降してきたクレージーキャッツにもう1度チャンスをやろうと、『8時だョ!全員集合』の枠に『出発進行』という番組を作らせ、『シャボン玉ホリデー』で世話になった日本テレビには、上昇株のザ・ドリフターズの番組を半年やらせるという、渡辺晋さんなりの差配がありました。
ただまあ、これも裏目に出てしまい、“大人の笑い”だったはずのクレージーが、ドリフのマネをして下ネタや子供向けギャグに走り、クレージーキャッツが事実上そこで終わってしまいました。
今や「プロダクション」なしにマスコミ業界は成立せず
冒頭のタイトルは『“プロダクション”のビジネスモデルを作った男』として、「芸能」の2文字をつけませんでした。
それは、芸能プロダクションだけでなく、広告プロダクション、編集プロダクションなど、紙媒体にも、ナベプロのように、“メディアを持たないマスコミ事業”を行う会社がその後続々と誕生したからです。
業務内容も、出版社からの依頼で書籍制作を請け負ったり、自分たちの持ち込み企画を書籍にするといった、まさにナベプロがテレビ局や映画会社などに行っていたことと同じことを行っています。
今や、映画もテレビも出版も、制作部門は分社化もしくはアウトソーシングされました。
もはや「プロダクション」は、マスコミ業界に認知された不可欠なポジションになっているのです。
渡辺晋さんの慧眼といっていいでしょう。
ナベプロ全盛期の所属タレントはもうあげたらきりがありませんが、ハナ肇とクレージーキャッツ、ザ・ピーナッツ、ザ・ドリフターズ、ミッキー・カーチス、中尾ミエ、伊東ゆかり、園まり、沢田研二(ザ・タイガース)、布施明、森進一、木の実ナナ、奥村チヨ、小柳ルミ子、天地真理、キャンディーズ……
ナベプロのタレントと言うと、誰を思い浮かべますか。
昭和のスター王国を築いた男 渡辺晋物語
「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 夢を食った男たち (文春文庫)
- 作者: 阿久 悠
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/12/06
- メディア: 文庫
毀誉褒貶はあると思いますが、先駆者としての評価は揺るぎないですね。
by 犬眉母 (2019-03-02 02:16)
渡辺晋、“プロダクション”のビジネスモデルを作った男・・・ナベプロはもちろん存じておりますが、その実像については大雑把にしか知りませんでした。とても興味深く拝読させていただきました。渡辺晋賞という賞もまったく知りませんでした。第13回は村井邦彦さんが受賞したということですが、この人の作曲した「翼をください」はあまりに有名な曲ですが、山田姉妹のカヴァーが絶品中の絶品なのです。
と、余談になりましたが、時間的にはほとんど瞬く間に「ナベプロ帝国」と呼ばれる巨大勢力を芸能界に創り上げたのですね。凄いお話です。わたしの場合どうしても、「表現者」中心に芸能を観てきましたので、こうしたお話はとても新鮮で、(ああ、あの時こういうことが動いていたのか)とか、表面で生じていた出来事の種明かしをしていただいているような気分になります。
渡辺晋氏の業績はとても簡単には語れませんが、その行動力もさることながら、発想の転換がいかに重要かをよく示してくれているようにも感じます。ナベプロ以前の芸能界の常識の範囲内の発想から出られなければ、このようなビジネスはいまだ存在しなかったかもしれないのですよね。その意味でも、いろいろと考える機会を与えてくださるエピソードが多いです。
>クレージーキャッツが事実上そこで終わってしまいました。
そのような経緯があったのですね。なにせわたしは子どもの頃にクレージーキャッツを観た記憶がないのです。もっとも、ハナ肇や谷啓は何やら観る機会がありました。ところが大スターの植木等を観た記憶がないのです。これはちょっと不思議な気もします。
実は檀ふみの若い頃の活躍ってほとんど記憶になかったんです。わたしのイメージの中の檀ふみは、「NHKでよく見かける女優」という感じで(笑)。だからこの作品の檀ふみは新鮮で魅力的に感じました。若く知性があり、色気を売り物にしてない女性ならではの色香を感じましたです。
「生涯映画」というテーマとも関連するのですが、わたしの中で「高度な作品としての基準」と位置付けている映画がいろいろあるのですが、「寅次郎純情詩集』は完壁にその中の一本に加わりまして、僭越ながら(笑)、今後もブログ記事などでいろいろ取り上げていこうと考えております。
わたしが『24時間テレビ』を観ていたのは始まった頃の数年間くらいだけでした。調べてみると、78年にスタートしているんですね。アリVS猪木の2年後ですね(笑)。1回目がどうだったかとかはほとんど覚えてないのですが、その後は耐えられなくなってまってく観てないです。なので現在の番組状況について感想を述べることはできないのですが、もともと批判の多い番組ですけれど、ここ数年は逆張りのような「なんで悪いんだ?」的意見も見かけます。
>障害者を感動の道具に使った番組で感動したい
確かに視聴者のそうした意図は強く感じます。さらに、それを見透かしてテレビ局が「感動させてやる」という意図も見え見えで、すごく嫌な空気が流れていると思うんですが、例年けっこうな視聴率のようで、大好きな人たちが多いのでしょうね。この番組の受け入れられ方にも、日本人の弱点が強く表れていますね。そもそも、番組終盤で出演者揃って泣き出すとか、芸能人のマラソンを見て泣く視聴者とか、わたしには信じ難い現象ばかりです。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2019-03-02 03:26)
主導権取らなきゃやってられなかった頃に比べればいいんだろうけど今のごり押しは苦笑せざるを得ない(^_^;)
経営って難しいですね。
by pn (2019-03-02 06:21)
こんにちは!
すっかり春めいて来ましたね。
余分に買った長袖の下着もズボン下も
もう今年は要らないようです。。
by Take-Zee (2019-03-02 16:43)
ナベプロって、ホントに王国だったんですね ^^
今でいう大スターばっかりじゃないですか。
子どもの頃から『新春オールスターかくし芸大会』で見た人ばかりです。
またかくし芸大会を見たくなりました(^^)
by なかちゃん (2019-03-02 20:14)
こんばんは。
芸能界に関することに疎いのですが、名前を見たり聞いたりしたことのある方々ばかりで、当時はそれはスゴいプロダクションだったんでしょうね。
詳しくない上に、テレビも地上波はあまり見ないのでよくわかりませんが、現在のナベプロにはどなたがいるのでしょうか。
by チナリ (2019-03-02 22:22)
企業のトップに立つ企画力の一面を拝見させていただきました。
by ヤマカゼ (2019-03-03 01:07)