高羽哲夫さん(たかはてつお、1926年8月31日~1995年10月31日)の命日です。山田組の撮影技師として、山田洋次作品を撮ってきました。『霧の旗』で第9回三浦賞を受賞し、『男はつらいよ』シリーズでは全48作の撮影に携わりました。(上の画像上段はGoogle検索画面より)
高羽哲夫カメラマンは、『男はつらいよ』全48作を撮っています。
これは凄いことです。
何しろ、山田洋次監督ですら、全作を監督はしていないのですから。
つまり、『男はつらいよ』の撮影に全作立ち会った、少なくとも主要なスタッフでは唯一の人ということになります。
となれば、『男はつらいよ』を振り返らなければなりませんが、その前に、第9回三浦賞(新人撮影監督の賞)を受賞したという『霧の旗』をご紹介しましょう。
『霧の旗』
『霧の旗』(1965年、松竹)は、松本清張原作、山田洋次監督、倍賞千恵子主演版です。
「えっ、松本清張作品に、『馬鹿まるだし』の山田洋次監督? 野村芳太郎の間違いじゃないの?」
と、当時思った人も多いかもしれません。
しかし、この組み合わせが良かったのです。
なぜなら、山田洋次監督は、女の“毒”を描く名人だからです。
倍賞千恵子演じるタイピストの兄(露口茂)が、老婆殺しで捕まります。
倍賞千恵子は、冤罪だから弁護してほしいと頼んだのに、頼まれた弁護士(滝沢修)は受任しませんでした。
兄は獄死してしまいます。
倍賞千恵子は、ホステスとして働きますが、ホステス仲間(市原悦子)の恋人(川津祐介)が殺される場面を目撃。
そこに居合わせた滝沢修の愛人(新珠三千代)を、今度は逆に冤罪で捕まるよう仕組みます。
DVDより
さらに、倍賞千恵子は滝沢修をも陥れるのですが、まあ、「そこまでやるか」という復讐劇です。
DVDより
Wikiの登場人物紹介には、倍賞千恵子が演じる役は、「少女のような稚さの残る顔立ちと強い視線が特徴的」とありますが、高羽哲夫カメラマンは、しっかりとその「視線」を撮っています。
原作が魅力的なので、いろいろリメイクは出たらしいですね。
私はそれらを見ていないので何とも言えませんが、はたして山田洋次、高羽哲夫、倍賞千恵子らで作り上げた65年版にかなうものはあるのでしょうか。
『男はつらいよ 望郷篇』
『男はつらいよ』シリーズは48作もあるので、どれかひとつというのも難しいのですが、少なくとも寅さんがフラれるパターンは、女性の“毒”が必ずと言っていいほど描かれています。
たとえば、5作目の『男はつらいよ 望郷篇』(1970年)。
テレビドラマ版『男はつらいよ』のさくらを演じた長山藍子がマドンナで、博士を演じた井川比佐志と結ばれるのですが、あろうことか長山藍子は、自分が結婚して家を出ても家業(豆腐店)を続けられるよう、夜、軽装でややむちっとした体を隠そうともせず、寅次郎に「ずっとここにいてほしい」と迫るのです。
DVDより
つまり、自分の都合で寅次郎を利用しているのです。
それを求愛と思い舞い上がった寅次郎ですが、すぐにそこから突き落とされてしまうのです。
別の見方をすると、寅次郎が夢中になれるように長山藍子をうんと魅力的に撮らなければなりません。
これも、高羽哲夫カメラマンの仕事のしどころでした。
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『男はつらいよ 純情篇』
次の『男はつらいよ 純情篇』(1971年、松竹)は、なんと、大映の若尾文子をマドンナとして出演させ、前年に社長シリーズが終了したばかりの森繁久彌を出演させる豪華版。
私がリアルタイムで、おそらく初めて観た映画の『男はつらいよ』でもあります。
ここで若尾文子は、長山藍子とは違うタイプの“毒”を披露します。
いや、“毒”とまでいうのは酷かもしれませんが。
マドンナとして初めて、寅次郎のテキ屋の挨拶に関心を持ち、高く評価するのです。
DVDより
にもかかわらず、「私はあなたを愛せない」と婉曲ですが、意思表示もするのです。
男にとって、一方通行の相手が、なまじ自分を理解してくれているというのはむしろ切ないものです。
本作はマニアから評価が高いのですが、毎回恒例の、最後のさくらとの「別れ方」がいつも以上にウェットで印象的です。
DVDより
『霧の旗』とは対象的に『男はつらいよ』のさくらの視線は、菩薩のような温かい視線です。
『男はつらいよ』における倍賞千恵子は、“毒”で傷ついた寅次郎が、改めて旅に出る気力をもてるようにする毒消しの役割を担っているようですが、それは山田洋次監督が、観客に対して、女の毒を描いた罪滅ぼしとしての存在のようにも見えます。
BSテレ東で放送中の『男はつらいよ』も評判いいようですね。
霧の旗 [DVD]
男はつらいよ 望郷篇 HDリマスター版(第5作)
男はつらいよ・純情篇 [DVD]
霧の旗 (新潮文庫)
- 作者: 松本 清張
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1972/02/01
- メディア: 文庫
高羽哲夫、山田洋次監督とともに撮り続けた倍賞千恵子の“視線”・・・わたしの映画鑑賞ライフ、かなり前から倍賞千恵子率がすごく高くなっております。やはり『男はつらいよ』の「さくら」のイメージが強いですから、10代の頃のわたしのイメージは、「文部省推奨女優」だったのですが、ぜんぜん違ってました。そもそも、『男はつらいよ』や「さくら」役自体が、「文部省推奨」なんて甘っちょろいものではないのですが、さらに若き日の倍賞千恵子を観てびっくり!なんと魅力的な女優なのか。可愛らしく、色気があって、知的で、気が利いていて、しかも毒もあって・・・女優としてのいい要素をお無数に持っておりますよね。
『霧の旗』は未見ですが、ぜひ観たいですね、山田洋次の松本清張、そしてその中の倍賞千恵子!比較するのも何ですが、もともと倍賞美津子とは格が違っていたという印象です。新珠三千代は最近森繫喜劇でよく観ておりますので、逆にシリアスな作品の中ではどうなのかというのも大きな興味です。
『男はつらいよ』が本当に素晴らしく手ですね、しかもいっぷく様のお記事で多く取り上げてくださっておりますので、作品理解が大きく深まります。『男はつらいよ 純情篇』は若尾文子!これは必見ですね。しかも森繫久彌も出演しているのですか。
それにしても山田洋次作品の凄さは、映画ファンでも愉しめるし、映画ファンでないご高齢者でも愉しめるところですね。これは本当に凄い手腕です。
昨今はフェミニズム的な雰囲気を漂わせただけで、「フェミが!」とか言われる状況もできてますね。極端なジェンダーフリー思想は普通の生活者の心情を大きく逸脱していると思います。
「私作る人、ボク食べる人」のお記事、再読させてただ来ました。このCM、禁止になったんですね。知りませんでした。
>その後、真の女性解放に働いたという話を私は聞いたことがありません。
もう、笑うしかないですね(笑)。この件についても、いっぷく様のお考えに全く同感でして、「CMは失敗している」けれど、ドヤ顔(笑)でクレームつけて喜んでいる人たちは「つまらない」・・・まったくその通りです。
歴史的にはフェミニズムが女性の権利向上に大きな役割を果たしたことは間違いなく、例えば、『未来を花束にして』という1910年代英国のサフラジェット(婦人参政権論者)を題材とした映画があるのですが、こういうのを観ていると、暴力を肯定はしませんが、ある程度の暴力を用いねば、女性の置かれていた悲惨な状況に男性社会の目を向けさせることはできなかったのだというのも事実なのだと理解できます。この作品は、女性活動家の一人が競馬場で疾走する馬に身を投げて自死を遂げることにより、男性社会のメディアも取り上げざるを得なくなったという歴史上の事実がクライマックスになっているのですが、当時はそこまでしなければ、女性たちがいくら「言論で」と努力しても黙殺されていた時代なったのですね。
そうした先人の命懸けの活動と比べるまでもなく、CMのコピーの揚げ足を取ったり、果ては「濡れ落ち葉」なんて言って悦に入ったりと・・・こういうことで社会をよき方向へ進めていると思い込んでいる人たちがどんどん支持を失ってしまうのは致し方ないことでしょうね。
お話まったく違いますが、いっぷく様にバナナマンについてのお話をうかがって以来、確かにバナナマン、テレビでしょっちゅう見かけます。民放地上波のバラエティは極力避けているのに、それでも目に入ってくることで、さらに理不尽さを感じております。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2018-10-31 03:11)
次々美人女性を恋する寅さんの男はつらいよは沢山見ました。監督は分りますが撮影した人は分りませんでした。
by 旅爺さん (2018-10-31 06:16)
寅さんも顔なじみのカメラマンが一緒だと安心して演技できたのでは。
by ヤマカゼ (2018-10-31 06:28)
男はつらいよは全作DVDで持っているんですが、なかなか観る機会がないもので現在放送中のBSを観ています ^^
長山洋子のは豆腐屋のでしたね。寅さんが勤労意欲に?なんて部分が面白かったです。
これからは倍賞千恵子の目線ということを意識して観てみたいです(^^)
by なかちゃん (2018-10-31 08:22)
何作目かは忘れましたが最後にお金を渡すシーンがあったんですが何故かそこだけ凄い記憶に残ってます。
金の無心しかしない姉よかそんな妹が欲しかった(笑)
by pn (2018-10-31 09:39)
昭和記念公園コメント有り難うございます、お尋ねの件、大きな池の鯉ですが沢山いて、餌の取り合いです。雑食ですね。
倍賞千恵子は今もリサイタルで活躍していますね。
いい年だと思うけど頑張っていますね。
by kohtyan (2018-10-31 17:37)
山田監督よりも現場を知っているカメラマン、演者もスタッフも安心して撮影に臨めたのではと思いました。
by ナベちはる (2018-11-01 00:35)
長山藍子、確かにぽっちゃり気味ですね。
by うつ夫 (2018-11-03 02:09)