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杉浦直樹、『岸辺のアルバム』などで哀愁の中年男性を好演 [懐かし映画・ドラマ]

杉浦直樹、『岸辺のアルバム』などで哀愁の中年男性を好演

杉浦直樹(すぎうらなおき、1931年12月8日~2011年9月21日)の命日です。舞台演劇、松竹映画、そしてテレビドラマなどで長く活躍してきました。中でも、第15回ギャラクシー賞、ギャラクシー賞30周年記念賞などを受賞した『岸辺のアルバム』は深く印象に残ります。



杉浦直樹はコメディを演じることができましたが、それはつまり、哀愁や陰翳を感じさせる俳優ということでもあります。

杉浦直樹
Google検索画面より

杉浦直樹というと私には、配偶者が他の男性に心を許してしまう役が、印象に残っています。

たとえば、1974年に起こった水害、多摩川決壊による東京・狛江市民家流失の衝撃的な映像をオープニングに使ったドラマ『岸辺のアルバム』です。

岸辺のアルバム
Youtubeより

ご存知のかたも多いのではないでしょうか。

東京新聞、中日新聞、北海道新聞、西日本新聞という、いわゆる連合ブロック紙に連載されていた山田太一の小説をドラマ化したものです。

それぞれに秘密を抱える家族が、多摩川の決壊で家を流されたこと機会に、改めてやり直すという話です。

具体的には、東南アジアから風俗業の女性を斡旋している夫(杉浦直樹)、電話の話し相手と不倫に発展した妻(八千草薫)、白人留学生にレイプされて堕胎した姉(中田喜子)、それでも家では誰も何もいわず、息子の国広富之だけが家族全員の秘密を知っています。

そして、ある日怒りを爆発させすべてをぶちまけるのです。

「他の男を好きになったら、めちゃくちゃになるはずだ。子供をおろしたりすれば、もう少し傷ついたっていい筈だ。ケロリと一家団らんなんておかしいじゃないか。女を輸入しといて、平然と親父面してるなんて、恥知らずじゃないか!ケロリと一家団らんなんておかしいじゃないか。なぜもっと血を流さないんだ」と、家族の前でそのすべて暴露して、家族に“心の大流血”を負わせます。

家族にはそれぞれ絡んでいる人物がいて、杉浦直樹の部下で忠実に斡旋をしたのが村野武範、八千草薫の浮気相手が竹脇無我、中田喜子をレイプする外国人男性とつなぐ女が山口いづみ、堕胎して人生を儚んでいた中田喜子と結婚する国広富之の担任が津川雅彦、国広富之の恋人が風吹ジュン。杉浦直樹にお熱で、あわやこちらもと思わせるのが沢田雅美。

杉浦直樹と沢田雅美
Youtubeより

八千草薫の浮気を後押ししたのが、病で余命が僅かなことがわかっていて、人生後悔しないようにと若い男(保積ペペ)を金で買っている原知佐子。

家族以外の出演者も、みな名のある役者ばかりで、今見直しても全く色褪せず面白いドラマです。

それにしても、「いい人」はせいぜい津川雅彦ぐらいで、登場人物はみんな罪深いのが笑えます。

でもこれは喜劇ではないのです。

間違いうる人間たちの集まったウソまみれの家族。

でもだからといって単純には崩壊しない人のつながり。

そんな奥深さが描かれているのです。

やはり、圧巻なのは、「私はいやになるほど常識的な人間」と自称する竹脇無我が、電車の駅で見かけただけで八千草薫に夢中になり、八千草の家に電話をかけまくって徐々に八千草薫の心を捉えていくくだりです。

竹脇無我「ドキリとしました。いいなあと思いました。ある年齢の女性の良さが、これほどきれいに、ひとつの存在になっていることに、大げさではなく、胸を打たれたような気持ちでした。」

八千草薫
Youtubeより

小説では39歳、ドラマでは42歳、実年齢では当時46歳の八千草薫をそう表現しています。

八千草薫は、会話だけの関係という約束で交際を開始しますが、やがて渋谷の南平台にある喫茶店で実際に会い、さらに「浮気の提案です」といわれて、それを受けてしまいます。

八千草薫と竹脇無我
Youtubeより

いったん浮気をしてからは、「後悔してない」といい、何度も逢瀬を重ね、ついには息子の国広富之に見られてしまうのです。

そういえば当時、『パンチDEデート』という公開お見合い番組がありましたが、男性出場者に「理想の女性は?」と尋ねると、「八千草薫さん」と答える人が多かったですね。

ただ、当時は午後10時放送だったため、『岸辺のアルバム』の平均視聴率は14.1%(Wikiより)でした。

もちろん、時間帯を考えれば悪くはありませんが、テレビ史に残るほど語り継がれるような偉大なドラマとしての評価を受けるようになったのは、何度も何度も再放送されたことで、「見れば見るほど」作品の良さがより理解されていった、株でいうとインカムゲイン型の価値をもつドラマだったからだと思います。

一括りにするのは粗雑かもしれませんが、昭和のドラマと平成のドラマの、もっとも大きな違いがここであるようにおもいます。

今のドラマは、逆に一番最初に見たときが一番良かった、ということが多いのではないでしょうか。

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田宮二郎や石立鉄男とも共演


それ以外には、田宮二郎のテレビ初主演ドラマ、『知らない同志』(1972年2月24日~6月29日、TBS)が、やはり山田太一がメインライターだったのですが、杉浦直樹がスーパーマーケットの店長役で出演しました。

201809210008.jpg
TBSチャンネルより

スーパーは数字が上がらず、杉浦直樹は大阪に転勤となり単身赴任に。

代わりに赴任した店長の田宮二郎が、杉浦直樹の妻の栗原小巻とだんだん仲良くなって……

こちらは、田宮二郎の妻(山本陽子)が現れて、杉浦直樹も東京に戻ってきたことで結局それ以上の展開にはならなかったのですが、山田太一は杉浦直樹に、妻が“アブナイ”役を演じさせるのが好きみたいですね

杉浦直樹といえば、そのダンディズムに、生前の石立鉄男が「もっとも尊敬する俳優」として挙げていていました。

石立鉄男
Google検索画面より

その関係がドラマでそのまま生かされたのが、『玉ねぎ横丁の花嫁さん』(1976年10月14日~1977年2月3日、NET)です。

杉浦直樹は香山美子と夫婦でしたが、杉浦直樹が蒸発した過去があります。

その後、香山美子と石立鉄男が結婚したものの、近所に杉浦直樹が住んでいて、しかも石立鉄男が杉浦直樹を尊敬しているため、杉浦直樹は前妻の家庭の食事に呼ばれるなと、苦慮する話です。

玉ねぎ横丁の花嫁さん
https://ameblo.jp/ameblojpvbctv3do/entry-11465059923.html より

ちなみに主題歌は、八代亜紀の『あい逢い横丁』でした。

あい逢い横丁
Google検索画面より

もちろん、杉浦直樹の出演作は、まだまだたくさんあります。

杉浦直樹、どんな作品を覚えておられますか。

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末尾ルコ(アルベール)

杉浦直樹、『岸辺のアルバム』などで哀愁の中年男性を好演・・・『知らない同志』の杉浦直樹の姿は新鮮です。わたしがこの名を知ったころは既に杉浦直樹の頭は薄くなっておりました。しかし思えば杉浦直樹が活躍していた時期、わたしは彼のような俳優の演技を堪能できるほど大人の鑑賞眼はありませんでしたので、「杉浦直樹」という存在はしっかり認識しておりましたが、(この作品!)と語ることができるほどの印象は残ってないのです。ただ、その外見は特徴的で、決してほかの俳優と混同したりとかはあり得ない人でしたね。「ほかに似た人がいない」というのは俳優としては大きなポイントだと思います。
『岸辺のアルバム』は未見ですが、機会があればぜひ観てみたいです。お記事を拝読しながら思い出しましたが、中田喜子は割と好きでした。顔立ちは整っているし、背は低い方だったですが、上品な色気がありました。などと書きながら、中田喜子のプロフィールをチェックしておりますが、『ミラーマン』へ一話分出ているのですね。ちょっとした奇遇という感じです。などと書きながらさらに見ていたら(笑)、『ウルトラマンA』や『ウルトラマンタロウ』にも一話ずつ、そして『仮面ライダー』にはけっこう長期間出ていたのですね。となると、わたしの無意識の中に中田喜子は知らず知らず刻印されていたのだと言えるかもしれません(笑)。
40代の八千草薫に心奪われるというのもとても説得力があります。確固たる気品を持つ女性だけから醸し出る色気ですよね。40代、50代の素敵な女性というのにはとても憧れますが、また微妙な発言になりますけれど(笑)、高知にはなかなかいないですね。気品というものは、喋り方や佇まいなど、全人格的なところから漂い始めるものだと思いますが、日常的に益体もない会話しかしてないような女性からは気品など漂うわけもありません。

>昭和のドラマと平成のドラマの、もっとも大きな違い

そうでしょうね。今のドラマは人間造形もその関係性も、とにかく「視聴者に分かりやすく」デフォルメされていて、しかも第一話で登場人物がわざとらしく状況説明する台詞が延々と続くのを観るだけで、続けて観る気が失せます。それと多分もうだいぶ前からだと思いますが、最終回が謎を残すような内容だと、テレビ局へ抗議の電話がジャンジャンらしいです。謎を残したり、(あれっ?)というシーンで敢えて切ったりの方が余韻が残るものなのですが、そういうのが理解できない人が多くなっているのは間違いありません。要するに、「想像できない」のですよね。

わたしとしては特に強く望んでいるわけではないですが(笑)、できれば前澤友作氏には生涯『うしろの百太郎』を伴侶としていただいて充実した人生をお送りいただきたいと。と申しますのも、著名な女優の中で剛力彩芽以下の人間を探すのは難しく(←スゴイこと書いております 笑)、その意味で氏に最も相応しい女優ではないかと思われるからです。いい女優に手を出されて、その人のキャリアが損なわれては日本の損失となりますが故に。

>経済第一主義で嫌な時代

何もかもがそちらへなびいている印象ですよね。「数字」でしかものごとの価値を測れない人たちが増殖しております。「~億回再生」とか「~百万フォロワー」とか、中身が伴っておればそれはそれで素晴らしいのでしょうが、中身が問われることは滅多にありません。

>西田敏行と三國連太郎の信頼関係もあるのではなないかと思います。

なるほどです。それは非常に大きいでしょうね。とりわけ「三國連太郎」という存在の巨大さ。日本映画史上屈指の怪物俳優ですよね。西田敏行としたら、「あの三國連太郎とコンビでシリーズ映画に出演している」ということ自体、俳優人生の中の大きな勝利だったのだと想像します。

>黙って受けなければならないのでしょうか。

これはケースバイケースで一律には申せないと思うのですが、「わたしの場合は」という前提でお話しさせていただくと、「考え違い」に対しては原則何らかの反論や説明をいたします。その書き方(言い方)は、相手がどんな人物か、どんな書き方(言い方)をしていきたかによって微調整します。やんわりとした表現で説明することもあり、場合によっては、きつい表現をすることもあります。ただ、「いつまでもからんできそう」とか、自分の人生の中の時間を無駄に費やしてしまいそうな相手の場合はスルーもあり得ます。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2018-09-21 01:54) 

pn

見た目は平穏そうな家庭も蓋をあければどこもなんかしらあるんですよきっと(願望 笑)。
あまり見てた記憶が無いから家が流される映像しか印象に残っていない(^_^;)
by pn (2018-09-21 06:19) 

ヤマカゼ

写真を見て、この人とすぐわかる個性的な役者さんでしたね
by ヤマカゼ (2018-09-21 07:27) 

Rinko

「岸辺のアルバム」はこういう内容だったんですねー。
出演者が本当に豪華です。
杉浦直樹さんにはとても素敵な印象を持っています。
by Rinko (2018-09-21 07:56) 

hana2018

何度も再放送されていた…割りには「岸辺のアルバム」は見ていないのです。
山田太一脚本は好きで、かなりの確率見ているはずですのに。
その何度も・・・が返って今更見なくともとなってしまった理由かもしれません。
八千草薫は岸恵子と同じで、年齢を重ねておばあさんとなってしまった今も、品のある、得難い女優さんのひとりかと思います。
杉浦直樹の出演したドラマが数多く見ているはずなのに、でもそれなのに彼イコール当時関根恵子=高橋恵子との浮気、それがキッカケとなって舞台のドタキャン、男性との逃避行・・・スキャンダルとは(笑)
杉浦直樹に失礼ですね。
by hana2018 (2018-09-21 10:36) 

poko

岸辺のアルバムは見てないし、何のドラマに出てたっていうのは覚えてないけど顔はわかる俳優さんです。
八千草薫さん、きれいですね。
今は可愛いおばあちゃんですね!
by poko (2018-09-21 13:00) 

kiki

少し人見知り風の役が多い、
個性的な役者さんだったと思います。
と言いながら、ドラマを観てないです。


by kiki (2018-09-21 16:11) 

馬爺

岸辺のアルバムは懐かしいですねもちろん見ましたが家族が多摩川の洪水で纏ると云うのも面白い設定でしたね。
八千草薫さんはファンでしたね。
by 馬爺 (2018-09-21 17:17) 

Take-Zee

こんばんは!
八千草薫さんは今のお歳になっても
素敵なかたですね!

by Take-Zee (2018-09-21 18:15) 

ヨッシーパパ

岸辺のアルバムは、見ていたはずですが、あらすじを見てもピントきませんでした。
by ヨッシーパパ (2018-09-21 18:49) 

うつ夫

竹脇無我の口説き文句を参考にしたいですね。ふふ
by うつ夫 (2018-09-22 01:39) 

犬眉母

いろいろな役をこなせる俳優さんでしたね。
by 犬眉母 (2018-09-22 23:39) 

そらへい

「それぞれの秋」と「岸辺のアルバム」は同時間帯の番組だったか忘れましたが、当時熱心に見ていましたね。この後、「不揃いの林檎たち」があったのでしたか。
「岸辺のアルバム」ジャニス・イアンの曲が印象的でした。
by そらへい (2018-09-23 21:21) 

coco030705

こんばんは。
「岸辺のアルバム」は、名前だけ知っていて見たことはないですね。ただのホームドラマかと思っていました。杉浦直樹、こういう俳優さんいましたね。八千草薫はきれいだわ。
今でもきれいだし、好きな女優さんです。
面白そうなので、もしTSUTAYAにDVDがあったら、観てみたいです。
by coco030705 (2018-09-30 00:53) 

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