山口瞳、『江分利満氏の優雅な生活』や『血族』などの私小説作家 [懐かし映画・ドラマ]

山口瞳(小説家、エッセイスト、コピーライター、1926年1月19日~1995年8月30日)の命日です。山口瞳というと、高度経済成長時代の“サラリーマンおっさんの日々”を描いた『江分利満氏の優雅な生活』や、自らの出自の謎に迫る『血族』(第27回菊池寛賞受賞)など、私小説でかつノンフィクションが有名な作品です。

ノンフィクション私小説、というジャンルが文学上認定されているかどうかわかりませんが、あるとすれば、その分野にまず推したいのが山口瞳です。

Yahoo!検索画面より
山口瞳は、いったん出版社勤務を経験してから大学入学という変則的な経歴でサントリーに入社しました。
あの有名なトリスのキャッチフレーズ「トリスを飲んでハワイに行こう」を書くなど、高度経済成長時代のサラリーマン生活を謳歌していましたが、

CMより
その生活ぶりを描いた『江分利満氏の優雅な生活』が第48回直木賞を受賞。
その後、文筆業に専念してからは、母親が語らなかった自分の出自の秘密を探っていく『血族』という実話で、第27回菊池寛賞を受賞しました。
「江分利満」は「Everyman」、すなわち、市井の人、ありふれた一般人といったところでしょうか。
ネットのレビューを見ると、「自分のことなのにそこまで書くべきか」という「私生活の切り売り」に批判的なものもありましたが、私は違う意見です。
『血族』は、読み進めると、世間的にはあまり歓迎されない山口瞳の両親の複雑な現実が明らかになっていきます。
しかし、母親に対する熱き愛情のある山口瞳は、それを批判せず、人間がすることにはすべてそうしなければいけない理由がある、それがぶつかる、どうすることもできない切なさがあることを鎮魂歌として描いています。
普通なら「引いてしまう」ようなことでも書ききってしまう、現実に埋没しない強靭な精神力こそが作家には必要であり、「こんなこと書けないよ」「非常識だから書くべきでないよ」などという“常識”がはたらいてしまう人は、作家の適性がないだけでなく、文芸作品の批評もむずかしいのかもしれません。
『血族』は、早坂暁の脚本、深町幸男の演出、武満徹の音楽、という『夢千代日記』トリオに小林桂樹主演で、テレビドラマ化(1980年1月6日~1980年2月3日、NHKドラマ人間模様)されています。
残念ですが、再放送もされたことがなく、BSでもCSでも放送する気配は全くありません。
未見の方は、原作を読まれたほうがはやいかもしれません。
岡本喜八と小林桂樹で「重い話」も軽快に
『江分利満氏の優雅な生活』(1963年、東宝)は映画化されています。
鎌田敏夫の師匠である井手俊郎が脚本を、『ダイナマイトどんどん』(1978年、大映/東映)をご紹介したばかりの岡本喜八が監督を、そして主演がやはり小林桂樹という興味深い作品です。

『江分利満氏の優雅な生活』より
江分利満(小林桂樹)は36歳。

『江分利満氏の優雅な生活』より
サントリーに勤務する宣伝マンですが、おひとりさまで飲み屋に行っては日々の生活を面白くないとボヤき、女給(塩沢とき)にも愛想を尽かされています。
妻は新珠三千代。父親は東野英治郎、母親は英百合子。息子は子役で矢内茂です。

『江分利満氏の優雅な生活』より
Wikiによると、当初は川島雄三監督による「社長シリーズなどのサラリーマン映画の延長上にある喜劇映画を意図していた」ものの、川島雄三監督の急死で岡本喜八監督に。
「それまでアクション映画やライト・コメディばかり監督していた岡本は、戦中派のボヤキを前面に押し出した、軽妙なテンポの中に重いテーマを据えた作品に仕上げた」とあります。
そして主演は、「重いテーマ」でも日常的な振る舞いで演じてしまう小林桂樹。
面白い作品にならないわけがありません。
江分利満家のロケ地は、現在の武蔵小杉です。
映像から、今のムサコと当時の武蔵小杉を比べてみるのも面白いかもしれません。
そのほか、山口瞳は、駅前の焼き鳥屋での交流経験をもとにした『居酒屋兆治』も映画化されました。
もちろん、エッセイは多数書かれています。
山口瞳作品、読まれたことはありますか。
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血族 (文春文庫 や 3-4)
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