向田邦子(むこうだくにこ、1929年11月28日~1981年8月22日)の命日が今日22日です。昭和の作家・脚本家ですが、作品をたくさん残している向田邦子なら、若い世代でもご存知かとおもいます。全盛期といえるのは、やはり1970年代の、テレビドラマの脚本執筆ではないでしょうか。
向田邦子というと、みなさんは、どんな作品を思い出されますか。
多くの人はその代表作を、作風のインパクトから『寺内貫太郎一家』と思われるのではないでしょうか。
Google検索画面より
私も同作は、パート1もパート2も見ました。
が、正直、ちょっと大味なところがあったので、ベストワークとはいえなかったとおもいます。
主役が、作曲家で初主演の小林亜星ですから、デリケートな演技を求められないため、ふすまを壊す派手な喧嘩シーンや、樹木希林の「ジュ~リ~」などのギャグでメリハリを付けごまかしていた感があり、そのとばっちりで、西城秀樹は骨折もしています。
そのような見かけの派手さでメリハリとするのではなく、映像や内心の表現などで見せるドラマの方が、落ち着いて観ることができたなあとおもいました。
私が印象に残った作品は、すでにこのブログでご紹介済みのものばかりですが、改めて枚挙します。
『だいこんの花』
劇中メインタイトルより
『
だいこんの花』(1970年10月22日~1977年6月2日、NET)は、息子・竹脇無我のラブロマンスと、父親・森繁久彌の“暴走老人”としてのエピソードをおりまぜながら、それでもお互いを尊重しあう父子の日々を描いています。
全5部放送され、竹脇無我はすべてエリートサラリーマンの設定。
ところが相手役は、お手伝いさんの川口晶(第1部)、親のいない栄養士の関根恵子=現・高橋恵子(第2部)、第3部ではまた川口晶ですが今度は連れ子のいる設定。第4部と5部はホステスだったいしだあゆみです。
劇中第1話より
竹脇無我という星の王子さまが、“身分違い”を克服して結婚するという展開です。
森繁久彌は、軍隊時代は元海軍大佐巡洋艦艦長。当時の部下夫妻(大坂志郎と加藤治子、牟田悌三と春川ますみら)が近所に住んでいて、森繁久彌にいつも振り回されている展開です。
劇中第1話より
ドラマのタイトルは、「だいこんの花のように清楚で美しかった亡き妻(母)」という父子の思いを表現したもの。←加藤治子は森繁久彌の妻と部下の妻の二役です
劇中第1話より
竹脇無我は、一見そうではない「育ちの悪いはずの」娘と結婚しますが、竹脇無我は幸せになり、人間の「だいこんの花」は、家柄ではなくその人自身のこころの中にこそ咲いている、という話です。
ドラマとしては大変きれいなモチーフですが、子どもの頃からこういう男女の本質に迫るドラマばかり見ていると女性を見る目が慎重になり、晩婚になります(笑)
『パパと呼ばないで』
チャンネルnecoより
『
パパと呼ばないで』(1972年10月4日~1973年9月19日)は、このブログで何度もとりあげていますが、向田邦子の脚本について一言すると、基本に忠実な脚本を書かれているとおもいました。
たとえば、第11話の『ネコふんじゃった』(1972年12月13日放送)は、お金持ちで子どものいない夫婦(福田豊土、小沢弘子)が、千春(杉田かおる)を養女にと申し出たところ、千春は夫婦の家にグランドピアノがあって「猫踏んじゃった」を弾けるから「行ってもいい」との回答。
右京(石立鉄男)は腹をくくって千春を送り出しますが、千春は夜起きて「パパ」に水をあげようとしたらいないので、やっと自分の置かれている立場がわかり、寂しくなって結局右京のもとに戻ってきたという他愛ない話です。
それを1時間のドラマで盛り上げるために、脚本家は技術的には
ハコ書きと言って、起(1)承(5)転(1)結(1)の8つのプロットを決めて書くことが多いのですが(漫画家のネーム入れのようなもの)、ドラマのあらすじをメモしていくと、この回はきれいに8つのプロットで構成されていました。
こういうところがきちんとしているのは、向田邦子さんはもともと編集者なので、「ひらめき」ではなく、「材料の整理」でストーリーを構成する人だったのだと私は解しました。
『時間ですよ』
劇中メインタイトルより
『
時間ですよ』(1970年2月4日~1972年3月15日)は、森光子(妻)と船越英二(夫)の絶妙演技による、銭湯が舞台のホームドラマです。
したがって、入浴シーン、脱衣シーンがあり、三代目江戸家猫八がいつも女湯から入ってくるシーンや、従業員(堺正章、悠木千帆、浅田美代子など)のギャグも散りばめられ、ショーアップされた構成は『寺内貫太郎一家』と似ています。
『時間ですよ』より
ただし、基本のストーリーはシビアです。
たとえば、妻(大空真弓、第2部からは松原智恵子)をめとった一人息子(松山英太郎)は、銭湯は時代遅れだからと廃業を勧め、かつ親と別居したがっています。
親子の同居や家業の跡継ぎなど、一族郎党から核家族が増えてきた当時としては切実な社会問題を抱えているわけです。
また、結婚に2度失敗した設定の従業員(悠木千帆、現樹木希林)の、コミカルだけどどこか哀しい演技がこれまた絶妙で、つまり芸達者達によってしっかりドラマは構成されていました。
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今はCSやDVDなどで鑑賞できる
半年や1年、じっくりストーリーを転がした昭和に比べると、平成の今は、1クール、全10~11回でテレビドラマはバタバタと完結してしまい、再放送もごく一部のものしか行われないことから、「その時だけ面白ければいい」放送枠を埋めるだけのものなのかと、疑問に思えるようなものもあります。
その意味では、向田邦子さんのような正統派の脚本家は、かりにご存命でも活躍の場は限られていたかもしれません。
しかし、今はBSやCS、DVDやブルーレイなどで、当時のドラマを鑑賞できる機会があります。
向田邦子さんの作品をご覧になったことがない方は、ぜひ、これを機会にご覧いただければとおもいます。
新・だいこんの花 DVD-BOX
パパと呼ばないで DVD-BOX I
時間ですよ 1971 BOX1 [DVD]
竹脇無我さんの上に、お土産用のペナントが・・・。
時代を感じますが、私も集めてました(笑)
「だいこんの花」だけは覚えがありませんが、観てみたいです。
by tsun (2018-08-22 10:12)
やっぱパパと呼ばないでが印象深い。このころの記憶なんてほとんど無いけど石立鉄男は何故か記憶に残ってるのは何故だろう(笑)。
ふと思ったんですが今1年単位で続けてるのってライダーと戦隊と大河だけですよね?大河と肩を並べる特撮って素晴らしい、のかな?(^_^;)
by pn (2018-08-22 10:24)
向田邦子、代表作は『だいこんの花』か『パパと呼ばないで』・・・あの飛行機事故、向田邦子は51歳で亡くなっているのですね。「ここからさらに円熟していく」という時点での死、無念なことでした。
向田邦子のドラマをそう多くを観ているわけではないのですが、キャリアを振り返って眺めてみると、その品格や人間を見つめる視線が昨今の脚本家と雲泥の差であることがよく分かります。昨今の脚本家は人間よりも視聴率を見つめているのは明らかですからね。
>作曲家で初主演の小林亜星ですから
なるほどです。主演者によって脚本の内容が限定される一例ですね。ドラマとしては、演技素人の亜星を起用することで、一般視聴者向けの爆発力ができたわけですね。その代わりに「深み」ある内容は希薄になったという。
『だいこんの花』も長期間続いていたのですね。今となっては森繫がこうしてテレビドラマでじっくりと演技をしていたというだけで貴重です。関根恵子も出ていたのですね。
『パパと呼ばないで』の石立鉄夫のお写真を今拝見すると、目つきに「ただ者ではない感」が漂っておりますね。子どもの頃は「おもしろいおじさん」という印象しかなかったのですが、この前に観た映画『愛の渇き』で岸恵子を誘惑する肉体を持った若い男を堂々演じているのを観て驚いたのですが、実はテレビドラマでもそのような片鱗を見せていたのかも・・・と想像しております。『ネコふんじゃった』で「ピアノ」となると、どうしても近藤正臣の「足弾き」を連想してしまいますが(笑)。「他愛ない話」ストーリーラインをいかにおもしろく膨らませるかという点にも大いに興味があります。
向田邦子作品、機会があれば、観てみようと思います。
司葉子もいいですよね~。やはり単に「好き嫌い」で語るのではなく、多くの人たちがいつでも「邦画史上一番の女優は誰だろう」といったテーマで語れるようになりたいものです。「好き嫌い」も大切ですが、俯瞰して語れるだけの知識と見識は、どのような分野でも必要ですよね。
わたしが今ぜひ観てみたいのが。「李香蘭」でして、全盛期の出演映画、観たことないんです。でも日本の女優史を語るうえで、どうしても観ておきたい人ですよね。
「清純派」というキーワードもほぼ死語となっているだけに、逆に興味が湧いてきます。中島ゆたかなどはあの情熱的な顔立ちと魅惑的なプロポーションで「清純派」で売ろうとしていたというのはもったいなかったですね。
>タイトルを次々作ることはIWGPの理念と矛盾していないか
わたしもしょっちゅう新日を観てはおりませんで、たまに観ると次々と目新しいタイトルがあるので、わけが分かりません(笑)。『ワールドプロレスリング リターンズ』では少し前の試合をフルに放送することが多いのですが、30分前後の同じパターンの試合をしょっちゅう観るのはしんどいです。ダイジェストで放送される『ワールドプロレスリング』で十分と言いますか、今のファンの人たちはどうして飽きないか不思議です。いかにアクロバティックな技を連発しても、「いつも同じ展開」ですから。
>坂口にも黙って、「あっけなく」をやって人間不信に
「人間不信」エピソード、最高ですよね(笑)。これだけで毎日の朝食のおかずにできます。「人間不信」と一筆したまま本当に半年ほど行方不明になるというハードボイルドな展開だとより盛り上がったのでしょうが、いささかブラックが過ぎるかもしれません(笑)。藤波の「激昂して自分の髪を切る」というのもケッサクでした。(なぜ自分の髪を??)と、今でも思い出すたびに口元に笑みが浮かんでしまいます。
>ストロング小林が国際プロレス時代、200連勝で帰国したことに
へえ~、そうなんですね。その200試合、すべてチェックしたくなりますね(笑)。ストロング小林200連勝をすべて観たら、プロレス脳の筋力アップになりそうです。それが何の役に立つかはさて置いて(笑)。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2018-08-22 12:49)
子どもの頃、女性が活躍するホームドラマを見ると、大体この方の作品でした。
by ヨッシーパパ (2018-08-22 17:32)
記憶に残るドラマは、脚本がしっかりしているということですね。
by starwars2015 (2018-08-22 18:33)
時間ですよはずいぶん懐かしいですね。
コメントありがとうございます。サンマ安くなって欲しいですね。
by ヤマカゼ (2018-08-22 21:10)
もう少し、しっとりした作品があったように思うのですが
タイトルが思い出せません。
単発ものを好んで見た気がします。
連ドラでは、「七人の孫」は見てましたね。
飛行機事故で急逝されたのは残念でした。
by そらへい (2018-08-22 22:25)
ひらめきではなく「材料の整理」というのはハッとした思いです。
by t-yahiro (2018-08-22 23:18)
今はいろいろと過去作を見る機会が多くなりましたよね。
どんな名前だったか忘れたときもインターネットで役者などを検索すれば出てくるので、便利になったなぁと思います。
by ナベちはる (2018-08-23 00:50)
私は『阿修羅のごとく』です。
by リス太郎 (2018-08-23 00:57)
「だいこんの花」好きでした。定年後に原作も読みましたが、懐かしくて微笑ましくて久彌さんと無我さんと治子さんを思い浮かべながらの読書は楽しいものでした。
by wildboar (2018-08-23 07:48)
向田邦子さんは、講演のCDを図書館から借りて聞いた覚えがあります。落ち着いて理知的な話し方が印象に残っていまして、美人なうえに、本当に素敵な方だったのだと思いました。
直木賞を受賞されたときの選評に「我々(選者)よりずっと上手い」とあったと思います。脚本もそうですが、小説ももっと残して頂きたかったですね。
by えくりぷす (2018-08-23 10:00)
あ・うんなどはいかがでしょう。
by 犬眉母 (2018-08-23 17:25)