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百ます計算、生後5ヶ月並みまで傷害された脳障害者が達成の道筋 [遷延性意識障害]

百ます計算、生後5ヶ月並みまで傷害された脳障害者が達成の道筋

百ます計算は、昨今のトレンドとなり賛否もいろいろあるようですが、基本となる計算力をつけるための実践に文句を言う人はいないでしょう。事故で、生後5ヶ月並みの知能まで転落した我が長男は、療育型放課後等デイサービスを使って自力で計算できるまでになりました。



高次脳機能障害については、これまで何度かご紹介してきました。

脳卒中、心筋梗塞、火災、溺水、交通事故、脳炎などによって、脳は酸素が行き届かなかったり、脳の組織が壊されたりしてダメージを受けます。

それが原因で、言語、記憶、注意、情緒といった認知機能の発揮に支障をきたす後遺症が残ることを高次脳機能障害と言い、該当者は全国に50万人くらいいるといわれています。

高次脳機能障害は、一般には外見からわかりにくいといわれていますが、それは会話や計算などの「知能」に支障を来さなかった軽度の場合で、重度であればあるほど、知能は失われ、寝たきり(遷延性意識障害)に近づくことになります。

たとえば、小林カツ代さんの息子のケンタロウの受傷時は、まさに遷延性意識障害に限りなく近い高次脳機能障害であったとおもいます。

さて、7年前に受傷した我が長男は、知能指数が生後5~6ヶ月に転落。

あまりに広範に脳が傷害されているため、障害の原因が特定できず、要介護5、1級身障者相当の遷延性意識障害と診断されました。

そこからいろいろあって、6ヶ月目には立てるようになり、10ヶ月目には言葉を発するようになったのですが、当時7歳でしたから、このまま人生を重度の中途障害者で終わらせてしまうのは忍びなく、できるリハビリは積極的に取り組みました。

理学療法士、作業療法士との特訓


受傷後6年にわたって、リハビリクリニックで、理学療法士や作業療法士に身体のリハビリを受けました。

これは自分で立って歩けるようになって1ヶ月目。

201202.jpg

戯れているのではなく、理学療法士が後ろから支えて歩く練習です。

排泄も一人ではできませんし、入浴もネッコロがして洗っていました。

そこから1年、2年とリハビリを続けることで、自力で歩き、エジソン箸を使ってものを食べ、1人でトイレで用をたせるようになりました。

IQも少しずつ上ってきましたが、鉛筆も握れず、計算もできず、しかも設問が並ぶと自分が見るべき数字を見ることができませんでした。

私の妻も一時期そうだったのですが、高次脳機能障害者には、ボタン(階数)が多い高層ビルのエレベーターが苦手です。

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数字が細かい間隔で密集していると、そこから自分の求める階数を見分けることができないからです。

視覚機能そのものの欠損ではなく、目と脳、指と脳をつなぐ神経が壊れているのだろうと思われます。

そこで、計算機を使って計算、自分が説いている設問には指を当てて、目を離しても見失いを防ぐようにしました。

脳は壊れても計算はできる
高次脳機能障害から驚異の社会復帰へ、脳は壊れても計算はできる

脳は壊れても計算はできる

これによって、四則演算、さらに分数も学習することができるようになりました。

ただし、やはり自分で書いて、自分の脳で計算することが本来のあり方です。

それには、「計算できる」とともに、「鉛筆を握れる」という課題もありました。

ゴム製の指のエクササイズIIを指にはめて、広げたり引っ張ったりして指の力を鍛え

エクササイズII

指を伸ばしたり戻したりします。

作業療法士のアドバイスで、クリップを付けて矯正することで、

タッチペン

タッチペン

次第に握る能力は回復してきました。

そして、もっとも重要な「計算できること」については、療育型の放課後等デイサービスを利用することにしました。

放課後等デイサービス


2012年の児童福祉法改正により設置された放課後等デイサービスとは、定型(健常)児にとっての学童保育、情操教育、学習塾などといった放課後活動のすべてを含む福祉制度です。

施設のタイプには、習い事型、学童保育型、療育型があり、「学習塾」にあたるのが療育型。

都心にある療育型施設で、3年前から勉強しています。

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積み木を使った計算レッスン

「見失い」については、まずマス目の大きなところに数字を書く練習を行い、徐々にマス目を細かくして数字の密集について目を慣らすようにしました。

あとは数稽古です。

いくら正しい理論に基づいたことでも、繰り返して覚えなければなりません。

障碍児療育に限らず、教育はミーティングと反復練習です。

理論が間違っても、努力が足りなくても成就しません。

たとえ単純な勉強でも、親御さんの判断で完結する家庭学習ですべて済ませるよりは、こうしたデイサービスで専門家に見てもらうのもいいのではないかとおもいます。



まとめ


今回、この話を書いたのは、放課後等デイサービスが次々参入している昨今ですが、療育型というのが少なくて、また障碍児の親御さんも、最初から諦めているのか、あまり積極的に療育型を求めてお子さんを入れることをしていないように私には見えたからです。

中途障害と生まれついての発達障害では事情が違うかもしれませんが、長男ががお世話になっている施設からは、私がこれまで、このブログでご紹介したことがある高等学校に、進学している発達障害の生徒さんも毎年出ています。

中には、無理に勉強させることはいけない、という意見を持つ障碍児の親御さんもおられますが、無理かどうかの線引はどうやって決めているのでしょうか。

もう少し、いろいろな事を身につけさせて社会に送り出したい、とお考えなら、療育型のデイサービスに1度相談に行かれることをおすすめします。

障害児通所支援ハンドブック―児童発達支援 保育所等訪問支援 放課後等デイサービ
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うつ夫

月謝の問題では?
by うつ夫 (2018-07-28 01:21) 

ナベちはる

何事も、繰り返し諦めずに行うことが大事ですね。
by ナベちはる (2018-07-28 01:33) 

末尾ルコ(アルベール)

百ます計算、生後5ヶ月並みまで傷害された脳障害者が達成の道筋・・・いつもご報告くださっておられるご長男様のリハビリ、効果の可能性のある方法には積極的にお取り組みになるお姿には、心から敬服すると同時に、大いなる勇気も与えていただいております。常に情報を集め、研究し、実践しておられる。そうしたお取り組みの中から、確実に効果が出てきているご様子を拝見することが、わたしたちにどれだけ大きな勇気を与えてくださっているか分かりません。「病気」や「心身に生じる、あらゆる症状」などに対して以下に取り組むか・・・という人の人生の中で極めて大切なことについて、根源的なヒントをいつも与えてくださっておられることにも感謝です。

>理論が間違っても、努力が足りなくても成就しません。

おっしゃる通りです。まず間違った理論を採用するのは論外で、その後の努力がほとんど無意味になります。どんな理論を採用するかについては、極めて慎重な判断が必要ですね。そして、「努力」。教育に関して、ここを理解できてない方が多いのだと思います。語学に関して、「習うより、慣れろ」とはよく言われますが、実はどのような学問でも、「慣れるくらいの反復」が必要なのですよね。そして最も重要なのが、「諦めない」こと。世の中、「前例がない」とか「可能性が低い」とかいうことで諦めてしまう人が多いのですよね。しかし脳を含め、人間の心身にはまだまだ未知の力が多く残されているのだと思います。
ご長男様のさらなるご回復、ご成長、常に心から念じさせていただいております。

ネット民の一般的レベルも酷いですが、それ以前にいろんなサイトで書いているライターのレベルがどんどん下がっている印象で、芸能人に対する記事も酷いものが多くなってきました。それと、もともと週刊誌の記事などは、「貶さないと注目を浴びない」という路線が中心だったのですが、ネット記事の氾濫でその状態に拍車が100倍(笑)ほどかかっているのではないでしょうか。

吉岡里帆も、何となく「ゴリ押し女優」ととらえる向きもあるようですね。見た目だけで言えば、「まずまず」としか表現しようがないほど「まずまず」です(笑)。個性には非常に欠けておりますね。
「数字が持ってる・持ってない」という言い方は、ヤフコメ欄でも適当に乱発されております。視聴率についてであれば、「この俳優さえ出しておれば」というような人はもういないと思いますね。映画の観客動員もそうですし、視聴率もですが、とうの昔に「一人のスターに頼る」時代は過ぎているのに、いまだに分かったように「数字を云々」とか書くのが、ネット民だけでなく、紙媒体でもネットでもライターにもそういう出鱈目なのが多いです。

>自意識過剰ですね。

そうなんですよね~。その辺の、「自・他」の距離感がまったく分かってない。自意識過剰で、しかも自己の確立ができてなくて、さらに「自分も同町圧力の中でしか生きられない」から苦しんでいるのに、その根本の改善に向かわず、「つながり孤独」なんていうひ弱な新語を作って、表面的な対症療法を提示してもほとんど意味はないと思います。
件の『クローズアップ現代+』で取り上げられた「つながり孤独」症状の人は、SNSでかつての同級生らの上げている情報を見続けていて、「自分との違い」に苦しみ、しかし「苦しい」のに見続ける・・・と、この時点で少なくとも3通りの「間違い」をしてますよね。1いつまでも過去の同級生なんか気にするな!ですし、2SNSに上げられている「幸せ自慢」を真に受けるな!ですし、「苦しい」のなら、そもそもSNSをやるな!です(笑)。「孤独」云々言う前に、明らかにSNS中毒の様相も呈しておりますよね。

>そんなときにたまたま剛力がいたと。

このフレーズ!いっぷく様、最高でございます!!!新語・流行語大賞など足元にも及ばぬこの鋭いご感覚!いっぷく様には数々の素晴らしい素晴らしいお言葉をいただいておりますが、中でもこのフレーズは超名作の一つであると確信いたしております。

>たまたま剛力がいた

と、つい繰り返させていただきましたが(笑)、怖く、そしてひたすら笑いもこみ上げてくる、まさしく『うしろの百太郎』の世界ではございませんか!!!!!わたしこのフレーズに関して、この後原稿用紙何十枚分でも書けそうですが(笑)、さすがにそれは自重いたしまして、今夜はここまでにさせていただこうと存じます。RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2018-07-28 01:37) 

pn

俺も指で押さえながらでないと目で追いきれない。
by pn (2018-07-28 06:16) 

ハマコウ

放課後支援施設もいろいろですね。
支援学級の子どもたちには、より集中できる10ます計算がやりやすいようです。
by ハマコウ (2018-07-28 06:52) 

ヤマカゼ

色々努力されてますね。
by ヤマカゼ (2018-07-28 07:24) 

えくりぷす

おそらく手探りに状態から始められたわけで、息子さんやいっぷくさんや奥様のご苦労を思うと、頭が下がります。
消極的な親御さんについては、情報不足という面もあるのではないかと思います。
by えくりぷす (2018-07-28 10:17) 

ヨッシーパパ

老人と異なり、成長途上のです子供の脳は、計り知れません。
by ヨッシーパパ (2018-07-28 16:28) 

森田惠子

息子さん、素晴らしい回復をされていますね。
もちろん、ご両親をはじめ、リハビリの専門家のお力もあると思いますが、やっぱり、ご本人が一番素晴らしい!
by 森田惠子 (2018-07-28 20:50) 

hana2018

立位もままならない状態から、立って歩く。生後5ヶ月並みとなってしまった知能から、自力で計算する。これはこんな表現ひとつ、言葉では言い表せない、繰り返しの日々、本人&周囲の努力の結果ですね。
今はこうして気楽そうにしている私にしても、自力で歩けないのは勿論、自分の手では靴下も履けない。床に落ちたものも拾えない、そこまで体力、機能が落ちていたのですから。退院時はこれからどう生きていったらよいのか、毎日をどのように過ごせばよいのか途方にくれたものでした。現に一人でドアを開けて、庭に出られたのは2~3年後だったかと。
しかし受傷した箇所からの、脳の委縮は今も進んでいる模様。
最近の物忘れの激しさは年齢のせいだけではない、出血の後が関係しているのは間違いないと自覚しております。
それでも、決して諦めずに、前に進んでいかなくては。
焦らず、諦めず、時に積極的に。

by hana2018 (2018-07-28 23:40) 

t-yahiro

ご長男の方は大変な思いをされていることと
おもいますが、いっぷくさんあなたがお父さんであったことが
お子さんにとって本当に幸せな事なのだと思います。

by t-yahiro (2018-07-30 00:17) 

Rinko

いっぷくさんご家族の努力と諦めない心に毎回感服させられています。
勝手な線引きは可能性をゼロにしてしまいますね。
by Rinko (2018-07-30 07:52) 

Vida

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