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山村聰、新藤兼人が表現したかった、社会に生きる“市井の弱者” [懐かし映画・ドラマ]

山村聰、新藤兼人が表現したかった、社会に生きる“市井の弱者”

山村聰さん(1910年2月24日~2000年5月26日)の命日が26日、新藤兼人さん(1912年4月22日~2012年5月29日)の命日がきょう29日です。山村聰は俳優でもありましたが、演出家としての2人の作品の共通点は、社会派であり、かつ市井の弱者を描いたことでした。



まず広島出身の新藤兼人監督ですが、近代映画協会を立ち上げ後に作った『原爆の子』(1952年、北星)は、社会派であるがゆえに注目され、そして社会派であるがゆえにアメリカの圧力があって、パルム・ドールを落選したといわれています。

その後も、引き続き核の問題を取り上げた『第五福竜丸』(1959年、大映)、永山則夫事件を描いた『裸の十九才』(1970年、東宝)、家庭崩壊を描いた『絞殺』(1979年、ATG)など、社会派映画を次々撮りました。

『第五福竜丸』を「水爆実験報道」後に鑑賞する

社会派の監督といえば、日本映画には山本薩夫という大物監督がいます。

山本薩夫監督は、ある事件の人物を描くことで、社会の構造的な矛盾に矛先を向ける演繹的な演出を行いました。

一方、新藤兼人監督は、ある事件や社会の流行に対する厳しい視線の中から、そこに生きる市井の人物を掘り下げる帰納的な演出にこだわったようにおもいます。

その象徴と思われる作品の一つに、『どぶ』(1954年、新東宝)があります。

どぶ
新藤兼人監督の『どぶ』より

舞台は神奈川県横浜市鶴見。

鶴見川の辺りのルンペン集落です。

貨物線(鶴見線)が通った後、貨物車から零れ落ちる豆などを拾おうと、住人は線路まで登ってきます。

鶴見
新藤兼人監督の『どぶ』より

このへん、いまは、横浜市高齢者保養研修施設 ふれーゆがあるあたりだと思われます。

それはともかく、主演の乙羽信子は知的障害者ですが、たくましく生きる女・ツル。

人を疑うことを知らないツルは見下され、いろいろな人に騙され利用されます。

そして行き着いたのが、鶴見で働く宇野重吉や殿山泰司ら。

乙羽信子、殿山泰司、宇野重吉
新藤兼人監督の『どぶ』より

彼らはツルにいったんは同情しますが、結局ツルに売春をさせて一儲けを企みます。

しかし、ツルが亡くなってから、男たちはツルの人間としての温かさや価値を知る、というストーリーです。

先日も、長野の障害者施設で流産した胎児が見つかり、入所者は性的虐待で妊娠させられたと警察は捜査に乗り出したそうですが、障碍者を見下している健常者こそ、実はずっと野卑であるという、許しがたいニュースがありました。

戦後の余裕のない時代のワンシーンを切り取り、そんな人間(健常者)のあさましい本性をこの時代にシビアに描いた作品です。

ところで、その中の出演者に「重役」を演じる山村聰がいました。

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俳優と演出家で対象的な表現者だった山村聰


俳優としての山村聰は、風格のある名優として会社役員、政治家などアッパークラスの役どころが多かったのですが、1952年に東宝砧撮影所の山田典吾芸能部長と作った独立プロ『現代ぷろだくしょん』の演出家としては、社会派として歴史に残る事件を、やはり新藤兼人同様、人間の側から描いた作品を撮っています。

たとえば1953年には、小林多喜二の『蟹工船』を発表。

その翌年には、下山事件の不審死を扱った『黒い潮』を監督兼主演で撮っています。

それこそ、山本薩夫監督が撮りそうな題材です。

政治的一大事を国民の側から扱いながらも、政治的なテーゼありきで結論を提示するのではなく、人間(それも市井の弱者)を描くことで観客に考えてもらう、というお二人の作風は、弱者・マイノリティ作品の鑑ともいうべきものだとおもいます。

ちなみに、山村聰は1986年、『花王愛の劇場 氷紋』という昼帯ドラマに院長役で出演していますが、私はその頃、白鳥座という事務所で仕事をしており、やはりその回診シーンに陣笠医師として出たことがあります。

いかにもうさんくさい思い出し笑いのような笑みを浮かべる医師役・村井国夫、大げさにおしりを振って怪しいお色気プンプンの村井国夫愛人看護師役・円浄順子、そして威厳のある院長役・山村聰。

ただ病院の廊下(実は緑山スタジオ)を歩くだけのシーンでしたが、本番前からそれぞれのキャラクターになりきった豊かな表現力で、役者というのはかくあるべしと感服した記憶があります。

新藤兼人監督、俳優としても含む山村聰について、印象に残った作品はありますか。

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ナベちはる

アメリカから圧力をかけられるほどの作品とのことで、内容は相当な出来だったのですね。
by ナベちはる (2018-05-30 00:40) 

犬眉母

山村聰さんというと、ホームドラマの
家族のお父さん、もしくはおじいさんという
役柄をイメージします。
by 犬眉母 (2018-05-30 01:35) 

末尾ルコ(アルベール)

山村聰、新藤兼人が表現したかった、社会に生きる“市井の弱者”・・・山村聰はここ2年くらいで川端康成原作、成瀬巳喜男監督の『山の音』を2回観たのですが、あらためて素晴らしい俳優だと驚きました。フィルモグラフィも凄いですね。もちろん観ている作品も多いのですが、出演作全体から見れば、わたしの鑑賞したものは僅かな数のような気がします。それにしても『東京物語』や『にごりえ』など歴史的傑作へ出演しており、永遠に観続けられる俳優の一人ですね。その風格や知性・・・こんな俳優も現在は見当たりません。
わたしはカンヌ映画祭やパルム・ドール受賞作には最大限のリスペクトを置いているのですが、それでも議論を呼ぶような選考はしょっちゅうあります。議論を呼ぶこと自体がカンヌの魅力の一つでもありますが、例えば、今村昌平作品が2回も獲らなくてもよかったのにとかは感じますね。なにせパルム・ドール授賞日本人監督は、黒澤明、今村昌平、是枝裕和しかいないわけですから。
同時にカンヌは世界に先駆けて、「未来の巨匠」を発見する映画祭でもありまして、クリント・イーストウッド、デヴィッド・リンチ、クエンティン・タランティーノらもカンヌをきっかけに世界のスター監督の仲間入りを果たしました。問答無用の歴史的傑作『タクシードライバー』も、アカデミーではなくカンヌでパルム・ドールを獲っています。
ただ、新藤兼人監督が映画史上偉大な監督の一人だということは理解していたのですけれど、政治的メッセージ性が前に出過ぎる印象で、やや苦手な時期がありました。しかしそれはわたしの偏見だったという反省もあり、いずれまたいろいろな作品を観たいと思っていたのが近年のことで、今夜のお記事はとても有難いです。
音羽信子は『釣りバカ日誌5』へ出ておりましたね。西田敏行の母親役で、若い頃の出演映画をけっこう鑑賞しておりましたもので、(あれ、こんなに背が低かったかな)とやや意外でしたが、さすがに芸達者で目を奪われました。
監督としての山村聰についてはまったく知らなかったです。『蟹工船』とか観てみたいですね。『蟹工船』は2000年代にSABUという監督がパンクな味付けで映画化していますが、(どうなの、これ・・・)という内容でした(笑)。それにしてもいっぷく様は山村聰出演のドラマにもご出演されているのですね。素晴らしいです!

プロレスラーの身長の多くにサバが読まれているとは分かっていても、例えば、猪木が「182」くらいであるならば、それはそれでちょっとしたショックです。子どもの頃は猪木は191くらいと信じて疑わず、プロレスラーはサバを読むと知ってからも、(じゃあ、188くらいかな)と思っていただけに、185もないくらいでは、(サバ読みすぎだろ!)という感じです。じゃあ藤波や長州が180以上というのもぜんぜん違う話になりますし、猪木と並んで写っていた棚橋は、猪木の子ども(笑)くらいのサイズに見えました。ネットではアンドレや馬場の身長にまで疑義を呈している人たちもいますが、どうなんでしょうね。でもまあ、そうしたことも「プロレスのおもしろさ」と無理矢理こじつけつつ、今後は身長にも最新の注意を払いながら動画などを観ていこうと思っております。

「あるブログ」の件ですが、わたしそのブログへ間違って(笑)一度だけ行ってしまった記憶があります。ただ、一度ちらっと見ただけではどんな主張をされているかよく分かりませんでした。「訪問するか否か」ですが、わたしはSo-net内では最近限られた方のブログだけを訪問させていただいているのでご参考になるかどうかわかりませんが、「わたしの訪問する・しない」のおおまかな基準は、「少々意見が異なっていても、人間的に信頼できそう、共感できる部分がある」のであれば、訪問するのに問題はありません。逆に「人間的に信頼できそう、共感できる部分がある」の部分がまるでなければ、訪問しませんです(笑)。もちろんブログの記事だけで何もかもわかるわけではないですが、ある程度以上は分かりますよね。で、例えば、あくまで「わたしの基準」ですが、「粘液質の人」「男尊女卑、人種差別を含め、差別的感覚を普通に持っている人」「いろんな意味で勘違いしている(らしき)人」「他人のブログのniceとか数えて文句つけたりする人(笑)」などは訪問しませんです。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2018-05-30 02:29) 

pn

初期の必殺、仕掛人と助け人の元締め役ですねやっぱ。
特に助け人の清兵衛(こんな字だっけ?)は俺のイメージ外で山村聰こんな役やるんだーと思った記憶があります。
by pn (2018-05-30 06:16) 

ヤマカゼ

ザ・ハングマンの面々は見たことあります。
by ヤマカゼ (2018-05-30 06:32) 

チャー

お二人の社会羽野演出 パルムドールは落選してしまいましたが ドブ大変気になります 観てみたいです
by チャー (2018-05-30 07:05) 

hana2018

ジャケット写真は、田村高廣ですよね。「トラ・トラ・トラ!」は、映画館で観た記憶があります。
2時間を超える長編に関わらず、これといった心に残るものもなく。まさにハリウッド映画そのもの!特に見どころはなかったような。黒沢明の降板もやむ終えなかったものに思えました。
山村聰と言えば、風格をもつ、重厚な役柄がハマる俳優としてだけ、彼の一面しか知りませんでした。
新藤兼人監督作品は、初期の「裸の島」。晩年に撮った「濹東綺譚」「午後の遺言状」くらいです。
by hana2018 (2018-05-30 12:56) 

johncomeback

へぇ~、「花王愛の劇場」に出演された事があるんですか。
いっぷくさんは博識だけじゃなく、いろんな経験なさってるんですね。
by johncomeback (2018-05-30 13:48) 

JUNKO

山村聰さんも好きな俳優さんでした。セリフも重厚な言い回しで好きでした。懐かしい。
by JUNKO (2018-05-30 14:56) 

makkun

山村聰さんが若い頃は余り知りませんが
加齢と共に風格・温厚にとても好感を持ちましたが
私の誕生日が命日とは・・・。
新藤兼人さんも5月が命日だったんですね~
私は「社会派」と言われていた人に憧れがありました。
by makkun (2018-05-30 16:47) 

ヨッシーパパ

山村聰さんは、な〜んとなく覚えていますが、もう一人の方は全く存じ上げません。
by ヨッシーパパ (2018-05-30 18:54) 

そらへい

俳優、山村聰さんが、演出監督もしていて
しかも「蟹工船」などの社会派だったとは、
意外でした。

by そらへい (2018-05-30 19:55) 

Shella

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