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『クレージーメキシコ大作戦』心が明るくなるメドレーが圧巻 [東宝昭和喜劇]

『クレージーメキシコ大作戦』(1968年、東宝)をご紹介します。同作は、日本、アメリカ、メキシコと3カ国で撮影した162分の長尺作品でした。が、同じ海外ロケ敢行作の『クレージー黄金作戦』(1967年)に比べて、興行収入、収益とも40%近くダウン。クレージー映画凋落のきっかけになったとも一部ではいわれています。同作を鑑賞しながら、その点にも着目してみました。

クレージーメキシコ大作戦
『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(Vol.7)より

東宝が1960年代に上映した、喜劇映画をDVD付き分冊百科として発売している『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(講談社)。

一昨年4月以来、足掛け3年で現在47冊発売され、残すところ3冊となりました。

現在発売されているのは、すでにこのブログでもご紹介した『喜劇駅前団地』(1961年)です。

『喜劇駅前団地』

残る3冊も喜劇駅前シリーズの予定で、この分冊百科のメイン(26作)である、クレージー映画についてはリリースは終了しました。

久しぶりに鑑賞したものも含めて、改めてクレージー映画を、各作品の“点”としてではなく、“線”で追うことができました。

その中で、今日ご紹介する『クレージーメキシコ大作戦』は、クレージー映画30作中の21作目になります。

監督は坪島孝。『クレージー作戦 くたばれ!無責任』『クレージーだよ奇想天外』『クレージーの怪盗ジバコ』など、私が個人的に好きな作品を手がけており、期待をしたのですが……。

ネタバレ御免のあらすじ


かなり長いので端折って書きます。

主人公・酒盛進(植木等)は、美術学校の生徒である村山絵美(浜美枝)をパートナーに、いかがわしい商売をしていましたが、アメリカに派遣するダンサーを探している藤岡琢也と出逢い、浜美枝を売り飛ばしてしまいます。

ハナ肇はヤクザで、親分(田武謙三)の身代わりに罪を被り出所してきました。あねさん(春川ますみ)がトラブルで若頭(中丸忠雄)に殺され、自分が殺してしまったと誤解したハナ肇は、エリート銀行員(谷啓)の車に遺体を捨てます。谷啓は橋から遺体を落としますが、その下に住んでいた植木等の生活する小屋に落ちてきます。

谷啓は、死体遺棄で警察に捜索され、アメリカに逃亡。ハナ肇は、親分の秘書になった初恋のみっちゃん(大空真弓)を追ってやはりアメリカに。

植木等は、遺体を病院に運んだ時、アメリカのギャング団(桜井センリら)から、がんの名医(藤田まこと)と間違えられて、やはりアメリカに連れて行かれ、ギャング団のボスの脳腫瘍を取れと求められます。植木等は、かんでいたガムを差し出して「腫瘍を取った」と言い逃れてその場を逃げ出します。

谷啓と植木等を追うのは刑事の犬塚弘。谷啓の恋人で、やはり谷啓を追って渡米するのは園まり。谷啓の部下で、谷啓の拐帯する集金を取り戻しに追いかけるのが石橋エータロー。

ヤクザの親分とみっちゃんは、秘宝のありかを知る手掛りとなるメキシコの石像を、ギャング団と取引するために渡米していました。しかし、実は本物の石像はいろいろあって植木等の手に渡り、さらに浜美枝に作らせたコピーでした。

そうした事情から、アメリカに渡った人たちが鉢合わせし、騒動の挙句にハナ肇と谷啓はメキシコ人と間違えられてメキシコに退去強制。植木等も石像のことで親分にメキシコへ連れて行かれます。

そこでまたいろいろあり、結局植木等、谷啓、ハナ肇の3人はメキシコで秘宝を見つけ出します。

ハナ肇も容疑がはれ、谷啓が拐帯していた集金した金は持ち主が亡くなって返す必要がなくなり、犬塚弘は警察をくびになり、桜井センリはギャング団に裏切られ、結局7人と女性3人とで、谷啓のお金を元手に帰国してメキシコ料理店を開いてハッピーエンドです。

シリーズ凋落はこのシーンから!?


この当時、年間3作、多い時は4作も作られたクレージー映画だけに、このへんになるとさすがに疲れてきたかな、という気はします。ストーリーはかなり非現実的な展開もあります。

医師を間違えるのはともかくとして、他の医師がいる前で、かんだガムを丸めて腫瘍に見せるというのは、ちょっと無理がありすぎです。

とくにがっかりしたのは、金をくすねるシーンです。

初期の「無責任」シリーズで、もののチョロマカシはありましたが、今回は、メキシコで、大道芸でおひねりを受け取る少年のかごから、植木等がお金をくすねているのです。

子ども相手のかっぱらい。やっぱりまずいでしょう。

そこには、他の坪島孝監督の作品にあった大義が存在しません。

たんなる弱者を踏み台にする救いのないチンピラでしかないのです。

こんなことは以前はありませんでした。

たとえば、『クレージー黄金作戦』では、ラスベガスのチップを偽造(結果として使えず)しましたが、一応業者(沢村いき雄)と交渉して、「今回はサービスで作ってよ」と、正々堂々と口先で交渉しています。

クレージーの怪盗ジバコ』も、日本工業会の会長から刀を盗み出して、「日本の工場を1日だけでいいから止めて、青空を子どもたちに見せると約束したら刀を返す」と、会長に大気汚染の義憤から迫っています。

クレージー映画を支えていたのは、やはり植木等のキャラクターでしょう。

シリーズの凋落は、そのキャラクターに疑問を持たれ始めたからではないかな、という気が私はするのです。

ただ、シリーズの定番となっている、劇中の歌うシーンは、いちばん華やかで、そこだけを切り出して何度も観たいほどです。

作品は冒頭で、植木等が『ウンジャラゲ』

作品の前半最後には、園まりが『あなたのとりこ』を歌っています。

そして、後半のメキシコ編では、クレージーキャッツの7人が歌うショーを開催しようということになり、その想像場面で、中尾ミエ、ザ・ピーナッツらの歌、そしてクレージーキャッツのコントと、『シャボン玉ホリデー』さなからのシーンになります。

『クレージーメキシコ大作戦』より
『クレージーメキシコ大作戦』より

『Cielito Lindo,(シエリト・リンド)』という、同国を象徴する歌を、中尾ミエをセンターにして、クレージーキャッツがGSの扮装で固め、さらに背後でコーラスが構えるシーンは圧巻です。

さらに、最後のシーンでは、改めてクレージーキャッツの7人で『人生たかが二万五千日』を歌い、作品を締めています。



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