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がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録、急性期60日 [遷延性意識障害]

がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録

『がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録』(宮城和男著、あけび書房)という書籍を以前記事にしました。前置きが長くなり、十分なご紹介でなかったにもかかわらず、閲覧数はずっと伸びて、記事末にのせた書籍を購入される方も継続的にいらっしゃいます。

がんばれ朋之!

ああ、やはりこういう話は求められているんだなあと改めて思いました。

前回の記事では、料理研究家・ケンタロウさんの話から始まったので、同書については、後半で少ししか触れることができませんでした。

がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録

そこで、今回はもう少し詳しく、そして自分の体験なども交えながらご紹介できればと思っています。

同書がどういう内容かといいますと、オートバイの交通事故で頭をうち、脳がびまん性軸索損傷(DAI)という大怪我をしてしまった松本朋之さんが、家族や友人の励ましや医療スタッフの懸命な治療やリハビリによって、重い高次脳機能障害を残しながらも社会復帰したことを、当時の担当医の宮城和男さん(当時王子生協病院)がまとめたものです。

お母さんの和子さんの当時の日記も掲載されています。

車椅子で自動車の教習に向かう写真が話題になりました。

『朝日新聞』1997年1月30日付
『朝日新聞』1997年1月30日付

びまん性軸索損傷ですが、軸索というのは、脳細胞の中の指令を出すために長く伸びた繊維のことで、そこに断裂が生じることで脳細胞が壊死します。

脳損傷には、交通事故など外部損傷で起こる、脳挫傷やびまん性軸索損傷と、一酸化炭素中毒や心筋梗塞、脳卒中などによって脳に酸素が行かなくなって起こる低酸素脳症とがあります。

後者は脳細胞の損傷が画像(MRIなど)で見えるのですが、びまん性軸索損傷の場合、画像上は見えない所に損傷が起こるそうです。

まあ、見えても見えなくても脳障害は、現在の医学では状態を診断するだけで、回復のメカニズムや予後をきちんと見通せるわけではないのですが……。

だからこそ、患者家族は回復の情報を求めています。

私も、どういう経緯か忘れましたが、この書籍を知ったときはすぐに購入しました。

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がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録とは……


同書は大きく分けて

1.どのような治療やリハビリをして回復に向かったか、
2.家族は現状をどのように受容していったか
3.医師は何を考えどう取り組んでいったか

という3つのポイントから書かれています。

どれも患者家族からすると知っておきたいことですが、何か回復のための働きかけをできる段階にあれば、一番知りたいのはやはり1番だと思います。

同書によるとまず、意識障害があり自力で動けないときでも、とにかくベッドに寝せっぱなしではなく、車椅子にのせて脳に刺激を与えることを行っています。

私もこの本を読んで、長男を車椅子に、タオルやベルトなど何重もくくりつけて座らせていました。

でもきちんと座れないし、ズリ落ちても自分では直せないし、「形だけ座らせても意味あんのかなあ」なんて思ったこともありましたが、とにかく成功した人に従ってみようと思って毎日実践したことを思い出します。

医療的にはTRH療法という、脳下垂体から分泌されるホルモンの産生を刺激する治療を行っています。

そして、意識障害の中でも追視(目の前で物を動かして視線が動くこと)を確認できるところにきたそうですが、それが事故後60日目だそうです。

脳をやられてしまうと、それまでに獲得したものを失ってしまうわけです。

そうすると、たとえば物を見るという行為もできなくなります。眼と脳の連携が壊れてしまうのでしょうね


健常な人にとっては、当たり前の行為なのでわかりにくいかもしれませんが、脳にダメージを受けるというのはそういうことなのです。

同書を手本にしていた私は、長男が60日目でもこれができなかったので焦りました。

朋之さんはその後まもなく、看護師がミスで膀胱のカテーテルを閉めたままにしたため、膀胱が膨れ上がって悲鳴を上げたそうです。これが事故後初めての発声。

医療ミスも怪我の功名か。でもたしかに痛そうです。

でもそれで目を冷まして回復、というわけではなく、やはり意識障害は続きます。

発声はあっても発語はなく、もちろん会話もない。手足も動かず、動いても目的をもった動きにならず。

こういう状態が3ヵ月続くと遷延性意識障害といいます。

遷延性意識障害はもう治療してもらえない!


そして、その3ヶ月目を前にして、病院では「これからのこと」が話し合われています。

院長は、「3ヶ月過ぎて、あまり変わらないようだったら転院するしかないんじゃない?」

著者の宮城和男さんも「大体同じように考えていた」と書いています。

なぜか。「病院の経営上も、長期入院すると採算がとれなくなる」から。

患者には冷たいようですが、治った場合はもちろん、治らない場合でも、病院の仕事は治療が終われば終わりとなります。

「転院する」といっても、なにか特別な治療をしてくれる病院に移るわけではなく、むしろそうした治療はない慢性疾患を対象とするリハビリ病院です。

でもそれでは、遷延性意識障害という特殊な状態について、治すための治療が十分にできません。

遷延性意識障害というのは、確定した状態ではなく、「慢性疾患」とも違います。

将来治るかもしれない可能性をもっているわけですが、その可能性が事実上断たれてしまうのです。

遷延性意識障害と診断された患者家族は、この「切り捨て」の時を大変恐れています。

私の長男の時も3ヶ月目で、医療ソーシャルワーカーも交えて、「その後どうするか」という話し合いはありました。

私は、その頃は「遷延性意識障害からの回復例」というネットにアップされていたデータから、あちこちに連絡をとっていて、そうしたところにお世話になれればという気持ちがありました。

が、むしろ入院していた大学病院側のほうが、たんをとったり、風呂に入れたり、カニューレ(人工呼吸器の空気を入れるための管を入れる器具)を取り替えたり、ラコール(鼻の管から入れる流動食)を食べさせたりすることを身につけてからの方がいいと、私がそれを出来るようになるまで入院させてくれたので、その点は大変感謝しています。

もっとも、長男は、退院してからは植物状態から回復できたので、結局それらの手技を発揮する機会は数日で済んだのですが……。

まあたぶん、今もそれらは、その場になればできると思いますが、好き好んで覚えたわけではないので、できれば使いたくない“特技”ですね。

ということで、2000字を大きく超えてしまったので、朋之さんの“転院のピンチ”の続きは、また別の機会に書きます。

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