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『社長千一夜』世代交代意識した三木のり平、フランキー堺降板作 [東宝昭和喜劇]

『社長千一夜』世代交代意識した三木のり平、フランキー堺降板作

『社長千一夜』(1967年、東宝)を鑑賞しました。毎度おなじみの東宝社長シリーズ第26作(全33作)ですが、本作の続編(『続・社長千一夜』)をもって、長年のレギュラーだった三木のり平とフランキー堺が降板。秘書役に黒沢年男(現年雄)が抜擢され、劇中で加山雄三をPRするなど、若手への切り替えが行われつつあります。



社長シリーズは1960年代の東宝を支える人気シリーズでした。

このブログでは、当初最終話の予定だった『社長漫遊記』と本当の最終話となった『社長学ABC』についてなど、主だった作品をほぼ公開順に記事にしてきました。

今回の『社長千一夜』も、その「主だった」ひとつといっていい作品です。

この作品と続編の『続・社長千一夜』を最後に、シリーズ第一作からレギュラーだった三木のり平と、『社長洋行記』(1962年)以来、怪しげな日本語をしゃべる日系バイヤーとして登場したフランキー堺が降板するからです。

そして、これまで秘書役だった小林桂樹が開発部長に昇進し、秘書には新たに第4期東宝ニューフェイスの黒沢年男(黒沢年雄)が抜擢。地方ロケのシーンも、加東大介や小林桂樹は行かずに黒沢年男が行っています。

シリーズものはマンネリがひとつの魅力なのですが、社長シリーズは11年・26作目にして、初めて大きな設定の変更が行われたわけです。

それだけでなく、劇中で黒沢年男は、手帳に加山雄三の持ち歌の歌詞を書いたり、フランキー堺が「ぼかぁ、幸せだなぁ」とか「お嫁においで」など、やはり加山雄三の持ち歌の歌詞やタイトルを言ったりするシーンがあります。

同時上映されていた『レッツゴー!若大将』の加山雄三をPRするかのようなセリフは、長年東宝の屋台骨を支えてきた社長シリーズが、いよいよ若大将シリーズの脇に回ったような印象を受けました。

若大将シリーズと社長シリーズは、本来客層が違っていたはずですが、同時上映ということは、社長シリーズのファンを若大将シリーズのファンとして取り込みたかったのかもしれません。

こうしたシリーズものも、作品ごとにその意味付けがあるようです。

万博と天草五橋を絡めたストーリー


今回のテーマは、上映3年後に開催された大阪の日本万国博覧会でした。

その準備に追われる観光会社を舞台に、例によって大きな取引を成約させるため、そして今度こそマダムとの浮気を成功させるため、森繁久彌社長の一行が、クライアントを追いかけて東京から大阪、そして九州の大分・島原に飛びます。

開発部長が、万博をテコにした観光客誘致事業として提案したのは、大阪から別府、熊本と飛び、天草五橋を観光するプランです。

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『社長千一夜』で紹介される天草五橋

天草五橋というのは1966年に開通していますが、さっそくそれをストーリーにとり入れているわけです

ただ、資金や、宿泊客のめどがつかず、慎重派の部長(加東大介)は例によって反対し、計画は進みませんでした。

そんなとき、ブラジルの富豪(フランキー堺)が、天草に近代的なホテルを建てるので、管理できる人はいないかを探しに来ているという話を、大阪の系列ホテル支配人(三木のり平)がもってきます。

そこで、森繁社長と黒沢年男秘書は富豪のいる大阪に行きますが、社長には大阪になじみのマダム(新珠三千代)がいました。

森繁久彌社長はフランキー堺と話をつけ、さっそく大分の視察に行きます。

ただし浮気の方は例によって失敗。

そして、大分にも森繁久彌馴染みの芸者(藤あきみ)がいたのですが、フランキー堺は彼女にぞっこん。

新珠三千代も九州までやってきますが、こちらはまたしても浮気は成功しません。

フランキー堺は藤あきみにプロホーズしてこちらは成功。ホテルの建設も決まり、いつものようにハッピーエンドとなります。

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新しい時代への動きだったか


社長シリーズのマダムズというと、新珠三千代、草笛光子、淡路恵子、池内淳子のうち2人が出演していましたが、今回は新珠三千代のみ。

また、これまでは団令子や浜美枝といった若い芸者の役どころを、藤あきみが初めて担っています。

どちらかというと、お色気のともなう役は同い年の野川由美子が多かったのですが、藤あきみも女優としていつまでも飾り物ではいられないと思ったのか、今回はフランキー堺とかなり濃厚なキスシーンを行っています。

黒沢年男の抜擢といい、若い人に仕事をさせてみようという東宝側の思いが伝わってきます。

翌68年には、以前書いたように東宝はコント55号の主演映画『コント55号 世紀の大弱点』も初めて作っています。

名誉はクロサワ・三船敏郎、経営は森繁久彌や植木等(クレージーキャッツ)の作品が支えていたこの頃の東宝ですが、新しいスターを出さなければならないという危機感のようなものがあったのかもしれません。

同社が制作部門を分社化し、俳優の専属契約を解除する大ナタを振るったのはこの4年後でした。

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