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『浮雲』の高峰秀子と『男女7人秋物語』の大竹しのぶ [懐かし映画・ドラマ]

『浮雲』という高峰秀子と森雅之の主演作品を思い出しました。今日記事になった『日本映画の男優、女優ベスト10』で、その2人が1位と2位に選ばれていたからです。脚本家の鎌田敏夫氏は、同作を「戦後最高の恋愛映画」として、自らもそれを下敷きにしたと思われる『男女7人夏物語』と『男女7人秋物語』を書きました。

『日本映画の男優、女優ベスト10』というアンケート企画が、映画雑誌『キネマ旬報』の創刊95周年記念に行われたという記事を見ました。

1位三船さん、健さん4位…邦画男優ベスト10
http://www.yomiuri.co.jp/culture/20141212-OYT1T50043.html

評論家や映画人ら181人のアンケートで、男優は順に三船敏郎、森雅之、市川雷蔵、勝新太郎、高倉健、原田芳雄、松田優作、役所広司、三国連太郎、志村喬という結果が、女優は高峰秀子、若尾文子、富司純子、浅丘ルリ子、原節子、山田五十鈴、岸恵子、安藤サクラ、田中絹代、夏目雅子という結果が出たそうです。

え? と首を傾げる人も入ってますが、まあこういうのは誰を選んでも異論が出るのでそのへんの批評は措くとして、女優1位の高峰秀子は、松竹蒲田撮影所の出身で、大田区立蒲田小学校に通っていたそうです。

そして、彼女の代表作は『浮雲』(1955年、東宝)といわれていますが、その共演者が今回男優2位に入っている森雅之です。

きっと、『キネマ旬報』が今回アンケートした181人の映画評論家たちにとって、『浮雲』の評価が高かったということでしょう。

『浮雲』
『浮雲』より

脚本家の鎌田敏夫氏は、『浮雲』(成瀬巳喜男監督)のヒロインは、ひたすら男に尽くす従順な女ではない。でも女は相手の男と別れられないところが「戦後最高の恋愛映画」なのだと『来て!見て!感じて!』という自著の中で書いています。

そして、自らも「従順な女ではない。でも女は相手の男と別れられない」ドラマを書きました。

それが、『男女7人夏物語』と『男女7人秋物語』です。

がまんごっこ
『男女7人秋物語』より

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たしかに、ゆき子演じる高峰秀子は、いろいろな男性と関係を持ちながらも、森雅之との関係は切れません。

『男女7人夏物語』『男女7人秋物語』における大竹しのぶが演じる神崎桃子も、明石家さんまが演じる今井良介以外の男性と同棲しながら、結局2人はわかれませんから、一見同じキャラクターだと思います。

ただ、高峰秀子と大竹しのぶの、他の異性と関係する経緯は全く違います。

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騙されても傷つけられても相手と別れられない!?


『浮雲』のストーリーを追ってみましょう。

戦争中、タイピストとしてベトナムら渡ったゆき子(高峰秀子)は、農林省技師の富岡(森雅之)と出会い不倫の関係になります。

森雅之は結婚の口約束をするのですが、戦争も終わって帰国しても結局守られないまま2人は別れ別れに。

その後、高峰秀子が森雅之の家を訪ねて関係が復活。いったんは「もう昔の話」と突き放す森雅之に絶望し、戦後のドサクサで就職先もないことから米兵の情婦になります。

が、森雅之がまた高峰秀子を訪ね、それを拒めない高峰秀子は結局経済的には安定していた情婦生活を捨てて森雅之と旅へ。

森雅之は今度は旅先の伊香保温泉で、飲み屋で意気投合した男(加東大介)の妻(岡田茉莉子)とも簡単に混浴して関係してしまいます。

高峰秀子は森雅之の子を身ごもりますが、森雅之は岡田茉莉子に熱中していたので、かつて自分と強引に関係を結んだ義兄(山形勲)の世話になって堕胎します。

岡田茉莉子は加東大介の逆鱗に触れて殺され、さらに妻もなくした森雅之は、またさびしくなって高峰秀子のもとに戻ります。そして、高峰秀子はまたしても受け入れます。

しかし、高峰秀子は体を壊しており、森雅之の着任した屋久島で亡くなり、森雅之は死化粧を施すというラストです。

高峰秀子と大竹しのぶはどう演じたのか


高峰秀子の場合は、森雅之が好きなのに、義兄(山形勲)に強引に関係されたり、そもそも森雅之には妻がいる不倫関係でいつまでも結婚してもらえなかったり、戦後のドサクサで仕事もなく生きるために情婦になったりしており、つまり客観的に「男が悪い」と同情できる事情があります。

ところが、大竹しのぶは、そのときどきの自分の気持で動いているだけでした。

今井良介(明石家さんま)という相手がいながら、アメリカに行って別の男・けんちゃん(柳葉敏郎)と同棲。それだけでも明石家さんまを裏切っているのに、傷心のさんまがせっかく岩崎宏美演じる釣り船店の娘と関係を築いていて立ち直りつつあるところを今度は横恋慕。結局まわりを不幸にしながら明石家さんまとよりを戻すというストーリーでした。

川崎の2人
今井良介と神崎桃子が“復活”してしまうシーン、『男女7人秋物語』より

また、男性の描き方も違います。

森雅之は女性にだらしない男で、高峰秀子に対しても決して誠実ではありません。

伊香保温泉で岡田茉莉子とも簡単に関係したとき、関係を疑う高峰秀子に詰問された森雅之の言い訳がふるっています。

「寂しくて神経衰弱になってしまう(から女性を求めるのだ)」

私は思わず脱力して笑い転げてしまいました。

だはは、そこまで言うかと。それでも許すのかと。

いい年して真顔でこんなことを言う男もアレですが、そんなのと別れられない女も相当イカれてるでしょう。

男と女の関係なんてまさに弁証法の世界。一方だけが否定されるべきものではないのです。

一方、『男女……』の明石家さんまと大竹しのぶの関係は、それとは正反対でした。

明石家さんまはたしかに劇中、モテる役で多少脱線もありますが、「好きになった時は本気やないとつまらんでしょう」というのが持論で、神崎桃子に対しては一方的に振り回されている側です。

つまり、『浮雲』に比べると『男女7人秋物語』は、理不尽な側が男女入れ替わっていて、しかも、よくいえば自由奔放、悪くいえば身勝手に描かれています。

ですから、一言で述べると、

どんな王子様と結婚できるかが女の幸せという価値観の時代に、高峰秀子のような生き方は衝撃的だったと思いますが、男性のために存在する婚姻や処女性という価値観が崩れつつある1980年代後半には、大竹しのぶのように、より「主体的」な「女の非倫理」が描かれる時代になっていたということでしょう。

余談ですが、21世紀の現在では、喜多嶋舞長男“誰の子”騒動以来、寝取られ男というのが流行らしいですね。

ネットでは、リアルなのか釣り師かはわかりませんが、そういう身の上の書き込みも増えているとか。

私は以前、このブログで、「我が子が実は自分の子供じゃない、妻はどういうつもり?」という記事を書きました。どのぐらい深刻かはわかりませんが、巷間そういうケースはあるんでしょうね。

そのうち、妻が夫以外の男と子どもを作って、夫婦ともそれを承知なのに家庭生活が続く、なんていう男にとって屈辱的な作品が出てくるのも時間の問題じゃないかなあなんて思っています。

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