『喜劇駅前開運』豊田四郎が描く赤羽近代化を巡る住民闘争喜劇 [東宝昭和喜劇]
『喜劇駅前開運』(1968年、東宝)を鑑賞しました。文芸映画の巨匠といわれた豊田四郎監督作品です。たんなるドタバタではなく、社会風刺がたっぷりきいた作品に仕上がっています。今回の舞台は東京・赤羽。東北本線で上野の次にあたる小さな駅ですが、京浜東北線と赤羽線(当時山手線)の駅があり、ゴミ焼却場をめぐる住民反対運動や、東口と西口の商店街の確執など、喜劇らしからぬリアルな葛藤が描かれています。

10月に第2回蒲田映画祭(シネパラ蒲田)の様子をご紹介しました。

会場には、松竹蒲田撮影所出身の日本映画を支えた監督について、作品集や当時の作品ポスター、メディアの記事などが展示されていました。その中の一人として豊田四郎監督の展示がありました。
石坂洋次郎原作の『若い人』、林芙美子原作『泣虫小僧』、伊藤永之介原作『鶯』など文芸作品を次々撮って文芸映画の巨匠と呼ばれるようになりましたが、1958年に、まだこの頃は「喜劇」とついてはいませんでしたが駅前シリーズの第一弾となる『駅前旅館』(井伏鱒二原作)のメガホンを取りました。
その後、駅前シリーズには「喜劇」とつき、メイン監督が久松青児に代わったのですが、9年後の『喜劇駅前百年』で復帰し、本作でも社会風刺のきいた、かなり“ハイブロー”な喜劇を作り上げました。
映画ファンなら、覚えておいてほしい名監督です。
スポンサードリンク↓
東京・赤羽で、孫作(伴淳三郎)とさだ(沢村貞子)の夫婦、次郎(フランキー堺)は、東口と西口でそれぞれ商店を営んでいます。
赤羽はその頃いくつかの懸案がありました。
ゴミ処理場の住民反対運動、地下鉄誘致、東口と西口の地下道です。全て実際にあった話です。
それまで赤羽の踏切は、山手線、京浜東北線、東北本線などが通る「開かずの踏切」で、別名「宝くじ踏切(めったに開かない=当たらない)」などともいわれていました。
ゴミ処理場反対と地下鉄については住民の意見は一致していましたが、地下道については賛成派(フランキー堺)と反対派(伴淳三郎)に分かれていました。東と西の商店街は張り合っていて、伴淳三郎は客を流さずに自分のところにとめておきたかったのです。
2人とも事態打開のために地元の花村代議士(山茶花究)に陳情することになりましたが、コンサル業を標榜する徳之助(森繁久彌)が、伴淳三郎とフランキー堺の両方から金をとって山茶花究に話を通したため、「片方で火をつけて片方で消すようなもんだろう」とひんしゅくを買います。
3人にはそれぞれ金主がいます。伴淳三郎は養子で金主は妻の沢村貞子。フランキー堺には大株主として森光子がいます。森光子には時々迫られるのですが、タウン紙記者の大空真弓といい関係になりつつあります。森繁久彌の金主は、アパートの隣に住む若い金貸しの野川由美子です。
フランキー堺と伴淳三郎はお互い値下げしあって客を取り合いますが、大手メーカーの価格Gメン(小鹿敦=小鹿番、北浦昭義)が出てくるなどうまくいきません。さらに商店街には、食材を調理までしてくれる移動販売(藤田まこと)という新しいライバルまで出てきてしまいます。
藤田まことは軍隊で森繁久彌の部下だった設定。藤田まことは大阪弁で、森繁久彌は東京弁で話すのですが、実はリアルの出身は逆で、森繁久彌が大阪で藤田まことが東京なんですよね。
藤田まことは、森繁久彌の味方をしながら、町のマドンナだった染子(池内淳子)とちゃっかりいい仲になってしまい、これからというときに赤羽を去ってしまいます。
問屋の娘と称する女性(佐藤友美)も出てきます。ミンクのコートなどを半額以下の値段で売り出す話を持ちかけ、伴淳三郎もフランキー堺ものりますが、実は佐藤友美は取り込み詐欺。彼女の盗品をさばいた疑いで主役の3人と沢村貞子が逮捕されてしまいます。
「売る奴も売るやつだが買う奴も買う奴」とは警官(藤村有弘)の言い分でしたが、警官の妻の黒柳徹子も客としてそのコートを買っていたので、天唾していた藤村有弘はバツが悪くなって全員釈放されます。
山茶花究は、金を積まれたくせに結局陳情をすべて無視。ゴミ処理場が稼働することになり、責任を感じた森繁久彌は焼却場の煙突に登って命がけの抗議をします。が、野川由美子が森繁久彌の子どもを身ごもっていると聞いて「投降」。
東西商店街連合会初代会長に就任し、東西が手を組み赤羽の町をみんなで良くしようと、ゴミ焼却の黒い雨が降る夏祭りに気勢を上げて物語は終わります。
これまで喜劇駅前シリーズは、『喜劇駅前茶釜』『喜劇駅前弁当』『喜劇駅前女将』『喜劇駅前金融』『喜劇駅前団地』と書いてきましたが、ストーリーは変われどメンバーはほぼ同じ。
それが、今回は女性出演者の常連だった淡島千景、淡路恵子、横山道代に代わって、佐藤友美、野川由美子、黒柳徹子が登場しています。
淡路恵子がビンボー・ダナオと離婚して萬屋錦之介と結婚。その時点で仕事もやめたため、それを機会に女性陣を入れ替えたようです。
その中では、黒柳徹子のコメディエンヌぶりが注目すべき点でしょうか。

『喜劇駅前開運』より
今の人は、『徹子の部屋』の人、少し古くて『ザ・ベストテン』の司会の人という認識だと思いますが、昔は映画やドラマにも出ていました。
いずれにしても、今回も喜劇としてはかなりシリアスなストーリーですが、ギャグや設定で笑わせる喜劇ではなく、人間の弱さ、卑しさ、社会の厳しさなどをシニカルに描いており、いま見ても十分価値のある作品だと思います。

10月に第2回蒲田映画祭(シネパラ蒲田)の様子をご紹介しました。

会場には、松竹蒲田撮影所出身の日本映画を支えた監督について、作品集や当時の作品ポスター、メディアの記事などが展示されていました。その中の一人として豊田四郎監督の展示がありました。
石坂洋次郎原作の『若い人』、林芙美子原作『泣虫小僧』、伊藤永之介原作『鶯』など文芸作品を次々撮って文芸映画の巨匠と呼ばれるようになりましたが、1958年に、まだこの頃は「喜劇」とついてはいませんでしたが駅前シリーズの第一弾となる『駅前旅館』(井伏鱒二原作)のメガホンを取りました。
その後、駅前シリーズには「喜劇」とつき、メイン監督が久松青児に代わったのですが、9年後の『喜劇駅前百年』で復帰し、本作でも社会風刺のきいた、かなり“ハイブロー”な喜劇を作り上げました。
映画ファンなら、覚えておいてほしい名監督です。
当時の赤羽をリアルに喜劇で描く
東京・赤羽で、孫作(伴淳三郎)とさだ(沢村貞子)の夫婦、次郎(フランキー堺)は、東口と西口でそれぞれ商店を営んでいます。
赤羽はその頃いくつかの懸案がありました。
ゴミ処理場の住民反対運動、地下鉄誘致、東口と西口の地下道です。全て実際にあった話です。
それまで赤羽の踏切は、山手線、京浜東北線、東北本線などが通る「開かずの踏切」で、別名「宝くじ踏切(めったに開かない=当たらない)」などともいわれていました。
ゴミ処理場反対と地下鉄については住民の意見は一致していましたが、地下道については賛成派(フランキー堺)と反対派(伴淳三郎)に分かれていました。東と西の商店街は張り合っていて、伴淳三郎は客を流さずに自分のところにとめておきたかったのです。
2人とも事態打開のために地元の花村代議士(山茶花究)に陳情することになりましたが、コンサル業を標榜する徳之助(森繁久彌)が、伴淳三郎とフランキー堺の両方から金をとって山茶花究に話を通したため、「片方で火をつけて片方で消すようなもんだろう」とひんしゅくを買います。
3人にはそれぞれ金主がいます。伴淳三郎は養子で金主は妻の沢村貞子。フランキー堺には大株主として森光子がいます。森光子には時々迫られるのですが、タウン紙記者の大空真弓といい関係になりつつあります。森繁久彌の金主は、アパートの隣に住む若い金貸しの野川由美子です。
フランキー堺と伴淳三郎はお互い値下げしあって客を取り合いますが、大手メーカーの価格Gメン(小鹿敦=小鹿番、北浦昭義)が出てくるなどうまくいきません。さらに商店街には、食材を調理までしてくれる移動販売(藤田まこと)という新しいライバルまで出てきてしまいます。
藤田まことは軍隊で森繁久彌の部下だった設定。藤田まことは大阪弁で、森繁久彌は東京弁で話すのですが、実はリアルの出身は逆で、森繁久彌が大阪で藤田まことが東京なんですよね。
藤田まことは、森繁久彌の味方をしながら、町のマドンナだった染子(池内淳子)とちゃっかりいい仲になってしまい、これからというときに赤羽を去ってしまいます。
問屋の娘と称する女性(佐藤友美)も出てきます。ミンクのコートなどを半額以下の値段で売り出す話を持ちかけ、伴淳三郎もフランキー堺ものりますが、実は佐藤友美は取り込み詐欺。彼女の盗品をさばいた疑いで主役の3人と沢村貞子が逮捕されてしまいます。
「売る奴も売るやつだが買う奴も買う奴」とは警官(藤村有弘)の言い分でしたが、警官の妻の黒柳徹子も客としてそのコートを買っていたので、天唾していた藤村有弘はバツが悪くなって全員釈放されます。
山茶花究は、金を積まれたくせに結局陳情をすべて無視。ゴミ処理場が稼働することになり、責任を感じた森繁久彌は焼却場の煙突に登って命がけの抗議をします。が、野川由美子が森繁久彌の子どもを身ごもっていると聞いて「投降」。
東西商店街連合会初代会長に就任し、東西が手を組み赤羽の町をみんなで良くしようと、ゴミ焼却の黒い雨が降る夏祭りに気勢を上げて物語は終わります。
女性出演者が一部交代
これまで喜劇駅前シリーズは、『喜劇駅前茶釜』『喜劇駅前弁当』『喜劇駅前女将』『喜劇駅前金融』『喜劇駅前団地』と書いてきましたが、ストーリーは変われどメンバーはほぼ同じ。
それが、今回は女性出演者の常連だった淡島千景、淡路恵子、横山道代に代わって、佐藤友美、野川由美子、黒柳徹子が登場しています。
淡路恵子がビンボー・ダナオと離婚して萬屋錦之介と結婚。その時点で仕事もやめたため、それを機会に女性陣を入れ替えたようです。
その中では、黒柳徹子のコメディエンヌぶりが注目すべき点でしょうか。

『喜劇駅前開運』より
今の人は、『徹子の部屋』の人、少し古くて『ザ・ベストテン』の司会の人という認識だと思いますが、昔は映画やドラマにも出ていました。
いずれにしても、今回も喜劇としてはかなりシリアスなストーリーですが、ギャグや設定で笑わせる喜劇ではなく、人間の弱さ、卑しさ、社会の厳しさなどをシニカルに描いており、いま見ても十分価値のある作品だと思います。
Facebook コメント