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菅原文太を偲び、『仁義なき戦い』と『トラック野郎』を思い出す [懐かし映画・ドラマ]

菅原文太が亡くなったという話題で持ちきりです。10日ほど前には、その主語が「高倉健」でした。自分が子供の頃、主演映画に出演していた人が次々亡くなるのは寂しいですね。しかも、高倉健の時に書いた『神戸国際ギャング』には、菅原文太も出演。追悼作品まで重なってしまいました。晩年は脱原発やエコ農業など俳優活動以外で話題になりましたが、この記事では俳優菅原文太の作品を思い出します。

神戸国際ギャング

神戸国際ギャング
昨年は『仁義なき戦い』上映40周年でした。『東京スポーツ』(2013年1月8日付)より

菅原文太については過去、このブログは『仁義なき戦い』と『トラック野郎』について書きました。

『トラック野郎』と鈴木則文監督
『アサヒ芸能』(2014年6月12日号)より

『トラック野郎』は、鈴木則文監督がメガホンをとった、実録路線の東映にはめずらしい労働者喜劇でしたが、マドンナが出てきてフラれる展開は、松竹の『男はつらいよ』と重なるものがありました。

『男はつらいよ知床慕情』

ただ、菅原文太演じる星桃次郎は、渥美清演じる車寅次郎に比べると、より直截な描き方をされていました。

簡単に言うと、下世話で下品ということです。

渥美清演じる寅さんは、好きな女性ができると、急に御前様と悟ったような話をしたり、本を読み出したりと“人が変わる”のですが、だからといって自分がテキ屋であることを隠したり足を洗ったりはせず、その“片恋”の終わり方も、決して深追いをしません。

はっきりダメ出しをされたのは、48作の中ではまだ寅次郎が比較的若い40代前半の頃の若尾文子ぐらいではないでしょうか。

浅丘ルリ子や八千草薫などは、もううひと押しすればハッピーエンドになったでしょう。

車寅次郎は、本当は女性と所帯を持とうと本気で考えていなかったのではないか、という気もします。

一方、星桃次郎は、誰が見てもトラック野郎まるわかりなのに、恋した女性の前では口から出任せで職業を偽ります。

そんなことをしたって、相手とは長続きしないと思うのですが、一事が万事、そういう単細胞ぶりで、面白くない成り行きになるとあとはお決まりの喧嘩です。

それも、車寅次郎は寸止めですが、星桃次郎はまさに暴力です。

私もリアルタイムでは、『男はつらいよ』に比べて『トラック野郎』には、品も美学もないなんて生意気なことを感じていましたが、今は少し考え方が変わりました。

鈴木則文監督は本来文芸作品を撮れる人。菅原文太もモデル出身で、それこそ「品」なら誰にも負けないでしょう。

その“美しい”コンビが、松竹と横並びではなく、あえてそんな「ゲス」なものを撮ったというところに、意味や意義を見出したいと思うようになったのです。

当時の観客も、車寅次郎を美しいとは思いつつも、どこか満足しきれなかった人が、星桃次郎に快哉を叫んでいたのではないでしょうか。

弁証法的にいえば、車寅次郎が星桃次郎を誕生させ、一方で星桃次郎が車寅次郎をさらに光らせたのだと思います。

ヒーローのいない実録群像劇を確立


現在私の手元にある菅原文太主演作品は、『仁義なき戦い』シリーズの5作と、『新仁義なき戦い』シリーズの3作です。

『仁義なき戦い』

『仁義なき戦い』シリーズとは、広島・呉のヤクザの手記を飯干晃一氏がノンフィクション小説にまとめたものが原作といわれますが、作品中の登場人物名はすべて変えています。

それまで、東映の任侠映画は、鶴田浩二高倉健が主演で敵を討ち取るヒーロー的な描き方でした。

が、『仁義なき戦い』では群像劇といって、複数の登場人物のドラマによって進行する物語の形式をとり、かつヤクザを一面的なヒーローとしてではなく、裏切りのような弱さや抗争の残酷さなどもリアルに描く「実録物」と呼ばれる新しい描き方を確立しました。

そして、『新仁義なき戦い』シリーズとは、『仁義なき戦い』シリーズ5作が好評だったため、引き続き深作欣二監督、菅原文太主演で撮ったものです。

『新仁義なき戦い』(1974年)『新仁義なき戦い 組長の首』(1975年)『新仁義なき戦い 組長最後の日』(1976年)などです。

『新仁義なき戦い』は、『仁義なき戦い』と原作は同じですが、菅原文太の弟分の視点から描いています。

あとの2作は、実録の装いですが創作です。それぞれ福岡と関西が舞台です。

しかし、『仁義なき戦い』シリーズ5作があまりにも強烈過ぎて、個人のマニアブログでは「新」の3作を「蛇足」なんて酷評しているものもありますね。

たとえば、『新仁義なき戦い 組長最後の日』は、もともと極道の世界には興味がなく“正業”に励んでいた菅原文太が、多々良純演じる親分がヤラれたことで任侠道に目覚め、敵対する組長(小沢栄太郎)を狙う話です。



高倉健時代の任侠映画に戻ったようなスッキリしたストーリーですが、『仁義なき戦い』シリーズ5作にあったような、1人の人間としての弱さや葛藤のようなものを感じる機会は少なかったので、蛇足とまではいいませんが、作品の完成度としてはいささか物足りないように感じるかも知れません。

その後、菅原文太はテレビドラマにも出演しますが、正直、私の価値観としては、広能昌三や星桃次郎に勝るものはなかったような気がします。

小林旭が頑としてテレビドラマに出演せず、高倉健も成功したとはいえず、石原裕次郎も『太陽にほえろ!』の出演を渋ったというほど、映画スターのテレビドラマ“転向”はむずかしいのでしょうか。

菅原文太さんの生前のご遺徳をお偲び申し上げます。

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