吉田日出子がきょう、キーワード急上昇です。理由は、スポーツ紙に掲載された「記憶障害」の報道。台詞も覚えられなくなったことを自著で告白しているというのです。原因は高次脳機能障害。ネットの一部では認知症と混同しているコメントも見受けられます。高次脳機能障害と認知症は違うのですが……。
『奇々怪々 俺は誰だ?!』(1969年、東宝・渡辺プロ)より
コメントが山ほど付いたヤフーのニュースは、『吉田日出子「せりふ忘れ、道に迷い」記憶障害だった』(『日刊スポーツ』11月28日5時12分配信)というタイトル。
http://headlines.yahoo.co.jp/cm/main?d=20141128-00000004-nksports-ent&s=lost_points&o=desc&p=5
この報道をもって、
高次脳機能障害というものを「初めて知った」という書き込みもあります。
そして、「健忘」を連想したからか、「認知症」を前提とした同情、ひどいのは絶望視するようなコメントも一部にはあります。
吉田日出子が、『私の記憶が消えないうちに』という書籍を出したことも、そうした“あわれむ”コメントになっているのでしょう。
でも、ニュースでは、「診断の結果、脳の前頭葉に傷が見つかり、高次脳機能障害と判明した」と書かれています。
認知症とはどこにも書かれていません。
マスコミはときどき正式な病名を間違えることもあるし、吉田日出子側が認知症であることを隠した可能性が絶対にないとも言えませんが、この報道を額面通り受け取るなら、認知症とは違います。
認知症は、主に加齢(とくに後期高齢者)が原因で不可逆的に脳の器質的障害が進んでいくものです。
高次脳機能障害は、脳の一部が何らかの原因で損傷を受けたもので、それは進行するものではなく、むしろ回復を目指すものです。
吉田日出子が、どうして前頭葉の一部を損傷したのかわかりませんが、高次脳機能障害は損傷の部分によって、残っている機能や弱くなった機能が変わってきます。
予後は180度、とまでは言いませんが、少なくとも家族の思う将来や、患者本人への対応は、高次脳機能障害と認知症では違ったものになります。
医学が発達していない頃は、脳卒中などで高次脳機能障害になった高齢者は、脳血管性認知症と呼ばれ、要するに認知症も高次脳機能障害もいっしょくたにされていました。
それが、おそらくは高次脳機能障害の人にもっとも適切なリハビリの機会を逸していたであろうことは想像に難くありません。
吉田日出子のような70歳の女性の高次脳機能障害が、認知症になりやすい因子になるのかどうか、ということは医学論文を探したこともない私には全くわかりません。
かりにそのような因子になり得たとしても、吉田日出子は認知症ではない、というのなら、認知症の前提でコメントを書き連ねるのは不毛だし、高次脳機能障害や認知症の人びとに対しても失礼ではないでしょうか。
高次脳機能障害はもちろん、認知症にしても、高齢でなくても、つまりだれでもなり得るものです。ですから、正しい認識を持つことは自分のためでもあるのです。
高次脳機能障害については以前、
3度脳卒中などで倒れたのに社会復帰した山田規畝子さんのことを書きました。
合わせて、いったんは“植物人間”(遷延性意識障害)と診断されながらカムバックした私の長男のことも触れています。
JCS300と診断された事故直後
一方、コメントの中には、なるほど、と思うこともありました。
くも膜下出血の後遺症で高次脳機能障害と診断されたという人の記憶障害対策です。引用します。
現在は、スマホやタブレットに必要と思われる事柄を全て記録して、手持ちのすべての端末で閲覧出来るようにエバーノートで共有しています。
電車内でスマホばかり弄ってる人たちを見ると「全く最近の若いのはスマホばかり弄って!」と思われるかもしれませんが、こういう使い方もあるんですよね(ヤフーニュースより)
電車の中で端末をいじっている人のすべてを苦々しく思うのは一面的な見方である、ということです。これは教えられました。
まあほとんどの人は、
中川淳一郎氏が『ネットのバカ』(新潮社)で戒めている、たんなるネット依存症なんでしょうけどね。
高次脳機能障害の人びとの希望になってほしい
吉田日出子は、『奇々怪々 俺は誰だ?!』(1969年、東宝・渡辺プロ)に出演したことを以前書きました。
『奇々怪々 俺は誰だ?!』を谷啓さんの祥月命日に思い出す
吉田日出子というと、桃井かおりとはまた別の意味で、一風変わった人のようなキャラクターをイメージされがちですが、私から見ると、トンでるというよりむしろ素朴であるがゆえに、変わっているように見える人ではないかなと思います。
『奇々怪々 俺は誰だ?!』で演じた種村百合子はよかったなあと思います。
吉田日出子が、適切なリハビリと周囲の人びとの理解によって、また第一線に出てこれる日を待ちたいと思います。
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