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『社長行状記』東野英治郎の笑顔は初代水戸黄門へ [東宝昭和喜劇]

『社長行状記』(1966年、東宝)を鑑賞しました。東宝昭和喜劇を支えた森繁久彌主演社長シリーズの24作目です(全33作)。今回はいつになく展開がシビアでしたが、ストーリーの鍵をにぎる東野英治郎の笑顔で東宝映画らしいハッピーエンドとなりました。人気時代劇『水戸黄門』における“ご老公”の笑顔がそこにはありました。

社長行状記ポスター
DVD『社長行状記』解説より

社長紳士録』『続・社長紳士録』(ともに1964年)で終了する予定だった社長シリーズは、全国の映画館主やファンの要望で1965年以降も作られることになりました。

しかし、いったん終わりにしたものを復活させるのは、作る側にとっては不安もあります。

前と同じものを作ったら、せっかく復活したのに飽きられてしまうかもしれないと。

そこで、復活第一作の『社長忍法帖』『続・社長忍法帖』(1965年)は、設定を変えて、取引先の怪しい日系バイヤー役だったフランキー堺を森繁久彌の会社の社員に変更。

そして、本作の『社長行状記』では、また怪しい日系人に戻すなど、試行錯誤が見られます。

また、『社長行状記』のストーリーは、いつになくシビアなものでしたが、その点は僧侶でもある松林宗恵監督が求めた「人の和」にょって温かい結末になっています。

ネタバレ御免のあらすじ


今回は既製服メーカー・栗原サンライズが舞台。例によって社長が森繁久彌、常務が加東大介、営業部長が三木のり平、秘書課長が小林桂樹です。

そして、栗原サンライズに品物を卸している会社の社長が東野英治郎、栗原サンライズが契約したい一流フランスブランドの日本支配人がフランキー堺、大手販売者である名古屋のデパートの社長が山茶花究。マダムズは芸者が池内淳子、ホステスが新珠三千代と、いつものメンバーでいつもの設定ですが……

33作ある社長シリーズの他の作品は、いかにして得意先と契約をまとめるか、という生産的な話でしたが、今回は栗原サンライズが経営難で、もっぱら金策に東奔西走します。

しかも、森繁久彌社長や小林桂樹秘書課長は弁解が得意でないため誤解され、今回は妻の久慈あさみや司葉子が夜遅くまでフランキー堺と遊び歩くという、いつもと反対のヨロメキの展開まであります。

ただ、やはり社長シリーズは喜劇ですから、森繁久彌の“色気”と失敗談が不可欠です。

金策で困っているくせに、電車の中で隣席の女性の脚を見て、またしても助平心を起こした森繁久彌。

顔をハンカチで隠している女性が「気分が悪い」というと、人払いをして自分一人で介抱しようと張り切ります。

ところが、ハンカチをとると、その女性は若作りした老婆(飯田蝶子)でした。

しかし、その「親切」が事態を変えました。

老婆は取引先の名古屋のデパートの会長だったのです。息子である社長(山茶花究)に「お金を貸しておあげなさい。これは会長命令です」と鶴の一声が。

帰社すると、次の一山がやってきます。

フランキー堺が、栗原サンライズとの契約に即金で6000万を要求。それは、森繁久彌社長らが、東野英治郎に不渡りを出さないようにかきあつめた、回収金や融資などの合計と同額です。

そこで森繁久彌は、東野英治郎宅に直接6000万円を持参。そこでいったん支払いをした上で、改めてその金を貸してくれと頼みます。

東野英治郎はニッコリ笑って承諾。栗原サンライズは無事、1966年の正月を迎えるというハッピーエンドの結末です。

シビアなストーリーにホッとさせる笑顔


この映画のポイントは、東野英治郎(1907年9月17日~1994年9月8日)の笑顔です。

東野英治郎は、言わずと知れたテレビドラマ『水戸黄門』の初代黄門様です。

大学在学中からブロレタリア演劇など左翼活動にシフトしたことで、戦時中は苦労したようですが、その後は俳優座創設者、そして俳優座劇場の取締役と、現場とフロント両面に君臨する新劇界の大御所にのぼりつめました。

過去の出演実績は、会社の会長や政治家役もあれば、黒澤明監督の『天国と地獄』における町工場のオヤジなど、何を演じてもサマになる人でしたが、いわゆる東宝昭和喜劇では、もっぱら悪人や目の上のたんこぶ役など、敵役や憎まれ役を演じてきました。

たとえば、社長の事故死の遠因を作りながら後任の社長に乗り込んできたり(『サラリーマン忠臣蔵』1960年)、社員と自分の娘の結婚に反対する会社の会長(『日本一のゴマすり男』1965年)であったり、いったん勇退を決めて子会社の社長に任せると言ったのに、子会社の株主総会も終わってからも社長に居座ったり(『社長学ABC』1970年)するイヤな奴を好演しました。

そして、今回の『社長行状記』でも、取引先である森繁久彌社長の会社の経営が危ないと知ると、再三電話で催促を繰り返しました。

クライマックスは、森繁久彌社長がまた融資を頼むところ。

本作が始まってから、それまでずっと怖い人だった東野英治郎が、

社長行状記で怖い東野英治郎
『社長行状記』より

ニコッと笑います。

社長行状記でニコッと笑う東野英治郎
『社長行状記』より

これで、それまで重かった作品の“重石”がとれたような解放感を、劇中の森繁久彌だけでなく、観客も感じることになります。

本作がシビアだったのは、この瞬間のためだった、といってもいいほどです。

いつもニヤけている人の笑顔ではないから価値があるわけです。

おそらくは、この笑顔が、3年後の1969年から始まるテレビドラマの『水戸黄門』における東野英治郎起用につながったのではないかと私は勝手に推測しました。

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社長行状記 (1966年)

社長行状記 (1966年)

  • 作者: 笠原 良三
  • 出版社/メーカー: 青樹社
  • 発売日: 1966
  • メディア: -


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