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『コント55号世紀の大弱点』一時代を築いた爆笑コンビの初主演作 [東宝昭和喜劇]

『コント55号世紀の大弱点』(1968年、東宝)を収録した分冊百科『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(Vol.41、講談社)が発売されたのでさっそく鑑賞しました。当時売り出し中のコント55号主演第一作目。チャップリンを尊敬した喜劇役者志望の“タレ目”の萩本欽一と、歌手になれずコントを行っていた“ちっこい目”の坂上二郎のコンビです。

コント55号のネタの殆どは、市井の人である坂上二郎が、無茶な要求をする萩本欽一に振り回されるというパターンでしたが、そのぶちゃぶりと、ご両人の派手なオーバーアクション、そして坂上二郎の受けの巧さが大爆笑につながりました。

一見、萩本欽一が坂上二郎に突っ込んでいるように見えますが、よく見ると、実は萩本欽一がボケるネタ振りをして、ツッコミが坂上二郎なんですよね。

役回りが正反対に見えてしまうのは、ご両人の芸の力によるものだと思います。

コント55号については、このブログの「コント55号の爆笑コントはどこから生まれたか」で書いた通り、2人は激しいライバル意識をお互いに持っていたので、そうした役回りを越えるパワーを発揮したのでしょう。

コント55号世紀の大弱点
『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(Vol.41、講談社)より

さて、今作ですが、製作は、植木等初主演の『ニッポン無責任時代』(1962年、東宝)を手がけた安達英三朗。

脚本は、やはり同作を手がけた松木ひろし。

ニッポン無責任時代
『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(Vol.2、講談社)より

ご存知、人気テレビドラマであった石立鉄男主演ドラマシリーズ(1971年~1977年、ユニオン映画、日本テレビ)のメインライターです。

「チャンネルNECO」より
「チャンネルNECO」より

監督は、コント55号より一足早く主演映画シリーズが作られていたザ・ドリフターズ映画の『ドリフターズですよ!前進前進また前進』(1967年、東宝)『ドリフターズですよ!冒険冒険また冒険』(1968年、東宝)『ドリフターズですよ!全員突撃』(1969年、東宝)などのメガホンをとった和田嘉訓です。

ドリフターズですよ!全員突撃

東宝昭和喜劇を支えたクレージー映画、社長シリーズが興収に陰りを見せ、喜劇駅前シリーズはこの年に終了しました。

コント55号を、クレージーキャッツ、ザ・ドリフターズに続く東宝昭和喜劇映画シリーズの新しい柱に、という期待が込められていたことがわかります。

ネタバレ御免のあらすじ


週刊誌の記者・矢島周作(萩本欽一)と、カメラマンの北川洋太(坂上二郎)は、作家の竹村(由利徹)から原稿をもらうことができず、編集長(天本英世)にいつも叱られています。

萩本欽一は、作家志望で家出して原稿を書いている赤石銅幹(上田吉二郎)が、その妻(曽我町子)に見つかってもみ合っているうちに落としたボツの持ち込み原稿を拾い、山吹咲代と架空の作者名を付けて「これを代わりに」と天本英世編集長に提出。

その原稿が通ってしまったので、表向き「山吹咲代」はバーのホステス(水垣洋子)に急遽なってもらい、上田吉二郎に原稿は引き続きゴーストライターとして書いてもらうことになりました。

曽我町子といえば初代オバQ、水垣洋子は『鉄腕アトム』のウランの声で当時知られていました。考えてみたらすごいキャスティングです。

私は当時、曽我町子にファンレターを出したこともありましたね。

ストーリーに戻ると、作品はどんどんヒット。「山吹咲代」の存在を怪しむライバル社の記者(真理アンヌ)、「山吹咲代」に近づいて甘い汁を吸おうとしたロック歌手(内田裕也)が登場します。

内田裕也の策略で、「山吹咲代」の居所がわからなくなったコント55号は、探しているうちに裏社会の女(三浦恭子)に刑事と間違えられて監禁されますが、たまたまとなりの部屋にいた水垣洋子が、2人が逃げ出すまでの一部始終を見ていてそれを原稿にまとめ、彼女は名義だけでなく自力で賞をとってしまいます。

そして、真理アンヌと内田裕也もいつの間にか仲良くなってしまい、コント55号の2人はまた天本英世に怒鳴られながら週刊誌のトップ屋暮らしに戻るというストーリーです。

萩本欽一のナイーブさは松竹向きだった!?


私はこの当時、父に連れられて蒲田松竹や蒲田東宝などで、コント55号主演映画を見て、「こんなにおもしろい映画が、そしてこんなに面白いタレントがいたのか」と思いました。

当時の映画館も爆笑の連続だったことを覚えています。

ただし、それはこの作品ではありませんでした。

コント55号の出演歴を見ると、最初こそ東宝に出ていましたが、先日このブログでも記事にした『こちら55号応答せよ!危機百発』(1970年)など、次第に松竹にシフトしていきました。

それは、何となくわかるような気がしました。

脚本も、今作の『コント55号世紀の大弱点』と『こちら55号応答せよ!危機百発』を比べると、後者のほうがよく出来ていると思います。

『こちら55号応答せよ!危機百発』は、主役の萩本欽一が、“人に尽くして自分は損をする切ない人間”として描かれており、それがウェットな松竹喜劇の「文化」に合っていた秀作だと思います。

ところが、今作の『コント55号世紀の大弱点』は、まだ初主演で、彼らをどう転がすべきか戸惑っていたような感じを受けました。

何となく彼らにドタバタさせて、かといってこれといったどんでん返しも謎も何も残らない、東宝らしさが悪く出てしまったような展開でした。

最近出演した爆笑問題のラジオ番組で、松木ひろし氏は、「2枚目のカラッとした喜劇をやりたかった。渥美清はウェットだからちょっと違う」と、石立鉄男主演のホームコメディのコンセプトを語っていました。

植木等などはまさにそれにあたると思いますが、萩本欽一は“松木ひろしが東宝映画で描くキャラクター”とは少し違ったのかもしれません。

別の見方をするなら、もしそのまま、萩本欽一が司会やバラエティーに行かずに、役者として松竹映画に出続けていたら、渥美清とはまたタイプの違った喜劇役者が生まれていたかもしれません。

映画会社や脚本家や撮影した時期によって、同じタレントが主演していても作品のイメージはだいぶかわるものなんだなあと思いました。



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