『クレージーのぶちゃむくれ大発見』(東宝、1969年)を収録した『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(Vol.40)が発売になりました。全50巻の分冊百科もいよいよ残り10巻。過半数の28作を収録予定の東宝クレージー映画も残り3作となりました。映画出演2作目の中山麻里がブレイクした作品と言われています。
時の移ろいというのは無情といいますか、今の若い世代は、中山麻理といっても、三田村邦彦とさんざんもめた挙句離婚をして、眉間にシワが残る怖い女の人、というイメージが強いのではないでしょうか。
しかし、『クレージーのぶちゃむくれ大発見』公開当時は、イギリス人の祖父をもつ、スタイル抜群の有望な女優だったのです。
東宝に所属していたことから、この映画公開の10ヶ月後に『サインはV』に抜擢されたことも『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』では紹介されています。
でも、『サインはV』の中山麻理は、立木大和から早々にライバルチームのレインボーに移籍してしまい、どちらかというと、范文雀の方が印象が強くなってしまいましたけどね。
それはともかく、東宝クレージー映画も8年目となり、植木等のヒーローぶりだけでストーリーを運ぶのはむずかしくなってきたようです。
本作はクレージーの映画ですが、中山麻理が従来のヒロイン以上に重要な役割を与えられています。
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ネタバレ御免のあらすじ
花川戸(ハナ肇)は課長のイスを賭けて、コンピューターの売込中である東西電気の社員。
お気に入りのホステス(中山麻理)に入れあげているのと商談とで、高級クラブに得意先を接待していたが、決まりかけていたコンピュータの発注は、政界の黒幕・鬼熊(東野英治郎)をバックにもつ商売敵に逆転負け。
実は、これは東野英治郎が暗躍した汚職が絡んでいたが、とにかく発注に失敗したことで、高級クラブの接待費は部長(人見明)から経費扱いを却下されてしまう。
すると、催促に来たクラブ支配人の植村浩(植木等)は、会社の頭脳となっているコンピュータの管理者(谷啓)に、コンピュータが支払いをする解を出すよう談判。
谷啓はそれを断ったが、間違えて中山麻理の口座を、会社のすべての支払の振込先にしてしまう。
そこで3人は慌てて中山麻理のアパートを訪ねると、彼女は死んでいた。谷啓は彼女に人工知能を移植して蘇生。3人は彼女を教育してスターに仕立て、彼女のマネジメントで暮らす。
ある日、ロケ現場でクラブのママに声をかけられた中山麻理は、失った自分が蘇生する前の記憶をたどるべく、仕事に穴を開けてそのクラブへ向かう。
そこで彼女を見てびっくりしたのは、東野英治郎と、彼女に手を下したギャング(桐野洋雄)。
東野英治郎が暗躍したコンピュータ汚職を、東野英治郎のお気に入りだったホステス時代の中山麻理が知っていてゆすったため、ギャングが手を下したのだった。
ゆする根拠となった彼女の聞き取りメモを巡って、クレージー一団とギャング団のホテルの女湯や遊園地の観覧車などで派手な追いかけっこ。
結局、ギャングは捕まり汚職も公然となって、植木等と中山麻理は結婚。クレージー一団は新たによろす相談業を開業するという東宝らしいハッピーエンド、というのがストーリーです。
クレージーキャッツはもちろんメンバー総出演です。
ポイントは「ぶちゃむくれ」というタイトル
タイトルの「ぶちゃむくれ」。聞きなれない言葉ですが、『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVol.40』にはこう書かれています。
「ウルトラ(超)のさらに上を行く最新語、と宣伝文にあるが、定着しなかった」
この書き方では、本作から登場した新造語のようですが、クレージーに詳しいあるサイトでは、その5ヶ月前に、『ぶちゃむくれ東京!』(東京12チャンネル、現・テレビ東京)という番組があったことを発見しています。
http://crazy.yabunirami.org/log/log/eid83.html
また、私の記憶では、映画公開の5年後に、『ブチャバカ大爆笑!!』という時代劇コメディが日本テレビ(読売テレビ)で放送されていました。ちなみに、この番組の出演者は、今回の『クレージーのぶちゃむくれ大発見』に出演していたなべおさみやハナ肇が出演しています。
ですから、「ぶちゃむくれ」は新造語ともいえないようです。
「ぶちゃ」は定着しませんでしたが、今は「メチャ」といったところでしょう。
メチャうまい、とか言いますからね。
定着しなかった理由は、要するに、タイトルと作品の中身が一致せず(つまり作品のインパクトが弱く)、言葉が人びとに強烈に刷り込まれなかったということだと思います。
東宝クレージー映画シリーズでは、以前もこうした耳慣れない言葉を使った作品がありました。
このブログの「
『日本一のゴリガン男』でセールスマンが元気になる!?」で書いた、『日本一のゴリガン男』(1966年、東宝)がそうです。
wikiは、「ゴリガン」を「御利願」のことと説明していますが、作中では「合理化」「ゴリ押し」など、的確な判断を下すハッスル社員という意味で使っています。
こちらは、ストーリーや、役の日本等(ひのもとひとし)のキャラクターにもピッタリハマり、イケイケすぎて私にとってはちょっと苦手だった古澤憲吾監督作品としても傑作だったと思います。
植木等は、その作品でブルーリボン賞の大衆賞を受賞しました。
まさに、植木等がピークだった頃です。
そこから3年後に、今回の『クレージーのぶちゃむくれ大発見』が公開されました。
まず、ストーリーが、「ウルトラ(超)」というほどのスケールを感じませんでした。
大観覧車によじ登った追跡劇など、作品としては見せ場もあるしそこそこの出来です。
ただ、古澤憲吾監督はイケイケの作品作りをしてきたため、次々エスカレートしていかないと、観る者は物足りなさを感じてしまうのです。
正直、この程度なら、この3年前に公開された『大冒険』で、高層ビルから落ちても電線にぶら下がってから降りるという植木等のサーカス芸(もちん特撮ですが)を見てしまうと、新たな興奮はありません。
東宝クレージー映画も8年目に入り、その点で行き詰まりがあったかもしれません。
また、本作のストーリーでは、「ぶちゃむくれ」たのは中山麻理であり、植木等やハナ肇や谷啓は、彼女を教育した「名伯楽」としての役どころです。
とりわけ、「無責任男」「日本一男」として、シリーズで自らが強烈な個性を見せてきた植木等が、自身が「ぶちゃむくれ」るのではなく、新人女優の「名伯楽」にまわったところが、このシリーズがすでに終焉への始まりだったことをあらわしているのかもしれません。
車寅次郎のマドンナへの片思いがストーリーの核だった『男はつらいよ』も、晩年の数作は甥の満男と後藤久美子の純愛をサポートする話になってしまいました。
渥美清が健康を害して動けなくなってきたことが理由らしいですが、今回のクレージー映画も、植木等の加齢が背景にあったのかもしれません。
『日本一のゴリガン男』から3年。
この間、植木等は30代から40代になっていました。
「スーダラ節」「無責任」「お呼びでない」など、次々流行語を生み出してきた植木等の神通力が引退に向かう寂しさを感じたのは私だけでしょうか。
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