『こちら55号応答せよ! 危機百発』(1970年、松竹)という映画を鑑賞しました。「55号」というのは、当時売り出し中のコント55号(萩本欽一、坂上二郎)のことです。松竹の看板女優だった倍賞美津子や、パーマヘアになる前の石立鉄男のほか、フランキー堺、上田吉二郎、財津一郎、由利徹、石井均ら当時の喜劇映画ではお馴染みのメンバーも出演。見ていてホッとする“古き良き昭和時代の喜劇”です。
今の若い世代では、コント55号というコンビ名はもちろん、冠番組のない
萩本欽一や、すでに鬼籍に入った坂上二郎という個々の名前でもピンと来ないかもしれませんね。
1960年代~70年代前半にかけて、テレビ受けする躍動的なコントで笑いにひとつの時代を作った人気コンビです。
コント55号がどうやって頭角を現してきたかは、以前このブログで書きました。
コント55号の爆笑コントはどこから生まれたか
そのコント55号が認められて、映画の主演に抜擢されたのです。
コント55号主演の映画は、60年代後半~70年代前半に10作以上公開されていましたが、最初は東宝と松竹から公開されていて、70年代に入ってからはもっぱら松竹の配給で公開されています。
そのひとつが今回の『こちら55号応答せよ! 危機百発』です。
いつもこのブログでご紹介している『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』は、今月の下旬号からコント55号主演映画を発売しますが、比較するという意味もあって、その前に今回の『こちら55号応答せよ! 危機百発』の方を見ておこうと思いました。
ネタバレ御免のあらすじ
萩本金助(萩本欽一)と静子(長山藍子)は中学の同級生。金助は静子に恋焦がれるものの、静子は卒業後、定年で帰郷する警察官の父親(フランキー堺)とともに鹿児島に。
父親が院長をつとめる少年院で模範院生だった蟹形平次郎(坂上二郎)は、院長が亡くなると強引に静子にプロポーズ、結婚してしまいます。
冒頭のシーンから長山藍子がセーラー服で登場。当時29歳ですが頑張りました。一方の萩本欽一(やはり当時29歳)の詰め襟姿はあまり違和感なし。若く見える人なのかもしれません。
金助は、静子の「警察官が理想」という言葉を受けて警察官(捜査課見習い)に。そこですでに刑事になっていた蟹形平次郎とコンビを組むことになります。
追っているのは、ヤクザの抗争で三日月組代貸(財津一郎)を怪我させた血桜組(上田吉二郎)の若い衆・修一(石立鉄男)。
金助は自分の立場を隠して、修一の妹・マユミ(倍賞美津子)から、修一の情報や恋人・悦子(珠めぐみ)の存在について聞き出し、悦子の働くラーメン店(由利徹・桜京美)で住み込みで働きながら修一を待ちます。
この頃、松竹にとって倍賞美津子は、東宝でいうと浜美枝や若林映子をさらにスケールアップしたような存在だったんでしょうね。ツイッギー的なスマートさではありませんが、ミニスカートをはいての堂々たる演技は観る者を魅了、というより圧倒します。
ストーリーに戻ると、その後、あることで犯人を逮捕したことがきっかけで金助は、上司(石井均)から蟹形が署内のお荷物だったことを打ち明けられたり、警察の人間であることがバレてマユミと絶交状態になったり、静子が蟹形と結婚していたことを知ったりします。
いったんは、ヤケになって警官をやめようとした金助ですが、静子に夫を支えてくれと言われて翻意。蟹形も鬼になりきれず、修一を捕まえるチャンスがあっても見逃してしまいます。
しかし、修一は結局自首をして蟹形平次郎は「お荷物」の汚名返上。仕事が終わった金助は寂しく一人酒を飲んだ後、屋台を出て映画は終わります。
何よりラストが意外でした。
てっきり、金助はマユミと和解してハッピーエンドなのだと思っていました。
これが東宝映画なら、ふられるなりハッピーエンドになるなり、「完全決着」がつくのです。
なぜ、金助にとって寂しいラストにしたのだろう、などと見終わった観客に考えさせることは東宝はしないのです。
それと、コント55号の映画ではありますが、物語はあくまで萩本欽一を中心に展開しています。
もともとチャップリンに憧れた萩本欽一のほうが、歌手崩れの坂上二郎よりも俳優としては面白い存在だったのかもしれません。
でも、後に俳優として活躍するのは坂上二郎の方なんですけどね。
今回捕まえられる役だった石立鉄男は、この4年後坂上二郎刑事の上司になって『
夜明けの刑事』(1974年、大映テレビ、TBS)というドラマにレギュラー出演します。
石立鉄男が、少し太ったモジャモジャアタマになるのはまさにこの間なんですね。
『こちら55号応答せよ! 危機百発』より
『夜明けの刑事』(第2話)より
石立鉄男ファンにとってはそんな変化を実感できる作品です。
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