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福島の人びとの被ばく線量はそんなにキケンなのか [(擬似)科学]

福島の人びとの被ばく線量はそんなにキケンなのか。原発事故による放射線被曝のことです。『美味しんぼ』というマンガによると、福島では鼻血が出るそうです。それを実際の除染作業と被曝調査で事実上反駁しているのが、『福島県下での放射能調査に取り組んで』というレポートです。

著者は、放射線防護学者であり平和学者でもある安斎育郎氏です。福島市の保育園について園庭の除染や給食の食材チェック、さらに園児たちの1年間の被曝量を調べ、諸外国との比較なども行っています。

安斎育郎氏
http://asap-anzai.com/

このブログの9月16日の記事に、我が国の原発行政にも、科学的に正しくない放射線対策にも批判的な安斎育郎氏から、福島の除染についてのレポートを頂いたことを書きました。

『福島県下での放射能調査に取り組んで』安斎育郎氏が訴えることは?

そのとき、詳しい内容は改めてと予告しましたが、今日はそれについて書かせていただきます。

安斎育郎氏は、平和学者として活躍。疑似科学の解明やその流行する社会背景について多くの書籍を上梓してきました。

「超能力」で犯人を捜せるのか?

だまし世を生きる知恵、人はいつも何を考えるべきか

が、もともとは放射線防護学者です。

また、福島の二本松に疎開していた縁もあり、東日本大震災による福島の放射能調査や除染作業をこの3年間行っています。

そのレボートが、今回ご紹介する『福島県下での放射能調査に取り組んで』です。

『福島県下での放射能調査に取り組んで』

除染と調査の内容


今回、主に調査や作業を行ったのは、福島市渡利地区のさくら保育園。

やはり、被曝でいちばん気になるのは、放射線の感受性が比較的強いお子さんです。

原発から60キロ離れた保育園の庭園ですが、2011年時点で、毎時数マイクロシーベルトの線量率が計測できたそうです。

しかも、放射性物質(とくに、セシウム134とセシウム137)からのガンマ線の影響のため、除染範囲を2メートルから3メートルに広げても、放射線量率が下がらず。

ただ、表層土2~3センチをわずか2~3メートル削りとっただけで、空間線量率は半分以下に減ったそうです。

給食の食材は、超細切れやミキサーにしなくても測定できる食品放射能検査装置で測定し、安全なものを提供したそうです。

散歩コースについては、さくら保育園だけでなく、福島市、いわき市、郡山市などの保育園を訪れ、園舎の内外と周辺の散歩コースなどを「ホット・スポット・ファインダー」(ポニー工業製)で測定して、線量率の少ないコースを探したそうです。



それによると、たとえば、山沿いの道や、表面がザラザラの簡易舗装路、路側帯の溝などは線量が高いので、コースからはずしています。

放射線を浴びる時間はもちろん短いほうがいいので、線量が高いところは速歩やランニングを、家の中でも屋根により近い階上のベッドよりも、階下のふとんで寝ることを推奨しています。ベッドと布団では、年間約0.3ミリシーベルト被曝量が違うと具体的な数字も示されています。

実際にどれぐらい放射線を浴びているのか


保育園の保護者がもっとも気になるのは、お子さんたちが生活を通じてどれぐらい放射線を浴びているかということ。

安斎育郎氏らは、2012年12月から2013年11月までの1年間、さくら保育園100人余りと、その近くにあるさくら南保育園30人のお子さんたちに、クイクセル・バッジという積算線量計を首かけ線量計袋を使って着用してもらい、1ヶ月ごとに測定したそうです。

線量計をかけた子どもたち

被曝状況.png
いずれも『福島県下での放射能調査に取り組んで』より

この測定でわかったことは、原発事故由来の被曝は全体として下がっていること。このレベルで被曝し続けると年間0.17ミリシーベルト程度になるとか。

この0.17という数字をよく覚えておいてくださいね。

では、この被曝量は、『美味しんぼ』に描かれているような鼻血につながるのでしょうか。

レポートは、ヨーロッパ諸国(1980年代末)と、さくら保育園の年間放射線被曝量の比較グラフも載せています。

各国被ばく線量.png

『福島県下での放射能調査に取り組んで』より

それによると、お子さんたちの被曝が、チェルノブイリを含めた諸外国の人びとの被曝に比べて、際立って多いという結果にはなっていません。

もともと日本人は、原発事故がなくても自然界から年間2.1ミリシーベルトを被曝しており、原発事故由来の被曝があった2011年でも、それを桁違いに上回るとは考えにくい。

これは今まで、科学者によってさんざん言われてきたことです。

が、放射能とにかくキケン派は、大気の放射線は「外部被曝」だが、原発事故による被害は「内部被曝」だから参考にならない、などと喧伝してきました。

しかし、「年間2.1ミリシーベルト」の中には、「外部被曝」だけでなく、大気中に浮遊する自然放射性物質の吸入や、自然界の食物摂取による「内部被曝」が1.47ミリシーベルト含まれていることにその人たちは触れません。

つまり、原発事故がなくても、私たちはさんざん内部被曝しているのです。

それも、福島の人の原発事故由来相当分の何倍も。

なのに、まるで福島の人だけが異常な被曝をして、病気の予備軍であるかのような見方をするのは、被災地・被災者差別につながるとレポートは厳しく指摘しています。

全く同感です。

今回の原発事故によって、東京在住だったくせに、放射線が怖いと関西に逃げ出した人びとがいます。

「予防原則」の価値観は自由ですが、そんな科学的根拠のない人に原発問題を語られても、合理的な話にはならないし、だいいち福島の人はどう思うでしょうね。

そもそも私たちの暮らしはこれでいいのか


といっても、冒頭に述べたように、安斎育郎氏は我が国の原発行政を批判しており、原発再稼働にも反対です。

今回、福島市のお子さんの被曝が、センセーショナルに書き立てられているほどの数字ではなかったといっても、本来はあってはならない被曝です。園庭などが汚染されてしまったほか、散歩コースまで慎重に変更しなければならなくなりました。

原発の近くの10万人を超えるといわれる被災地の人びとはその場所を離れていますが、将来の定住生活の展望も描けていません。

いまだに終息していない福島原発の後始末問題も残っています。そこで働く人々の被曝は今もやはりゆるがせにできません。

今の生活の電力需要を満たすために、何百世代・何千世代先の子孫に「負の遺産」を残すのは倫理的ではないと安斎育郎氏は結んでいます。

そう。しょせん、再稼働の理由って「今の生活の電力需要を満たすため」なんですよね。

もちろん、今があるから将来がある、というのもひとつの見識だと思います。

ただ、「今の生活の電力需要」って、絶対に必要なものなのかなって、私は懐疑的です。

小さいことかもしれませんが、たとえば近年流行の民家の電飾。

それって、必要な物なのでしょうか。

ステータスのつもりなら、もっと別のことにしてくんない?って私は思っています。

もう右肩上がりの高度経済成長時代でもバブル時代でもないんだからさ。

そもそも今の私たちの暮らしって、どこか間違ってない?思い上がってるところはない?

そんなふうに私は思うことがあります。

泥臭く人間関係を作っていくことで人格形成すべき中高生が、歩いていても自転車に乗っていても脇目もふらずスマホ。

あのな、10年はえーんだよ
あのな、10年はえーんだよ

今こそ、原発の議論の以前に、そのへんから私たちは考えてみる必要があるのではないかと思っています。

「原発ゼロ」プログラム―技術の現状と私たちの挑戦 (希望シリーズ)

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  • 作者: 安斎 育郎
  • 出版社/メーカー: かもがわ出版
  • 発売日: 2013/03/08
  • メディア: 単行本


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