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『新幹線大爆破』を新幹線開通50周年を前に鑑賞 [懐かし映画・ドラマ]

『新幹線大爆破』(1975年、東映)を久しぶりに鑑賞しました。まあ映画ファンからすれば「今更……」感があるかもしれませんが、10月1日は新幹線開業50周年。久しぶりに観るにはいい機会かなと思いました。ここのところ、東宝の明るく楽しい喜劇をずっと見てきたので、俳優の顔ぶれも全く違う、作風も“勝者のいない男のドラマ”である東映作品が、大変新鮮に感じられました。

新幹線大爆破

『新幹線大爆破』は、すでに多くの人が指摘しているように、何よりも出演者がすごい。主要メンバーだけでなく、川地民夫、北大路欣也、田中邦衛、志穂美悦子、多岐川裕美、岩城滉一など、当時の東映映画おなじみの俳優がワンシーンだけ出演して、オールスター出演の作品になっています。

一応、ネタバレ御免のあらすじから書きます。

あらすじと感想


新幹線に、速度が時速80キロ以下になると爆発するという爆弾脅迫事件が発生。同じ爆弾を仕掛けたという北海道のSLは本当に爆発した。

計画したのは、倒産した計器製造会社の元社長(高倉健)と従業員(織田あきら)。そして仲間の裏切りで脱落した元学生運動家(山本圭)。

事件の対応において、立場の違いで意見は別れる。生真面目な新幹線当局の指令長(宇津井健)、短気で一本気な運転士(千葉真一)、乗客の安全や犯人の人権よりも逮捕ばかり先走る刑事(鈴木瑞穂、青木義朗ら)や公安(渡辺文雄)らとの間で様々な葛藤が。

一方車内でも、乗客パニックや妊婦(田坂都)死産のアクシデント、鉄道公安官(竜雷太)と車掌長(福田豊土)との間で、事件を知らせるかどうかの方針の違いなど立て続けに騒動が勃発。

そんな出来事がいろいろあった後、なんだかんだで仕掛けた爆弾は無事止められ、主犯の高倉健も500万ドルを手に入れますが、その葛藤で疲れた指令長は辞職を表明。

高倉健は、あと一歩で逃げられるはずだった空港で、別れた元妻(宇津宮雅代)と息子を見て動揺。面が割れてしまった高倉健は、警察庁刑事部長(丹波哲郎)の命令で無慈悲にも射殺されてしまいます。

同作は、まずパニック映画です。

それと、オイルショック後だったので、高度経済成長を批判的にとらえる風潮があり、高速性と安全性(自動列車停止装置=ATS)を備えた新幹線をピンチに設定することで、イケイケの高度成長を皮肉った面もあるのではないかと思います。

私は大変力作だと思っていますが、強いて言えば、犯人側の描写が少し足りなかったかな。

同作が評価されたフランス版では、テロリストのように扱われているという指摘がありますが、それは仕方ない面があります。

元学生運動家と倒産した中小企業経営者、さらに血を売るプータローの3人組ですからね。

彼らの挫折の理由を描いていれば、さらに感情移入できる作品になっていたでしょう。

音楽が合ってないというレビューもありますけどね。

これは誰も指摘していませんが、冒頭と最後などに使われているBGMは、宇津井健がその前年に出演したドラマ『顔で笑って』(1973年~1974年、大映テレビ、TBS)で使われています。

たんなる偶然でしょうか?

同作は、年頃の娘(山口百恵)と再婚相手(倍賞美津子)、さらに婿入りした義母(葦原邦子)や小姑(冨士眞奈美)らとのデリケートなやりとりをコミカルに、でも要所要所に切なさを感じさせるドラマでした。

そこでの宇津井健の格好良さや真面目さが、今作の起用のヒントになっていたのかもしれません。

指令長の役は、当初高橋英樹だったのが宇津井健にチェンジされたといわれています。

実は、宇津井健こそがこの作品の主役だったのかもしれません。

ちなみに出演者の序列は、高倉健がトップ、宇津井健はトメ(一番最後)でした。

理解できない一部マニアのツッコミ


手に汗握る長尺スペクタクル作品ですが、ネットではかなりツッコミが入っています。

それも、一部の鉄道マニアかそうした分野に詳しい人々の知識自慢だと思うのですが、新幹線の構造上そんなことはあり得ない、というたぐいの話が多い。

そりゃそーなんだろうけど、でもね、私にいわせれば、“それがどーした”なんですよね。

そんなことをいったら、どんな分野の作品でも、その道の専門家からすれば、「なんだそりゃ」というところはたくさんあると思います。

たとえば、学園を舞台にしたものなら教育現場の人が黙っちゃいないだろうし、刑事ドラマについては、現在『日刊ゲンダイ』で元現役の人が実際の捜査とドラマの違いを連載しています。最近流行の医療ドラマだって、医師は一言言いたいでしょう。

作品と実際との違いが容認出来ない場合もないわけではないでしょうが、映画やドラマなんて、しょせん作り物。

ドキュメンタリーではありませんから、作品の評価に関わる本質はそこではないと私は思います。

もちろん、作品の批評自体はいいのです。

でも、本質を外した批評ってどこか虚しくないでしょうか、という話です。

簡単に述べれば、映画にしろドラマにしろ評価の本質は、設定の真実性ではなく、登場人物のいかなる葛藤がどのような判断・行為に至ったのかという、人物描写の真実性にこそあるはずです。

これがわからない人は、水戸黄門のロケで電柱が見えただの、時代考証がおかしいだのと、設定の真実性にばかり目がいき文句をいい、人物描写の真実性を見ることができないただのクレーマーにしかなれないのです。

まあ、そういうワキッチョの揚げ足取りを楽しむ価値観も自由といえば自由ですが、

せっかく、貴重な時間を使って鑑賞しているのだから、

面白い作品は笑い、感動できる作品は涙を流し、緊張する作品は手に汗を握る。

そこははずさないようにしたい、と私は思います。

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