『喜劇駅前茶釜』(1963年、東京映画、東宝)という映画を鑑賞しました。喜劇駅前シリーズは、60年代の東宝を支えた喜劇黄金時代のドル箱シリーズのひとつ。見どころは、何と言っても20代のジャイアント馬場の演技と大立ち回りでしょう。個性的な出演者のアンサンブルに定評のある久松青児監督による16大スター競演の群像喜劇です。
1960年代の映画界は、いささか陰りが出てきたものの、相変わらず各社が定期的に映画を配給していました。
その中で東宝は、
森繁久彌の社長シリーズ、植木等を前面に出した
クレージー映画シリーズ、加山雄三の若大将シリーズ、そして喜劇駅前シリーズなど、明るく楽しい作風で数字が取れる人気作品をシリーズ化して次々公開していました。
日本の映画史上も決して忘れられない黄金期だったのでしょう。ネットには今も、各シリーズや60年代の東宝映画をテーマとしたサイトがいくつも作られています。
ただ、その中で、今回の喜劇駅前シリーズだけは、他のシリーズに比べてちょっと異色でした。
どう異色かというと、作品は東宝本体ではなく、東京映画という別法人の映画制作会社によって作られていたことです。
映画会社と映画制作会社の関係は、今でいえば、出版社と編集プロダクション、メーカーと町工場のような関係といっていいと思います。
権利関係では、配給会社にもライセンスはされるのでしょうが、少なくとも作風は東宝オリジナルではなく、東京映画独自のテイストがありました。
出演者を見ればわかるのですが、今回の『喜劇駅前茶釜』は、いつもご紹介している森繁久彌社長シリーズとほとんど出演者は同じです。
違うのは、
伴淳三郎とゲスト出演のジャイアント馬場が加わり、小林桂樹が出ていないだけです。
にもかかわらず、その作風は全く違います。
東宝本体は、明るく楽しくに加えてハイソな雰囲気を意識しているようですが、喜劇駅前シリーズは、もっと庶民的で下世話なところを狙っているように思います。
ただやはり東宝配給映画であることを意識したのか、伴淳三郎主役のアチャラカ(ナンセンス)系喜劇映画でありながら、森繁久彌を出演させてキャスティングの序列でもトップにもってきています。
これは、当時の伴淳三郎がまだ松竹と契約があったからかもしれません。
ちなみに、伴淳三郎と
フランキー堺は、この喜劇駅前シリーズとは別に、松竹で喜劇旅行シリーズを撮っています。
スポンサードリンク↓
16大スターが繰り広げる群像喜劇
さて本作は、「喜劇駅前シリーズ」の第6作になります。伝説の茶釜で知られる寺の住職(伴淳三郎)に対して、そこに出入りする骨董商(森繁久彌)、写真館主(フランキー堺)が「本物の茶釜」を持ちだして一騒動しかける話です。
Youtubeにもアップされていますが、本作の「予告編」は、「16大スターがウデを競う」という群像喜劇らしいテロップが出ます。
16大スターとは誰か、ポスターから数えてみました。
森繁久彌、伴淳三郎、フランキー堺、淡島千景、淡路恵子、三木のり平、池内淳子、加東大介、沢村貞子、有島一郎、中尾ミエ、若林映子、横山道代、左卜全、山茶花究、ジャイアント馬場。これで16人になります。
小原庄平という役名までついて出演しているジャイアント馬場は、ありがちなスポーツ選手の特別出演と違い、ストーリー上重要なところで活躍。
しかも、当時20代(昭和30年代後半)の身体能力が十分に伝わる大立ち回りを演じています。
たぶん、今の50代以下の人は、ジャイアント馬場の本当の全盛期を知らないはずです。
実は私も、出演したことは知っていましたが、どうせ“カメオ出演”だろうと思い、最近まで見たことがなかったのです。
ところがどっこい、16人のアンサンブルのひとりとして頑張っていたのです。
クライマックスは、フランキー堺の友人であるジャイアント馬場が、伴淳三郎側が仕掛けた「本物の茶釜」の祭りをぶち壊す連中をやっつけるシーン。
途中から俳優に代わって、吉原功、大熊元司、高崎山猿吉(魁勝司)、星野勘太郎、マシオ駒という、昭和プロレスではお馴染みの人々がジャイアント馬場と“対戦”し、1人で5人をやっつけます。が、最後に横山道代に祝福のキスを受けると倒れてしまい、そのときに折角守った「本物の茶釜」を壊してしまうというオチです。
ジャイアント馬場、“伝説の20代のファイト”
画面がないとわからないので掲載御免。池内淳子から「茶釜が危ない」といわれて悪漢たちを捕まえようと走りだすジャイアント馬場。これが実に俊足。さすが、元巨人投手だけのことはあります。
やってきた悪漢たち。中央の警官(加東大介)のとなりから大熊元司、マシオ駒、星野勘太郎、吉原功、顔は隠れていますが黄色いシャツは魁勝司です。
まず最初に大熊元司をすくい投げ
星野勘太郎をヤシの実割り。足がよく上がっています。星野勘太郎はレスラーとしては小さいので、ジャイアント馬場は持ち上げており、星野勘太郎は爪先立ちです。
吉原功に16文キック。後の国際プロレス社長のやられっぷり豪快すぎ
魁勝司はボディスラムで叩きつけます。撮影所の地面はさぞ痛かったでしょう。
マシオ駒には、フランキー堺と合体してフランキー堺がドロップキック。
そして最後は横山道代のチュッ、で倒れてしまいます。
このシーンには出ていませんが、三木のり平とレスラーたちのスナップショットをプロレス雑誌で見たことがあります。
いずれにしても、昭和プロレスファンなら必見です。
この作品は、これだけで十分見た甲斐がありました。
喜劇駅前シリーズも、これからは記事にしていきたいと思います。
Facebook コメント