『病気で死なない生き方33 普通の医師には教えられない』(川嶋朗著、講談社)を読みました。ホメオパシーなど補完代替療法に肯定的な医師です。というと、西洋医学を否定する人が多いのですが、川嶋朗医師は抗がん剤も否定していないし、“がんもどき理論”に対しては大変厳しい見解を述べています。
同書は、タイトル通り、33の小見出しで、川嶋朗医師の医学・医療についての考え方をまとめています。
川嶋朗医師は、患者自身が自分の病気のことを考えること、をモットーにしています。そのため、患者の依存心も、医師のドクハラ構わずの傲慢さも批判しています。
要するに、医師の立場から書いているのだけれど、是々非々であることが特徴です。
まず、川嶋朗氏が問題にしているのは、「まさか自分がそうはならないだろう」という患者の根拠のない甘え。
まさか自分が人工透析にはならないだろう、まさか体の一部が壊死したり失明したりはしないだろう。そう考えて健康管理と向き合わなかった人が糖尿病になり、そうした合併症を起こしたと遠慮会釈なく指摘。耳が痛い人もいるんじゃないでしょうか。
一方、医師の「エクスキューズ医療」も批判。「念のために切りましょう」「念のために検査しましょう」。それはほんとうに正しいのかと疑問を投げかけます。それは、誰のための「念のため」なのか。医療裁判を起こされたくない医師のためではないのか、とまで書いています。
患者も医師に依存せず、「その手術はほんとうに必要なのか」「それをしない場合とした場合の予後はどう違うのか」などをきちんと質問して判断すべきだといいます。
そういえば、私は今年2月の
健康診断で、肺がん好発部位を「念のため」といわれて急遽CTを撮ったことがありました。
私もまだ甘いな。
医療現場や医学を批判する医師は、抗がん剤などがん治療を否定しがちですが、川嶋朗氏はそうではありません。
たとえば、“がんもどき理論”の近藤誠医師の項では、「生きたい人を絶望の淵に追いやる権利は医者にない」というタイトルで大変厳しい批判を行っています。
近藤先生のがん放置理論は、もう十分生き切って、後はおとなしく死んでいこうという人、平均寿命をとうに過ぎて、生きる目的がもうなくなってしまった人には福音なのかもしれません。ただ、生きたいと思っている人は、採用してはいけません。
仮説を押し付けるドクター・ハラスメント
近藤先生がおっしゃる「がんもどき」 の話も、本当に「がんもどき」なのか、そうでないのかは、取ってみなければわからないのです。がん幹細胞があって、がんはこの幹細胞から増えていくというがん幹細胞仮説がありますが、あくまで仮説にすぎません。またこの仮説をもって、抗がん剤はがん幹細胞から分化したがん細胞しか標的にしないため、がん幹細胞には効かないなどといったことは証明されたわけでも何でもないのです。
「本当に「がんもどき」なのか、そうでないのかは、取ってみなければわからない」というのは、私も以前指摘した
近藤誠氏に対する矛盾であり疑問です。
『日刊ゲンダイ』で現在も近藤誠氏の連載が続いていますが、毎週いくら熟読してもいまだに肝心なその点が解決されていません。近藤誠医師の論法では、術前化学療法などは否定されなければならなくなりますが、乳がんやスキルス胃がんなどそれによって生還できた人もいるでしょう。
生きることだけでなく死ぬことも考えよう
同書は、開業医が勉強不足であることや、漢方薬を学んでいない医学生が医師になって漢方薬を処方する剣呑さも書いています。
また、川嶋朗氏は、国民皆保険を歓迎しつつも、だからこそ「なんでも公で」という考え方には反対です。それによって医療費が膨れ上がって医療の質が下がることを懸念しているからです。そして、国民が病院に依存する弊害をつくりだした面があることも指摘しています。病院がサロン化しているなんていわれますからね。
その改善に、病院にかかったら健康保険料が上がり、かからなかったら下がる予防医療マイレージ制の提案も行っていますが、私はこの点は必ずしも賛成できません。ここはもっと知恵を絞って欲しかった。
なぜなら、それをやってしまうと、ポイントを貯めるために、病気なのに我慢して行かない人が出てくるからです。それは、川嶋朗氏が強調する「予防医療重視によって病人を減らす」とは異なる方向です。
さらに、川嶋朗氏は、人生についても一家言もっています。
自分がいつどのように終末を迎えるかを考えろ、と説いています。
つまり、それがない「単なる長生き」には賛成していません。
「早期発見、早期治療ばかりしていると、生きてしまいますよ」というユニークな表現もあります。
そりゃ、人間、命あっての物種です。生まれたからには少しでも長生きしたい、もちろん健康で。
でも、人間いつかは死ぬもの。生きるということばかり考えないで、死ぬことも考えよう。自分の人生なんだから自分の頭で。そういうことだと思います。
よく、治療はオーダーメードで、といいます。
これは、病気だけを見てのものではなく、その人の人生観を見てのものだ、というのが川嶋朗氏の持論なのです。
その人の人生観にあった病気の処し方。治療は医師がします。でもどうするかの決定権は本人でしょう、というわけです。
冒頭に書いたように、川嶋朗氏は、補完代替医療を標榜する医師です。
ただし、西洋医学を否定する医師とは立場が異なり、自分の頭で考えない患者には厳しい医師です。
補完代替医療がいい、というプロパガンダではなく、人生と医療について考えさせてくれる点も意外であり、また好感が持てました。
Facebook コメント