『男女7人秋物語』(1987年、TBS)のロケ地にまた行きました。今回は京急大師線旧六郷橋駅の向かい側にある狭く細い道。よくこんなところを見つけたという感じですが、京急の撮り鉄にはお馴染みの場所です。ドラマでは懐かしの京急700形が走り、時代を感じさせてくれます。
今日のロケ地は『男女7人秋物語』の第8回ラストシーンです。
あらすじはすでに「
『男女7人秋物語』“がまんごっこ”の川崎球場は今……」でも書きましたが、恋人の今井良介(明石家さんま)に送り出されてマイケル・ジャクソンの取材をしに渡米した神崎桃子(大竹しのぶ)は、アメリカで健(柳葉敏郎)と夫婦同然の生活をするようになり帰国。
今井は気を取り直して、釣り船屋の娘・美樹(岩崎宏美)と少しずつ愛を育みます。
ところが、桃子は健ちゃんと暮らしているくせに、今井を諦めたわけではなく、その後もなんだかんだと今井に関わりを持ち、結局また今井と“よりを戻す”ことになります。
そのきっかけとなるシーンが、神奈川県川崎の、京急大師線、旧六郷橋駅跡のほぼ対面で撮影されていました。
京急マニアがよく撮影に来るところです。
急な階段を降りた狭い道です。六郷橋駅は2面の駅だったらしいので、きっとここも、六郷橋駅のあったところではないかと思います。
今回は、ドラマに近いポジションで撮影してみました。
健ちゃんの子どもを妊娠したかもしれない桃子が、今井を付きあわせて産婦人科へ。結局妊娠ではなかったのですが、桃子は「妊娠だったら、あなたとお別れしなければならないと思っていた」と泣くシーンです。
健ちゃんと暮らしているくせに、まだ今井と「お別れしなくていい」と思っていたことや、今井をそんなことで突き合わせる桃子というのは、とにかく非常識極まりないのですが、産婦人科に付き合う今井にも、桃子を許してしまう優しさがあったのでしょう。
これで、諦めようとしていた今井の、桃子に対する思いが今井自身にも止められなくなってしまうのです。
健ちゃんや美樹の立場は?
ドラマとしては面白いけど、人を傷つけて腹立つ女だなあ、と思う人は作家にはなれないかもしれません。
脚本を書いた鎌田敏夫氏は、たとえ不条理であろうが非常識であろうが、「人間がすることには、すべて、そうしなければいけない理由がある。それがぶっつかる、どうすることもできない切なさ」(『来て!見て!感じて!』より)を、巷間の倫理だの常識だのに埋没せずに描き切ったのです。
鎌田敏夫氏は、作家にはそうした強靭な精神が必要だといいます。
鎌田敏夫氏は同書で、「戦後最高の恋愛映画」として、ひたすら男に尽くす従順さはないが、それでも相手の男と別れられない女を描いた『浮雲』(成瀬巳喜男監督)という映画をあげています。
人間は、いつも正しくフェアに生きているわけではありません。
魔が差したり、気が変わったり、人のものを奪いたくなったり、人の幸せを壊したくなったりすることがあります。いい悪いは別として、そうした負の面、影の面も含めた人間像を描けるかどうかが作家に求められるのだと思います。
大竹しのぶが演じた神崎桃子は、まさに鎌田敏夫氏が「最高」を目指して描いた、「男に尽くす従順さはないが、それでも相手の男と別れられない女」なのでしょう。
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劇中走っていた京急の車両は?
ところで、このロケ地を走っているのは京急大師線です。
関東の大手私鉄である京急の発祥がこの路線でした。
京急大師線川崎大師駅にある京急発祥の碑
で、京急ファン以外には何の意味もない話ですが、ドラマの中で走っている車両は、何形かおわかりですか。
80年代後半ですから、主に本線の普通電車に使われた700形です。
大師線は、今や京急線唯一の盲腸線。本線を引退した車両が、最後の一仕事をここで行ってから廃車されます。
かつての140形、230形、400形、500形、旧1000形などがそうでした。
意外ですが、吊り掛け駆動のリプレイスとして登場した800形(いわゆるダルマ)は、大師線を走ったことがないのです。
固定編成(6両)だからだと思うのですが、京急が固定をぶち切って使い倒したことは過去にもあります。最後の片開きドアである800形には、過去の車両のように大師線で余生を過ごさせてやりたいと思っています。
男女7人秋物語
- 作者: 鎌田 敏夫
- 出版社/メーカー: 立風書房
- 発売日: 1987/12
- メディア: 単行本
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