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貴乃花親方夫妻“勝訴”でもネット民のコメントには一部疑問あり [スポーツ]

貴乃花親方夫妻が、弟子に暴行していると報じた週刊新潮の記事が裁判になり、発行元の新潮社側に計275万円の損害賠償などを命じたというニュースが話題になっています。ネットのコメント欄は、貴乃花親方夫妻の“勝訴”という前提で、「嘘の報道はいけない」「判決の賠償額が低すぎる」などという書き込みが多くなっていますが、私はそれらについて異なる見解を持っています。

どんなニュースだったのか。ご存じない方のために引用から行います。
新潮に275万円賠償命令=貴乃花親方夫妻の名誉毀損―東京地裁
時事通信 8月4日(月)15時34分配信
 弟子に暴行していると報じた週刊新潮の記事で名誉を毀損(きそん)されたとして、元横綱の貴乃花親方夫妻が発行元の新潮社側に計1320万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が4日、東京地裁であった。笠井之彦裁判長は「十分な取材を尽くさず告発者を軽信した記事と言わざるを得ない」として、同社側に計275万円の支払いを命じた。
 問題となったのは2012年4月発売のゴールデンウイーク特大号の記事。廃業した元弟子の話として、親方が弟子らに対して日常的に暴力を振るい、夫人も見て見ぬふりだったと報じた。
 笠井裁判長は、元弟子の話は「他の弟子らの証言内容と整合せず信用できない」と指摘。裏付け取材も不十分で、「真実だと信じる相当の理由があったとは認められない」と述べた。
 週刊新潮編集部の話 納得できない判決。内容を精査し、控訴も含めて検討する。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140804-00000065-jij-soci
まず、これは大前提ですが、裁判について何かを語りたいのなら、実際の判決文をきちんと読むことです。

わずか数行のニュースをもとに、名誉毀損というデリケートな裁判の判決について何かを語ろうという了見は、賢しらが過ぎます。

うーむ

なぜなら、完全勝訴(敗訴)でない限り、記事は記者の主観に基づいて判決文の都合のいい部分だけを引用した、実態と異なる印象を持たれるものに仕上げられかねないからです。

たとえば6分4分ぐらいの判決の場合でも、記事が4を強調する書き方をすれば、4の方が勝訴したように読者を印象づける記事を作ることなど簡単なのです。

これは実際にあった話ですが、週刊文春が、ジャニー喜多川の未成年所属タレントに対するホモセクハラをすっぱ抜いて裁判になり、2004年の第二審で文春は90%勝ちました。

ジャニー喜多川はホモセクハラを行ったという記事の主たる部分に真実相当性を認め、ただし、そのアラウンドの部分で軽率な書き方があったから、請求額の10分の1だけ払いなさいという判決が出たのです。

ところが、マスコミがジャニーズ事務所に配慮して、アラウンドの10%の部分だけを報じたことで、あたかも文春が敗訴したように世間は騒ぎました。

裁判は最高裁まで行きましたが、ジャニーズ事務所の上告は退けられています。つまり、ホモセクハラ報道は「主たる部分で名誉毀損ではない」と認定されているのです。

それを考えると、こういう速報ニュースに、コメント欄を設けることがそもそも妥当なことなのかどうか、考えてしまいます。

コメント欄があれば、読む者は、わずか数行のニュースで自分の見解に結論を出そうとするでしょう。

しかし、その記事が、判決の意味をリアルに表現している保証なんかないのです。

今回のニュースにコメントを書いて「マスゴミはけしからん」と興奮している方は、まずその点を知っておいてください。

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判決は「真実」ではない


今回の判決については、「真実だと信じる相当の理由があったとは認められない」という一文が入っている以上、たしかに貴乃花親方夫妻の“勝訴”という報道は間違いでないと思います。

ただし、それを受けて、「新潮は嘘を書くな」などとコメントもありますが、これはどうなのでしょうか。

「真実だと信じる相当の理由があったとは認められない」というのは、たんに記事が本当だと客観的に認定するだけの整合性が足りないというだけで、裁判官は記事が嘘だとは述べていないはずです。

こういうコメントを見ると、なんだかなあと思いますよ。

あれほど、不正を重ねた小保方晴子氏については、それでもなお「手続きが間違えただけでSTAP細胞がないということにはならない」などとかばっている意見があるのに、なぜ週刊誌の記事だと、裁判の一審の敗訴だけで即座に「ウソ」と認定できるのでしょうか。

多くの国民が勘違いしているのですが、裁判は真実を言い当てる営みではありません。

なぜなら、裁判官は、別に神でも超能力者でもありません。

裁判で明らかになるのは、「真実」ではなく、原告・被告の当事者が示した言い分に基づいた、紛争の解決に過ぎないのです。

つまり、貴乃花親方と新潮社はモメている。両者の言い分がこうである。その言い分なら、新潮社の記事の作り方が十分でないから賠償しなさい、と言っているだけなのです。

決して記事が嘘だから金を払えと言っているわけではないのです。

新潮社が控訴して、新たな言い分が加わることで、判決がひっくり返るかもしれないのです。

どうもネット民は、そこを勘違いしているのですね。

もちろん、裁判の判決には法的拘束力がありますし、判決なんか嘘っぱちだ、などということではありません。

ただし、ウソではないけれど、無謬万能でもないということです。

それは、裁判という仕組みが、当事者の証拠や証言をもとに判断するため、無謬の真実に到達できるとは限らない限界があるのです。

判決の賠償額が低すぎるか?


「判決の賠償額が低すぎる」という意見もあるのですが、これも私は首を傾げます。

名誉毀損裁判は、だいたい原告側の主張する金額の10分の1ぐらいが判決で申し渡されます。

この事件は、計1320万円に対して計275万円の支払いですから、「相場」よりもむしろ高いぐらいではないでしょうか。

名誉毀損の「相場」そのものが低いかどうかについてですが、名誉毀損裁判については、ある政党の意向がきっかけとなって、急に高騰化されました。具体的には大原麗子や清原和博氏の裁判からといわれていますが。

ただ、良識的な法曹家は、裁判はひとつひとつの事例で判決を決めるべきであり、「相場」として高額化するものではない。有名人はマスコミで発言する機会があるので、賠償額を高くする必要性自体に疑問を呈する、という人もいます。

コメント者は、そうした経緯や議論を知った上で書き込んでいるのでしょうか。

ですから、今回の賠償額も、結局判決文を読まなければ「安い」なんていえないのです。

繰り返しになりますが、今回の判決自体は貴乃花親方側の勝訴という解釈でよいと思いますし、それ自体にケチを付ける意図は全くありません。

ただ、裁判や、その報道についての、ネット民たちのコメントにちょっと気になる点があり、一言してみました。

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