『高次脳機能障害者の世界ー私の思うリハビリや暮らしのこと(改定第2版)』(協同医書出版社)という書籍を読みました。著者は山田規畝子さん。小学校6年で脳出血、32歳で脳溢血、37歳で脳出血と3回倒れ、2度目に倒れた時に高次脳機能障害と診断されました。3度目のカムバックで「化け物」といわれているそうですが、そんな山田規畝子さんの体験や論考、アドバイスが書かれています。
まず、高次脳機能障害について簡単にまとめますと、脳の損傷により、記憶、注意、遂行機能、社会的行動などにあらわれる障害をいいます。
脳の損傷や脳症によって脳の機能を失い、自分の意思で自分の体をコントロール出来なくなったしまう昏睡、もしくは寝たきり状態を
遷延性意識障害といいます。
幸いそこから回復できて体が動くようになっても、後遺症として様々な障害を残す場合があります。かんたんにいうとそれが高次脳機能障害です。
高次脳機能障害は、寝たきりのような、第三者から見て“わかりやすい”障害ではないことが特徴です。
著者の山田規畝子さんは整形外科医。
2度目に倒れた後も病院に勤務し、3度目に倒れた後も今回のように書籍を上梓したり、講演活動を行ったりしています。
つまり、話もできるし、文章も書けます。
書籍を一冊書ききるというのは、健常者だってなかなかむずかしいでしょう。
なんだ。だったら何の問題もないじゃないか、と思いますか。
そんなことはないのです。
実は細かいところに障害が残っているといいます。
たとえば、ズボン(下着と区別するためにパンツとは書きません)の前後がわからない。
遠近感がわからない。
感情のコントロールが出来ないことがある。
体の左側が動かない。トイレットペーパーが左側にあると右手が届かないので困る。
包丁は使えず知覚が弱くて切ってもわからないのでハサミを使う。
物の形の意味がわからない。「洋式トイレの便座を上げたままにしておくだけで私ならそれに気づかずそのまま座ってトイレにお尻がはまってしまうだろう」と息子さんにいわれたそうです。
つまり、生活の中には、ヘルパーをつけることができる半介助、もしくは全介助の局面があるのだろうと思います。
山田規畝子さんが障害者手帳を持っているかどうかは定かではないのですが、見た目はっきりと分かる障害でないと、身体障害者手帳は出ません(つまり2級以上の障がい者の手当の申請にも支障をきたす)
「愛の手帳」という精神障害の手帳もありますが、こちらは知能を見るので、書籍まで書ける人ですと、最下級の4級認定もむずかしいんじゃないかと思います。
つまり、明らかに生活に支障をきたす障害を持ちながら、第三者からは障がい者としての認定もヘルプも理解も受けられないという問題があるのです。
これはなかなか厳しいことなのです。
このへんは、私にはよくわかります。
私の長男も、一酸化炭素中毒から、いったんは遷延性意識障害の診断が出て、そこから諦めずに段階的リハビリを行ってきましたが、現時点でも他人を真似る模写が苦手です。つまり、“教える人が見本を見せて理解させる”というレッスンが奏効しにくいので、できるようになるまでの試行錯誤にかなりの時間がかかります。これも高次脳機能障害の典型的な症状です。
トイレは便座を上げ下げして用をたしますし、体の機能に不自由なところはありませんが、逆に山田規畝子さんが出来ることで、長男ができないこともあるのかもしれません。
なんでもないように見えるこの一葉に辿り着くまでにどれだけ苦労したか。もちろん箸の持ち方もずいぶんトレーニングを繰り返しています。ちなみに食べているのはリンガーハットの麺2倍増量。ここだけは以前と同じで一切リハビリしていません(笑)
高次脳機能障害の「障害」は、共通の部分もあれば、人によって違いもあるということです。
ですからなかなか理解されにくい、助けてもらいにくい障害です。
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高次脳機能障害はだれでも可能性がある
こういう話を書いても、大半の無関係な人には、別の世界の話と感じられるかもしれません。
まあ確かに、3度も倒れて、しかも社会復帰した「化け物」の山田規畝子さんのケースはそうないかもしれません。
しかし、脳の障害自体は、誰にでもあり得ます。
脳溢血、脳出血、くも膜下出血、心筋梗塞……、生活習慣病の中には、脳にダメージを残す可能性のあるものはいくつも存在します。
不幸にも亡くなったら、悲しいけれどそこで終われます。
でも、もし九死に一生を得、それと引き換えに高次脳機能障害になったらどうしますか。
脳障害の人生はそこから始まるのです。
自分も大変。家族も大変です。
山田規畝子さんは、たんに現在の高次脳機能障害者だけでなく、誰でもなり得るものだから、その対応や心構えや経験談を不自由な体でも記しておこうと思ったそうです。
同書には、子どもの高次脳機能障害の専門医として有名な、橋本圭司医師のコラムも入っています。
橋本圭司医師には、今も靴の中敷きを作る病院でたまに診察を受けています。
遷延性意識障害時代には、やはりリハビリで有名な紙屋克子さんにいろいろアドバイスをいただきました。
私がそうした第一人者にすぐにアプローチできたのは、ネットがあったことと、こうした書籍で名前を知っていたからです。
今、直接自分に関係のないことでも、脳内体験を増やすつもりで、こうした書籍を読まれておくと、もしかしたら、将来、読んでおいてよかった、と思う時が来るかもしれませんよ。
もちろん、そういうことはないにこしたことはありませんが……。
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