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東国原英夫氏文藝春秋に勝訴、のニュースで気になること [社会]

東国原英夫氏が、文藝春秋社に勝訴したニュースが話題になっています。数行のニュースだけで裁判の記録を見ていないからわかりませんが、私が気になるのは、文藝春秋側が、どうして「十分な裏付け取材をした形跡」がないと、裁判官に見られたのかということです。

ネット掲示板では、出版社が敗訴すると、すぐに「マスゴミは妄想を書く」と騒ぎ始めるのですが、私の考えは違います。

スタッフも大勢いて、取材資金も他社に比べると潤沢に使って記事を作る文藝春秋ほどの大出版社が、名もないカストリ雑誌のような妄想で記事を作るというのは考えにくい。

何十万部も発行している雑誌です。そんなことをしたらどうなるか、当然わかっているでしょう。

同社には、編集部とは別に法務部があり、法的な問題になりそうなきわどい情報について十分注意を払っていることは、過日の記事「清原和博氏VS週刊文春、薬物報道による名誉毀損訴訟はどうなる!」で書いたとおりです。

ニュースを引用しましょう。
「女性職員と関係」記事、東国原氏が文春に勝訴
読売新聞 6月30日(月)20時9分配信
 宮崎県知事時代に女性職員らと性的関係を持ったなどと報じた週刊文春の記事で名誉を傷つけられたとして、東国原英夫・前知事(56)が発行元の文芸春秋に2200万円の損害賠償などを求めた訴訟で、東京地裁(吉田徹裁判長)は30日、名誉毀損(きそん)の成立を認め、同社に220万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
 同誌は2012年9月20日号で、「(前知事宅に)宿泊した女性は30人ほどいる」などの記事を掲載。文春側は「秘書らに取材した」と主張したが、判決は、前知事側が指摘した9か所の記述のうち6か所について、「十分な裏付け取材をした形跡はなく、真実だと認めることはできない」と判断した。
 文芸春秋の話「当方の主張を認めていない部分があり、遺憾。控訴も検討する」
出版社側が名誉毀損裁判で負けるのは、

1.妄想で事実無根を書きトバシたか
2.裏を取る取材はあったのだけれど、取材源を秘匿する“マスコミの掟”のため、裁判でそれを明かせなかったのか

そのどちらかです。

前者であればもちろん論外であり、出版社に同情の余地ナシですが、もし後者であるとすると、言論機関にとって好ましくない判決です。私が心配しているのはそこです。

東国原英夫氏文藝春秋に勝訴を考える

文藝春秋社だけの問題ではないのです。

ひとたびマスコミが裁判されたら、記事のもととなった取材源を明かさないと敗訴してしまうという判例は、メディアの取材と記事作りをスポイルしてしまうのです。

なぜなら、秘匿を条件に情報を聞き出すことがむずかしくなってしまうからです。

企業や団体の闇は、その組織内部の人間のリークから始まりますが、情報源の秘匿が保証されなかったら、情報提供をしてもらいにくくなることは間違いないでしょう。

といっても、マスコミも無謬ではありませんから、ホントに取材したのかを確認することは当然だと思います。

ですから、情報提供者はわからなくても、存在する取材メモだけで取材があったことが認められるとか、裁判もそのへんが柔軟であるといいのになと思うのです。

日記が証拠になって勝訴した裁判だって過去にはあります。

編集部は記者に対して、被取材者は特定できないけど取材したことがわかるメモの取り方を指導する必要があるでしょうね。

もっとも、取材メモ自体、記者にとっては料理人の味付けと同じで公表したくないものかもしれませんが、こういう時代ですから仕方ありません。

空前の「疑惑」が「シロ」と事実上確定した日


やはり文藝春秋社の報道が発端でしたが、16年前の1998年7月1日。東京高裁は「ロス疑惑」といわれる銃撃事件の控訴審で、殺人罪などに問われた被告人の一審の無期懲役判決を破棄して無罪判決を言い渡しています。

ロス疑惑。事件から33年。判決から16年たつのですね。もうご存じない方のほうが多いのかな。

1981年11月18日に、ロスで「ラテン系の2人組の強盗に襲われた」と夫が証言する銃撃事件で妻が植物人間に。夫は大統領や州知事などに抗議文を送り、日本のマスコミは「美談の人」「悲劇の人」と大騒ぎしました。

ところが2年後の1984年1月19日。文藝春秋社の『週刊文春』において、実は「美談の人」である夫が仕組んだ総額1億6600万円の保険金殺人であるという「疑惑の銃弾」記事が掲載されました。

以来マスコミは、コロッと手のひらを返して、夫についてあることないこと書き立てましたが、肝心のロス疑惑に限っていえば、まさに疑惑の目で見る人がほとんどだったのではないでしょうか。

あれは、『週刊文春』の記事がなかったら事件として取り扱われるかどうかもわからなかったし、そもそも世間は「美談」として受け止めたままだったと思います。

でも、もし今、あのような記事が出たら、真実相当性が厳しく問われる名誉毀損裁判で争われるでしょう。

最近もありました。覚せい剤報道に対して、訴訟をちらつかせた歌手と元野球選手。

しかし、少なくとも歌手の方は、その後本当にその容疑で逮捕されました。

私は、誤った記事は応分の責任を負うべきだと思います。

しかし、メディアの報道が事態を真実へ動かす役割を果たすこともあるのです。

都合のいいことは信じるくせに、敗訴や誤報の時に結果だけ見て「マスゴミ」なんて口汚く居丈高に叱り飛ばす方々。

どうして敗訴したのだろう、どうして誤報だったのだろう、というところまで見届けた上で、建設的な批判や提案をしてほしいと私は思います。

三浦和義との闘い―疑惑の銃弾

三浦和義との闘い―疑惑の銃弾

  • 作者: 安倍 隆典
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1985/10
  • メディア: ハードカバー


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