自己破産という文字が、ここのところ目につきます。2月にステーキレストラン「銀座4丁目スエヒロ」を経営するスエヒロ商事が、負債総額9億7200万円で東京地裁から破産手続きの開始決定を受けたと報じられました。ピザの宅配を行う「ピザ・ウイリー」も、先月は木の実ナナが所属する芸能事務所「アトリエ・ダンカン」も自己破産しています。
年度が変わるこの時期は、破産の季節なのでしょうか。
16年前の98年4月6日には、岸部四郎が13年半つとめた日本テレビ朝のワイドショー『ルックルックこんにちは』の司会者を番組終了後に突然降板。やはり自己破産しています。
『笑っていいとも!』を32年つとめたタモリほどではないにしても、推定年間1億2000万円といわれていたギャラで13年もの長きにわたって帯番組の司会をしていれば相当な収入であり、蓄財だって可能なはずです。
しかも、岸部シローは業界でも有名な吝嗇家であり、また本人もそれを隠さず、テレビ番組でしばしばその“締まった経済観念”を開陳していました。
それだけに、「ではいったいそのお金はどこにいったのだ」と、当時のマスコミにはいろいろ書かれたものです。前夫人への慰謝料・養育費や、バブル破たんによる事業の行き詰りなどが積み重なったと言われています。
自己破産でリセットする
岸部シローが、『ルックルックこんにちは』と掛け持ちで、テレビ朝日のテレビドラマ『ママ、大変だァ!』(86年)に出演した時、私もその他大勢の、救急隊なのか白衣を着てタンカで人を運ぶ役で、そのドラマに出た記憶があります。
出番になって控室から出てきた岸部四郎は、思ったより体格もよく、ワイシャツをズボンに入れなおしてスタジオに歩いて行ったのを見たのが、実物をお目にかかった唯一の機会でした。
当時の報道では、4月3日に岸部四郎が「手形の具合が悪くなった。月曜日に決済だから、様子を見たい」と担当プロデューサーに申し入れ。その3日後である6日の番組終了後に「やっぱり金策がつかず、不渡りが出ることになった。番組に迷惑がかかるので辞めたい」と申し出。局は協議の末、「情報番組の司会としては不適切」と急遽降板を決めた、となっています。
突然の降板だったし、またそうせざるを得ない重大事であると局も判断したようです。
何しろ負債は、3億6000万~5億8000万円まで諸説飛び交い、利息だけで毎月1200万円(98年4月21日付「夕刊フジ」)といわれていました。つまり、『ルックルックこんにちは』の1年分のギャラがそのまま利息になってしまう計算です。それではどうにもならなかったのでしょう。翌年3月に債務の免責が決定しました。
で、問題はここからですが、岸部四郎はその後、2002年に個人向け無担保ローン「ビンゴローン」のナレーションで、なし崩しに芸能界にカムバックしました。
もちろん、自己破産したから社会的に葬られるべき、とは思いません。ただ、同じ仕事にカムバックするのは正直債権者からすれば面白く無いんじゃないかと思います。
岸部四郎は破産して“リセット”した後、間もなくして横浜の高台にある60坪の一戸建てに住むようになったといわれますが、債権者の中には、そのトバッチリで、逆にマイホームを諦めなければならなくなった人もいたかもしれません。
それは、少なくとも法人(会社)では許されていません。
法人の債務は、その法人が清算結了(登記上消えること)されたら消え去ます。
そのルールを利用して、たとえば法人事業者の中には、債権者から逃れるためにその会社をいったん倒産させて、別会社を作って同じ仕事をすることがあります。
しかし、債権者は「法人格否認の法理」という根拠で、本来なら免責されてしまう前会社の債権を新会社に求める戦い方があります。。
岸部四郎が同じ仕事にカムバックしたということは、まさにいったん「倒産」して借金をチャラにしてから、また同じ仕事をしていることになります。
昨今、自己破産は「借金を合法的にゼロにする方法」として奨励する声も聞きます。
しかし、1人の「逃げるが勝ち」の自己破産によって、連鎖的に別の人を巻き込むかもしれないこの“リセット”は、無原則に推奨できることなのかどうか、むずかしいところがあります。
つまり、まじめにやっていてバカを見る奴が出る不条理なルールだからです。
あなたは自己破産、賛成ですか、反対ですか。
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