『うちの親には困ったものだー老いた親とうまくつきあう方法』(バーバラ・ケイン、グレース・レボウ著、江口泰子訳、草思社)という書籍を読みました。新刊ではありません(2007年刊)が、もちろん現在でも通用する内容です。タイトル通り、「困った親」のパターンを7通りに分類。それぞれの特徴や対し方を説き、振り回されずに上手に付き合うことを指南する内容です。
著者2人は、海外のケアマネージメント組織「エイジング・ネットワーク・サービシズ」を設立したソーシャルワーカーです。
パーソナリティ障害や、神経症性障害など、老年期精神障害の老親を抱えて、ストレスの溜まった介護者の相談を受けています。
こうした障害は、ここまではなんでもなくて、ここから先は障害だ、というはっきりとした線引ができるものではなく、白と黒の間のグレーゾーンの人も少なくありません。
また、加齢一般の現象として、大脳皮質が衰え、物忘れがあったり、体力が落ちたり、人生の「先」を意識することで価値観が変わったりしても人格的には若い時のままのため、そのギャップから周囲の介護者がストレスに感じることもあるかもしれません。
年齢というのは、だれにでも平等です。
80年生きたとして、誰でも赤ん坊の頃もあれば、20代の頃もあれば、50代の頃もあります。
そして、老年期精神障害もいつ誰がなるかもわかりません。
つまり、この書籍は、今該当する「困った親」だけでなく、実は人間として生まれた者すべてに関係ある話です。
同書には、序章に「困った親のチェックリスト」が書かれています。該当するものにチェックを入れることで、相対的な「困った」度がわかるようになっています。
これは、自分の親のことだけでなく、子のいない人でも、まだ若い人でも、自分のことについてチェックを入れてみると面白いと思います。
私も「自分」についてやってみましたが、「人をうんざりさせるふるまい」ところのチェックが多かったので苦笑しました。私も「困った親」の危険因子があるわけです。
「使用及び複製を禁ずる」とのことなので設問は引用しませんが、興味ある方は同書をご覧ください。
1章~7章については、各章ごとに「困った親」のパターンと対処法が書かれています。
子供にしがみつく親
白か黒かで判断する親
人をうんざりさせる親
自己中心的な親
支配したがる親
自己虐待と抑うつに苦しむ親
怖がりの親
たとえば、「自己中心的な親」の場合は、子が親を満足させられるという幻想は捨て、「あなたに何ができ、あなた以外の人に何ができるか、親にはっきりと伝え」、穏やかで、相手を安心させるようにヘルパーを受け入れる話し合いを行うと良いと書かれています。
そして、「親との同居を断る話し合いの原則」は次のように書かれています。
・できるだけ正直に話しながら、親の顔も立てるようにする。
・つねに親切に、思いやりのある態度で。
・たとえ同居できなくても、気にかけ、大切に思っていることを伝え、親を安心させる。
・率直になる。親が同居をほのめかしたらオープンに話しあう。
・自己防衛的にならない。自分の身を守ろうとすれば、必ず相手も対抗して自分の身を守るような言い合いになる。
・親の言い分に耳を貸し、尊重するが、あくまでも自分の立場を貫き、明確にする。
「親」の部分を「上司」「部下」などに置き換えても通用しますね。
同書は、人として尊重することを何よりの原則としていますが、それは親子関係だけではなく、人間関係の普遍的な原則と言っていいかもしれません。
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タブー視せずに向き合いたい
ただ、「親の話」になると、えてして、親は親なのだから大事にしなければならない。一言たりとも文句をいうのは親不孝であり、人の道を外れている、と考えてしまう「立派な人」がいます。
一方、最近の老年期精神障害それ自体のためでなく、そもそも昔から親子関係が良好ではなかったので、子は親を介護したい気持ちがあっても、複雑な思いを持っている介護者(子)もいると思います
そういう人の中には、親にひどいことをされても、「ひどいことをされたから我慢できる今の自分がある」なんて無理に善意のこじつけに走る「ポジティブシンキング」で自分を抑えようとする健気な人がいます。
しかし、子どもとして立派であるべきと、自分の価値観と両立しない不満に我慢やこじつけの上塗りをしたら、逆に自らの心のひずみやすさみを見えなくして、自分自身が混乱するだけです。
子供にとって、親は選べないし、親の教えやDNAや生活環境(ほしのもと)が、人生において自分の力の及ばないところで影響を与えることもあるのですから、子が親に対して不満や恨みごとがないほうがおかしいのです。
といっても、ただ癇癪を起こして、親を罵倒してもその問題は決して解決しないでしょう。
同書は、親子関係が好転しないのは、双方の問題があるという前提で、親との苦痛な関係を根本的に改善するために、「困った親」の類型やその会話のノウハウなどを示しています。
ですから、この問題は、何も「人の道を外れること」「親不孝なこと」などと逃げる必要はないと思います。
同書は、ソーシャルワーカーの冷静な記述に貫かれていますが、決して紋切り型の類型論や善悪論ではなく、介護者と親に対するものの見方は暖かさを感じます。
今、親子の問題で悩んで得られる方は、自分の本音を隠さず、素直な気持ちでこの書籍を読み、どう対処して行ったらいいのか理解を助けてもらえば、親子共に、これまでよりもよい関係を築けるかもしれません。
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