『紙屋克子看護の心そして技術』(紙屋克子著、中央出版)という書籍をご紹介します。著者である紙屋克子さんは、寝たきりの患者に対して、劇的な回復を看護の力で実現した有名な看護師・看護学者です。医師ではなく看護師、というところがポイントです。同書で披露されているその看護技術は、実際にそうした患者の家庭で活用できるものです。
このブログ「戦後史の激動」には、遷延性意識障害というキーワードでのアクセスもありますが、患者さんの家族や近い人なのだろうと思います。
遷延性意識障害とは、交通事故や火災、水難、心筋梗塞や脳卒中などで、脳組織が壊れたり、低酸素脳症になったりして脳の機能が損傷し、重度の昏睡状態にあったり、覚醒はしても自力で自分の行動を起こせない植物症状態にあったりすることをいいます。
回復する可能性はあるので「遷延性」といいます。ただ、脳にダメージを負っていったん昏睡状態に陥り、そこで長い時間経過した人が、私たちが朝、起床するように普通に目を覚ますというのは、医学に詳しくなくても考えにくい。
紙屋克子さんは、その植物症状態で、自力行動が困難な人が、限られた機能を使ってなるべく少ない動きで最低限のコントロールを自主的にできるような技術を提案してきました。
植物症状態というのは、本人が何よりつらいですが、介護する人も大変です。
経験のない人は、家族のどなたかを、入浴させたり、だっこしてベッドに寝せたりしてみればわかると思います。
子供でも30キロぐらいあったら一苦労。体の大きな大人ならなおさらです。
それが1日24時間、その人が生きている限り続くのです。
同書は、紙屋克子さんが向き合ってこられた看護体験と技術講座が書かれています。
技術講座は、実際の講座を、文章と写真で再現しているので、実践しやすくなっています。
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だれでも必要になる可能性はある
「いや、我が家はみんな健康だからそういうの関係ないから」
と思われるあなた。
私も2.5年前まではそう思っていました。
ところが、突然の火災で妻子三人がいっぺんに意識不明の重体になり、私は病院で、寝たきり患者のたんのすすり方、流動食の食べさせ方、風呂の入れ方などを毎日面会時に看護師から教えられました。
病院側は、家族に回復の見込みはないわけではないが当面は難しい(で、たぶん回復はしないだろう)という前提で、そうしたわけです。
見込みがないから在宅でやってろ、と放り出すのではなく、きちんと私がその技術を身につけるまで入院をさせてくれたことについて、私は今もその病院に大変感謝しています。
まあ、妻も第三次救命救急患者だったので、私ができなかったらする人がいなかったわけですが。
私も当時は必死だったので、今やれと言われてもたぶん忘れてしまってできませんが、紙屋克子さんの病院の看護師さんに直接連絡を取り、いろいろアドバイスをしていただきました。
紙屋克子さんの書籍を読んで、そして体験的にも気づいたのは、看護の自治ができている病院の素晴らしさです。
私の長男が、火災で救急病院から別の病院のICUに入り、さらに妻の入院する大学病院に転院したのですが、転院の時点では寝たきりでした。何しろ車いすに乗せても自力で座り直せない状態でしたから。
それを、担当看護師のアイデアで、病室から風呂場までを車いすではなく歩行器で歩かせるようにしました。
最初はもう、歩行器につかまって引きづられるような感じでした。ちょっとはやいかなあと思いましたが、だんだん足取りがしっかりして、それが自力歩行回復につながったのだろうと思います。
もし、寝たきりで、たまに車いすで散歩するぐらいだったら、回復したとしてもかなり遅れていたでしょう。
もちろん、医師の許可をとってのことでしょうが、看護師は看護師の立場で患者と向き合っています。ですから、そこで提案できるものもあると思うのです。それが生かされることは、患者にとっても嬉しいことです。
なんでもないよ、と思っておられる方も、紙屋克子さん、という名前だけでも覚えておかれるといいと思います。
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