SSブログ

『気まぐれ本格派』を三ツ矢歌子さんの命日に思い出す [懐かし映画・ドラマ]

『気まぐれ本格派』(ユニオン映画、日本テレビ、1977年)という石立鉄男主演のドラマに出演していた、三ツ矢歌子さんが亡くなったのは、10年前(2004年)の3月24日でした。このドラマはマニアの間でも評価がわかれますが、マドンナ役で出演していた三ツ矢歌子さんについては概ね好評でした。



三ツ矢歌子さんをネットで調べると、たいていは「新東宝でデビューして昼メロの女王で……」と紹介されているのですが、たぶんネット利用者のほとんどはいずれも見ていないですよね。

実は私もほとんど見ていません。

つまり、少なくともネット利用者の多くの人が、女優・三ツ矢歌子の活躍を知らないのではないかと思うのです。

気まぐれ本格派.jpg
『気まぐれ本格派』より

私がその名前を最初に知ったのは、NHKの『お笑いオンステージ』という番組でした。

三波伸介が、子供の話を聞きながら父親の似顔絵を書いて、そして父親が出てくるという「減点パパ」のコーナーに、夫の映画監督・小野田嘉幹氏が登場した回です。

三波伸介が、「お母さんの三ツ矢歌子さんも客席に見に来ています」と紹介されていました。1975年頃だったと思います。

ウソのなさそうな笑顔と、三ツ矢サイダーの「三ツ矢」プラス庶民的な「歌子」という名前が印象的でした。

その後、ザ・ピーナッツとクレージーキャッツが出演していた『シャボン玉ホリデー』が土曜夜に復活(1976年)したとき、藤村俊二やピンク・レディーや車だん吉らと一緒に出ていましたが、藤村俊二にからかわれて、背中を叩いているだけで、なんか機転の利かなそうなもっさりしたおばさんだなあ、というイメージでした。

番組自体、つまらないので三ツ矢歌子の良さを引き出せなかったのかもしれませんし。ポスト・ザ・ピーナッツがピンク・レディーというところで「違うだろう」って感じでしたから。

それ以外には、『妻と女の間』(1975年)という昼メロでちょいとエッチなシーンが話題になり、『それ行け!カッチン』(国際放映、TBS、1975年)という子供向けのドラマでのお母さん役も、とくに可もなく不可もなしという感じでした。

そして、次に見たのが『気まぐれ本格派』です。この作品で、私は三ツ矢歌子の評価が変わりました。

スポンサードリンク↓

寡婦役を温かく切なく演じた


『気まぐれ本格派』というのは、松木ひろし脚本、石立鉄男主演、ユニオン映画制作のテレビドラマ、いわゆる「石立鉄男ドラマシリーズ」7作品の中で最後に作られたものです。

中条静夫

「石立ドラマ」はいずれも、最初の放送の時はそれほど注目されていませんでしたが、何度も再放送するうちに評価が高まり、時は流れて現在CS・チャンネルNECOでは、そのシリーズを放送する枠があるほどの人気作品になっています。

ストーリーは、『無法松の一生』をモチーフにしているといわれました。『無法松の一生』ご存じですか。私は子供の頃、勝新太郎主演だったと思いますが映画で見ました。

夫を亡くした婦人と息子に、無私の献身をする人力車夫の話です。

『気まぐれ本格派』では、夫を亡くした婦人が三ツ矢歌子、息子が『あばれはっちゃく』などで活躍した吉田友紀、夫の弟の人力車夫ならぬ航海士が石立鉄男です。

シリーズの集大成に、ということで、石立鉄男も企画から入ったと当時雑誌に紹介されていました。

石立鉄男演じる主人公清水一寛は、実家の商売(貸衣装店)も、そののれんを守る長兄(山本學)とも合わなかったが、自分の都合が原因で身代わりに出かけた兄が交通事故死。しかもその兄の妻は、男に捨てられて死のうとしていたところを、兄がお腹の子ごと引き取って結婚したことを知る。一寛は“天職”の海の仕事をやめて、兄嫁と息子のために貸衣装店の仕事をする、という話です。

ドラマの評価は様々です。

松木ひろし以外に実績のあるライターがあまり担当しておらず、とくに後半は若いライターの習作のような感じになっていたため、松木ひろし脚本の回以外は、目を覆いたくなるような駄作も正直ありました。

ただ、元になるストーリーや個々の役者の評価は悪くないようです。

親子や兄妹の関係が、温かく切なく表現されていたと思います。

三ツ矢歌子さんは、正直言って演技派ではなく、とくにこの作品の役柄はちょっとおっとりし過ぎてボケを次々かます台詞が棒読みではないか、という指摘もネットのマニアからは書き込まれています。

ただ、息子を叱ったり諭したりするシーンは、説得力がありました。

実生活では寡婦ではなかったわけですが、「お父さんのいない子だからこそしっかり育って」という母親の思いがきちんと表現されていて、ああ、本当に子供のいる人なんだな、実生活もこうなんだろうな、と思いました。

もっとも、厳しくしすぎたのか、リアルの息子さんは事件を起こして芸能マスコミを騒がせてしまいましたが。

石立鉄男ドラマというと、『パパと呼ばないで』や『雑居時代』の評価が高いのですが、私は「ひとつ選べ」といわれたら、このドラマをベストワークに選んでしまうかもしれません。

三ツ矢歌子さんの最後の仕事は、山村聰さんの演出で、犬塚弘との舞台だったと思います。犬塚弘のペーソスと、三ツ矢歌子のくったくのない笑顔が印象に残ります。山村聰さんの遺作でもありました。

さて、夫の小野田嘉幹氏は、『鬼平犯科帳』の演出で最近まで現役でしたが、昨年夏の『週刊新潮』にはびっくりするような記事が出て話題になりました。

一文無しで生活保護を受けながら四畳一間のアパート住まい。映画を撮って借金を返したいが、歩くこともままならない、という内容です。

映画人としていい仕事をしても、自分の人生をハッピーエンドに演出することは難しいんですね。

気まぐれ本格派 コンプリートDVD-BOX(10枚組) [DVD]

気まぐれ本格派 コンプリートDVD-BOX(10枚組) [DVD]

  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2012/02/23
  • メディア: DVD


nice!(320) 
共通テーマ:テレビ

nice! 320

Facebook コメント

Copyright © 戦後史の激動 All Rights Reserved.
当サイトのテキスト・画像等すべての転載転用、商用販売を固く禁じます