『社長道中記』(1961年、東宝)が収録されたDVDマガジン『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVol.25』(講談社)が3月11日に発売されたので、さっそく鑑賞しました。この作品は、「社長シリーズ」といわれている、東宝が1956年~1970年までに33本製作された、タイトル通り社長と、重役、秘書、宴会部長(役職は営業部長)などが登場する喜劇映画のシリーズです。
社長シリーズは喜劇ですが、高度経済成長時代らしく、大きな取引をまとめるというビジネスを前面に出したストーリーで、かつ東宝らしいちょっとハイソで明るく楽しい展開が特徴です。
作品はそれぞれ別の話で、途中でメンバーが入れ替わりますが、主要な登場人物とストーリー展開はだいたい決まっています。
いろいろあるけど最後は成約。ただし、社長は狙っていた浮気はできなかった、そんな感じですね。
社長役が森繁久彌、秘書(シリーズ終盤は専務に「昇進」)役が小林桂樹、部長役が加東大介、宴会部長が三木のり平。
社長夫人は多くが久慈あさみ。たいてい娘がいて、東宝期待の女優が抜擢されています。浜美枝、中真千子、岡田可愛などです。今回の『社長道中記』では、クレージー映画でブレイクする前の浜美枝を見ることができます。
その他、怪しいバイヤーや商売敵、取引したい会社の社長、そして、森繁久彌社長が密かに浮気したい相手が必ずいます。淡路恵子、草笛光子、新珠三千代、池内淳子など、こちらも東宝映画ではお馴染みの面々です。
各作品は、もちろん映画としてのデフォルメはありますが、高度経済成長時代の経営者やサラリーマンがよく描けています。
お得意様の接待、ゴルフなんて当たり前のように出てきます。いつも仕事三昧。メールで用事は済ませません。
思うに、当時も働き詰めだったはずですが、少なくとも今ほど「過労死」は問題になってないですよね。
どうしてでしょうね。それだけ今が人権重視のいい時代になったのか、それとも現代の労働環境が当時よりも人間疎外の度合いがひどく、働く人が耐えられないのか。昔のほうが「右肩上がり」の時代で働く人のモチベーションが高かったのか。
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安心して笑えてロケも懐かしい
今回の『社長道中記』は、源氏鶏太の『随行さん』が原作。「シリーズの中でも良くできた1作」(『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVol.25』で泉麻人氏)で、笑えるシーンがひっきりなしに出てきます。
といっても大げさな仕掛けはありません。ありがちだな、とか、やらないかもしれないけどやりたいとは思うだろうなというような、他愛ないことなんですが、ツボにはまるのです。
たとえばこんな感じで……
大阪出張で、「こだま」(新幹線ができる前の特急)の2等車(今のグリーン車)に乗った森繁久彌社長と小林桂樹随行社員。小林社員の隣に妙齢の美女(飛鳥みさ子)が座ったので、強引に席を変えてもらう森繁社長。
ところが、美女は祖母(飯田蝶子)の代わりに座っていただけで、席を変えられた小林社員の隣にはこれまた美しい女性(新珠三千代)が。
すると、またいろいろ理屈をつけて小林社員に席を変わってもらう森繁社長。大の大人が隣席の女性を理由にぐるぐる席を交代する光景がなんとも滑稽です。
さらに、森繁社長は助平心を起こして自分と女性のためにジュースを買いに行くが、その間に、小林社員と新珠三千代が席を交代したため、森繁社長が戻って来たら隣は小林社員でジュースも飲まれてしまったというオチ。
この間のテンポの良さと、席を替えさせる森繁社長の屁理屈がクスっと笑えます。
ちなみにこのシリーズは、森繁社長が浮気しそうでできない展開が「お約束」なのですが、その意味では観客も、たぶん浮気までは行かないんだろうなと最初から結末はわかっていて、森繁社長がどう自滅するかを楽しんでいるわけです。
ストーリーは、森繁久彌社長の缶詰会社が、大阪のテコ入れで念願だった現地の商社と取引にこぎつけたという話。
当時の「こだま」や、当時はなかなか行けなかった国内随一の観光地・南紀白浜などが登場し、ロケーションもお宝です。
配給は1961年。私はリアルでは見ていませんが、子供の頃、テレビで放送されてこの作品を観ました。取引先社長がもっと年寄りかと思ったら三橋達也だったのがちょっとびっくり。昔の記憶というのはあてになりません。また見る機会ができてよかったと思っています。
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