『アジャパー天国』(1953年、新東宝)という映画を見ました。タイトル通り、伴淳三郎が出演する作品です。花菱アチャコのほか、柳家金語楼、古川ロッパと、当時の3大喜劇人が出演しているのが見どころです。後のテレビドラマの、いわゆるシチュエーション・コメディ(situation comedy)で使われた設定やストーリー展開は、制作者の意図や自覚にかかわらず、先駆的な意義はあった作品ではないかと思います。
今回も、『カックン超特急/脱線三銃士』に続き、
青山実花さんのご紹介です。ありがとうございます。
Amazonの内容(「キネマ旬報社」データベースより)によると、この作品は「“アジャパー”という流行語を産み出した喜劇映画」となっています。
しかし、私が映画の書物などで知ったのは、『吃七捕物帖』(1951年)の「アジャジャーにしてパーでございます」というセリフということでした。
ネットの
日本語俗語辞書でもそう説明されていますね。
「アジャジャー」というのは山形の方言で「あれまあ」。『あまちゃん』の「じぇじぇ」みたいなもんですね。パーは「クルクル……」の「パー」。要するに驚き呆れ困惑する、という感情や状態をあらわすギャグです。
「アジャジャーにしてパー」が「アジャパー」になって、この作品で、タイトルとして採用されて認知されることとなったのでしょう。
不確かな話で恐縮ですが、何しろ私がアジャパーというギャグを知ったのはそれより20年以上たってからの赤塚不二夫の漫画でした。ニャロメだったかが、下瞼を出して両手両足を広げて「アジャパー」と言っていたのを見たのが初めてです。
ただ、伴淳三郎のアジャパーはそれと違って、「パー」と言う時に掌を上に向けて開きます。
往年の喜劇役者が出演
出演者は、芸能史上よく名前が出てくる、いわゆる一世を風靡した人がずいぶん出ているのでびっくり。
伴淳三郎、清川虹子、古川緑波、内海突破、花菱アチャコ、柳家金語楼、益田喜頓、堺駿二(堺正章の父親)、高島忠夫、田端義夫、トニー谷。
たぶん当時なら、俳優の顔ぶれで映画館をいっぱいにしたんでしょうね。
益田喜頓が、悪役ということもありますが、まだ若かったので顔もしまっているし、田端義夫というとギター抱えている光景しか思い浮かばないので、学生服着た熱演はなかなかおもしろかったです。
角川博が裏声でしゃべっているような堺正章の父親は、この頃超売れっ子だったんだよなあなんて思いながら観ました。
ストーリーは、伴淳三郎演じるズンさんの住む貧乏アパート「白百合荘」の住人を中心に、3つの話が並行して展開されています。
ひとつは、小学校の先生をしている住人(古川緑波)の息子の大学生(高島忠夫)と、崖の上に建つ裕福な邸宅の娘(星美智子)との格差恋愛問題。
もうひとつは、アパートの住人清川虹子演じる妻と、戦争が終わってからも帰ってこない夫(田中春男)と、清川に恋焦がれる靴磨き(柳家金語楼)との関係。
さらに、崖の上の邸宅を食い物にしようと企んだたキャバレーの支配人(益田喜頓)が、弟(堺駿二)と崖の上の邸宅の娘を結婚させようと暗躍する展開。
堺駿二が裏切ったことで怒った益田喜頓が、ビール瓶で境の頭を叩き割り、大騒動を画面狭しと繰り広げるクライマックスシーンが始まります。
1950年代の文化がわかりませんが、ビール瓶のシーンは、飴硝子を使っていても今なら作れないでしょう。
結局悪人は消え、キャバレーは支配人がズンさんになりハッピーエンド。最後は出演者がダンスを踊ってアジャパーの歌を歌い終わります。
どこも「アジャパー」なところはなく、133分の長尺映画としてはよくまとまっていると思いました。
トニー谷も出てきます。
「レディース・エン・ジェントルメン、おとっつぁん、おっかさん……」と、伝説となった芸を見せてくれます。
往年の傑作選、楽しいものです。
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