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『脳はバカ、腸はかしこい』のウソ・ホント [健康]

『脳はバカ、腸はかしこい』(三五館)という書籍を読みました。著者は藤田紘一郎氏。カイチュウ博士なんていわれていますね。免疫の問題にも詳しい。つまり、腸の専門家です。今回は、脳と比べて腸がいかに賢いかという話を書いています。腸を中心に生活を考えた方が良いということです。新刊本ではないのですが、レビュー記事も多いようなので私も読んでみました。

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『脳はバカ、腸はかしこい』では、とにかく腸の機能の高度で精緻なことを述べています。今回その引き立て役にされているのは脳です。

同書のまえがきにはこう書かれています。
たらふく食べて、セックスして、野に出て運動して、おしゃべりして…… これで脳の報酬系は満足してしまいます。このように脳はうわべだけの満足ばかり求め、意志薄弱でうぬぼれも強いのです。常に真実をねじ曲げ、偏見まみれなのです。ところが腸は反対に意志が強固です。だましたり、だまされたり、勘違いなどしません。なぜなのでしょう。
脳の報酬系というのは、欲求が満たされた(る)とき活性化し、その快感覚を与える神経系のことです。

人間の脳は、客観的にものを見ているわけではなく、その人の哲学や経験や意図や気分といったバイアスがかかる。うぬぼれ屋で感情的でもある。だから、合理的でない間違った判断をくだすことがある。

しかし、腸はそうではない。「便通」を通して健康になるための便りを常に発信している。

たとえば、人間は欲望で食べてしまう。しかし、腸は悪いものを食べれば下痢をする。だから腸は信用できる。

要するに、自分の「思うこと」(脳)で判断すると、思い込みで誤ったことをするが、腸が順調になるような生活なら、間違いなく本来あるべき姿であるという話です。

頭でっかちになってはいけない、人間は間違いうる、という話は全くそのとおりだと思います。

この趣旨について異論はありません。

ただ、一部に「結局どうしたら良いのか…が書かれていないので消化不良」というレビューがあるように、そのためのたとえや、結論としての啓蒙の仕方が少し偏っているように見えるかもしれません。

そもそも、脳と腸を対決させて、腸>脳という構成に違和感があります。

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腸だって間違うことがあるし……


「脳は食べ物が安全かどうかは判断できませんが、腸にはそれができるのです」と、「腸の優越」が大仰に書かれているくだりがあります。

具体的にどういうことかというと、食中毒菌が混入している食べ物でも、脳は食べなさいとシグナルを出すが、腸は菌が入ると拒絶反応を起こすからというのです。

腸が毒をお腹を下して排泄するのは、「食中毒菌が混入している」かどうかを「判断」したからではなく、胃から消化されてきたものに対して栄養になるものは取り込み、そうでない毒は拒絶するというシステマチックな「反応」を示しただけはないでしょうか。

「判断」と「反応」は違います。

「判断」ということは、未知のものに対しても回答を出さなければなりませんが、その点で腸は絶対にミスをしないのか。そんなことはないですよね。

たとえば、あるはずがないといわれた人間のBSE由来のプリオン病。プリオンは腸から吸収されたといわれていますよね。

腸は毒を排泄する機能がありますが、同じように鼻は腐ったものなら匂いでわかるし、傷んだものは舌でもわかることがあります。で、その機能を司るのは脳です。脳だって「食べなさいとシグナルを出」しているばかりではなく食い止めることはあります。著者の論理に従っても、腸>脳という主張はストンと胸に落ちません。

また、同書には、脳がないミミズが、腸内細菌で地球環境に貢献しているとか、ミミズの生薬が脳梗塞や利尿効果にいいなどといった話も書かれています。

腸>脳といいたくて、脳のないものがいかに素晴らしいかを書いているわけです。

が、これはもう「脳対腸」すらからも外れています。話を広げすぎです。

同書でいう、頭でっかちになってはいけないということ。

それは脳を否定する方向ではなく、脳の使い方、判断の仕方を再考しましょうという啓蒙であるべきですし、読者にそれをきちんと伝えなければなりません。

きっと、同書はそれが十分ではないと見られたのでしょう。だから、「結局どうしたら良いのか…が書かれていないので消化不良」なんて酷評になったのだと思います。

ミミズの漢方薬の話なんかよりも、それが大事なのに。

要するに、著者は腸に思い入れるあまり、少し余計なことも書かれているが、脳で「判断」するときは、自分の心境や欲望だけでなく、腸の調子に考慮しましょう、ということでいいんじゃないかと思います。

脳はバカ、腸はかしこい

脳はバカ、腸はかしこい

  • 作者: 藤田 紘一郎
  • 出版社/メーカー: 三五館
  • 発売日: 2012/10/20
  • メディア: 単行本


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