『「鼻の横を押す」と病気が治る』(マキノ出版)という書籍が話題になっています。タイトル通り、鼻の横を押すことで脳内の酸素量が増し自然治癒力が高まる!というのです。民間療法ですから、例によっていわゆるエビデンスはありません。しかし、そもそも民間療法がエビデンスで信用を得る必要があるのか、というのが今回私が述べたいことです。
『「鼻の横を押す」と病気が治る』によると、著者の萩原秀紀氏(柔道整復師、指圧師、鍼灸師、整体師)は、小鼻の横に天迎香(てんげいこう)という蘇生の急所があり、「刺激が脳に作用し、その活性を高めたり、緊張を和らげたりする」といいます。
YOUTUBEに動画が上がっているので興味ある方はご確認ください。
今まで私は、このブログで“ちょっとした健康法”をいくつかご紹介しました。
が、今回はそれらとは同等に扱えません。
なぜなら、この療法は、かなり大仰な啖呵を切っているからです。
ですから今回は、これまでのように、方法をご紹介して「実践してみました」という、のどかなレビューは書きません。
まず、同書は症例として具体的な病名を出していますが、かなり深刻なものばかりです。
腰痛
五十肩
うつ
高血圧
脳血管障害の後遺症
関節リウマチ
ダウン症
パーキンソン病
脳性マヒ
脊髄小脳変性症
この療法は、それらについて「改善」があったというのです。
もちろん「完治」や「治癒」ではありません。
それはそうですね。完治したらノーベル賞ものでしょう。
これだけの難病です。簡単に「改善した」という書籍の文章を客観的な検証もなく垂れ流すのは私には抵抗があります。
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どれと具体的には申しませんが、実際にそういう病気の人を見ていると、「
そんな簡単なもんじゃねえだろう」という思いがあるからです。
個人ブログの体験談ならともかく、医師監修、整体師の著書です。つまり本職がその肩書で発信している重さを考えるべきです。
ただ、重病・難病だからこそ、わずかな「改善」でもそれが本当なら当事者にとってはありがたいことも体験上よくわかります。
その意味で、同書は評価が非常に難しいところです。
同書を読み書かれていること実践した上で、本格的にやってみたいという気持ちがあれば、実際に萩原秀紀氏の施術を受けてみるのもいい、というところでしょうか。
エビデンスとはなにか
さて、私がこの書籍について書きたかったのは、以下のことがあったからです。
同書は監修者として、脳神経外科医の工藤千秋医師の名前が出ています。
工藤千秋氏は、民間療法は玉石混交だがエビデンスが大切であるとして、この療法は脳機能NIRSを用いた検証をしている(つまりエビデンスがある?)と寄稿しています。
民間療法が玉石混交(おそらく石の方が多い)なのはその通りですが、そこにエビデンスという基準を持ちだしたのはどうなのかなあと思います。
工藤千秋氏は、この鼻押し療法が信頼できるものだということを強調せんがためにそう書かれているのだと思いますが、この療法がエビデンスがあるというのなら、いったいどのような調査・研究を行った、なんという論文をどこに投稿しているのか述べるべきです。
それは書かれていません。そんなものはないからです。
だったら、エビデンスなどという言葉を用いるべきではありません。
脳機能NIRSというのは、脳の酸素状況などを見るものですが、ただそれだけのもので、そこで得た画像だけでエビデンスを誇れるわけではありません。
こんなことは、私ごときが述べるまでもなく、医師である工藤千秋氏の方が、よほど詳しくご存知だと思います。
そもそも、この療法が拠り所とする「改善」というのは、数値とは限らず、たとえば「今までフラフラだった足取りがしっかりしてきた」など、主観的なものも含まれますから、見る人によって評価を異にする可能性はあります。
そんなもの、どこがエビデンスなんでしょうか。
ですから、私は「エビデンス」という言葉にこだわる必要はないと思います。
むしろその言葉は、こうした療法では自縄自縛です。
なぜならば、エビデンスというのは西洋医学の指標だからです。
漢方など東洋医学などもそうですが、こうした療法に「エビデンス」というチェック法はなじまず、むしろ評価を下げることになるでしょう。
工藤千秋医師はエビデンスという言葉を用いましたが、エビデンスという言葉を出した以上、西洋医学が行っている調査等を厳密に行って客観的に答えを出し、学術雑誌に発表して今の医学がわかっている範囲で厳しいチェックを受けなければなりません。
「エビデンスがある療法」と啖呵を切ったら、それだけの責任が問われるのです。
この療法にかぎらず、今の民間療法や健康食品で、それだけのチェックをクリアできるものはないと私は思います。あったらとっくに医療現場で採用されています。
今の医学のエビデンス主義は万能か
では、チェックできなければただちにインチキかというと、そうとは限らないんですね。ここが、疑似科学否定派の人たちも勘違いしやすいところなんですがね。
むしろ、今の医学はまだ未発達だから、今のやり方(各種疫学調査等によるエビデンス主義)でしか、その治療法の正当性を客観的に判断することができないのです。
すべての本物を、本物と判断できるだけの水準に、今の医学はなっていないということです。
もちろん、あまたある民間療法の全てが本物というわけでもありません。
いずれにしても、この療法がもし本物だとしても、「エビデンス」というふるい以外で正当に評価されるには、まだ時間がかかるということだと思います。
その間、数値では表現できなくても、「改善」のよりたしかな症例と、ヒトに対して侵襲性がなく、たとえば病院の治療との併用もなんの問題もない安全なものであるという信用を積み重ね、民間療法として着々と実績をつけていけばいいのだと私は思います。
私が、この鼻押し健康法に望むのは、
うまい人でなければ「ツボ」がわからないというのではなく、施術者の手技に依存しない、誰でも簡単に「ツボ」をあてられるような決め手を確立して、さらに「改善」のめやす(これだけ施術するとここまでよくなる)を、より客観性再現性のあるものに磨きをかけていただきたいということです。
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