淡路恵子さんが食道がんで亡くなったと報じられました。女優として「戦後の映画史で非常に重要な役割を担った人」(山田洋次監督)ですが、私生活では離婚や、お子さんの事件・自殺など不幸も経験しています。
淡路恵子さんというと、淡島千景さんから一字もらった芸名だったですね。代表作と言われる『この世の花』(松竹)シリーズを私は、残念ながら見ていません。
私がリアルで見るようになったのは、『クレージー』『駅前』など東宝の看板シリーズに出るようになってからです。
とくに『父子草』(1967年、東宝)という作品が印象深いです。
淡路恵子はガード下で屋台のおでん屋を出している女将さんの役でした。
初老の土工(渥美清)が、その屋台で知り合った浪人生(石立鉄男)を物心両面でサポート。浪人生は東大に合格する話です。
土工が、なぜアカの他人の浪人生をサポートしたかがこの映画の見所。
兵隊に行っていた土工は戦死したと思われ、土工の妻は土工の弟と結婚。英霊扱いされた土工は身を引いたものの、残してきた息子だけは心残りで、息子を浪人生にみたてているのです。
もう今は、戦争が終わって半世紀以上たっているのでわかりにくいエピソードかもしれませんが、昭和40年代ぐらいまでは、戦争にまつわる悲劇が映画やドラマにしばしば使われました。
出演者が、渥美清、石立鉄男、淡路恵子、星由里子、大辻司郎ぐらいしかいない地味な作品でしたが、日本テレビが、日曜日午後の映画放送枠で何度も何度も放送していたので、ストーリーもしっかり暗記してしまいました。
国民的映画の『男はつらいよ』にも2本出ていますが、私が印象に残っているのは、三船敏郎が出演した『男はつらいよ 知床慕情』(1987年)です。
三船敏郎演じる獣医が、淡路恵子演じる居酒屋の女将に求愛するシーンは、無骨だけれども心がこもっている、三船敏郎の存在感が大きくて大きくて、松竹の世界を東宝で染めてしまったような、いつもの『男はつらいよ』ではないような錯覚に陥りました。
でもそれは、相手が淡路恵子だから、ということもあると思います。彼女のデビューは黒澤明監督に見いだされた16歳。『野良犬』で三船敏郎と共演しています。
真人間になれなかった息子を見届けなかった
ニュースを見ると、女優としては様々な作品にでて実績を積み上げてきたが、人生は波乱万丈、という書き方をされていますが、それはビンボー・ダナオ、萬屋錦之介との離婚や、自ら警察に突き出した四男が自殺したことなどをさしているのだと思います。
このブログでも1度書いたことがあります。
>>息子が悪事をはたらいたら親はどうすべきか
淡路恵子さんはビンボー・ダナオとの間に歌手・島英津夫など2児をもうけ、離婚後、萬屋錦之介さんとの間で三男、四男の萬屋吉之亮さんらを授かりました。
が、萬屋錦之介さんの事務所が多額の負債を抱えて倒産、離婚。三男はバイク事故で死亡。四男は淡路恵子さんの後援者や淡路恵子さんの自宅で窃盗をはたらくなど素行不良。
親のものを子どもが盗んでも、親族相盗例(家庭内の窃盗事件は家庭で解決してもらう)の原則から処分保留になるのが普通ですが、淡路恵子さんは実息の四男に厳罰を求めて自ら四男を告訴したため、四男は実刑判決を受けました。
“たんなる”窃盗なのに実刑ということは、淡路恵子さんが告訴せざるをえないほどクセが悪かったのでしょう。
淡路恵子さんは、仕事もなく荒れた息子について自分の存在が甘えの原因と気づき、その前年には弁護士立ち会いで親子の縁を切る念書も書かせていたそうです。
しかし、結局四男・元萬屋吉之亮は10年に自殺。「真人間になるまで息子とは会わない」と言っていた淡路恵子さんは、四男の葬儀にも出ていないそうです。
離婚、再婚、離婚、借金、実息を告訴、その上子供を2人も亡くしていれば、たしかに壮絶な人生です。
淡路恵子さんは、そんな人生を78歳になった2011年に、TBS系『爆報!THE フライデー』で告白していました。すべてを話すことで、自分の人生を振り返っておきたかったのでしょうか。
淡路恵子さんの生前のご遺徳をお偲び申し上げます。
凛として、ひとり
- 作者: 淡路 恵子
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2011/07/01
- メディア: 単行本
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