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『仁義なき戦い』一挙放送、暴力否定と群像劇評価のハザマ [懐かし映画・ドラマ]

『仁義なき戦い』が、正月早々話題です。BSのWOWWOWが、元日から11日まで、シリーズ全11作品を一挙放送しているからです。もともとあった同作の人気や、地上波番組への不満などから、正月早々のピカレスク作品にもかかわらず、ネットでは観戦記や当時の話がさかんに書き込まれています。

『仁義なき戦い』といえば、広島で実際に起こった抗争について、美能幸三氏の手記をもとに飯干晃一氏が著した小説。その映画化(東映)が昭和40年代後半から50年代にわたって、深作欣二監督、笠原和夫脚本、菅原文太主演で5本制作されました。

仁義なき戦い

好評だったシリーズは、引き続き深作欣二監督、菅原文太主演で『新仁義なき戦い』を作り、その後もストーリーは広島抗争を描いたものではないにもかかわらず、工藤栄一監督、根津甚八主演で『その後の仁義なき戦い』、21世紀に入ってからも『新・仁義なき戦い』『新 仁義なき戦い/謀殺』などのタイトルで公開されました。

『網走番外地』と『仁義なき戦い』の違い


『仁義なき戦い』以前の東映“ヤクザ映画”は、鶴田浩二や高倉健、藤純子らによる様式美や予定調和を基本とした任侠ヒーロー物語でしたが、『仁義なき戦い』はいわゆる「実録もの」といわれる群像劇です。

主役はヤクザですが、決してヒーローではありません。

Facebookで、私と「友達」でつながるある人が、「『仁義なき戦い』は、せっかく登場人物の名前を覚えても、すぐに殺されてしまう」と書き込んでいましたが、作品の本質をウィットに富んだ表現で示していると思いました。

まさに人間としての弱さ、理屈を超えて発する感情、はかなさなどを作品は活写していました。

実録映画のために、何をどこまで演じるべきかというギリギリの判断が、都度都度演者にもスタッフにも求められた、重いけれど意義のある仕事だったと思います。

東映生え抜きの松方弘樹が、松竹出身の菅原文太に主役をとられて嫉妬した、金子信雄が病気をおして出演した、荒木一郎が「広島ロケが怖い」といって降板したなど、たくさんの裏話も聞きます。

東映は、『仁義なき戦い』のヒット以来、田岡一雄・山口組三代目組長(山口組三代目)、菅谷政雄・菅谷組組長(神戸国際ギャング)、川内弘・川内組組長(北陸代理戦争)など、その世界の実力者を主人公にした実録ヤクザシリーズを5年にわたって作り続けました。

視聴者はピカレスクというより「力作」を求めている


今回、WOWWOWで放送されることになったのは、視聴者からのリクエストもあったのかもしれません。

それは、シリーズがそうした力作であるとともに、暴力団排除条例(暴排条例)の影響もあると私は思いました。

たとえば、2~3年前までは、コンビニのコミックス欄にあったピカレスク漫画が、今は一切ありません。もちろん書店にもありません。

販売チャンネルを失ったのですから、その関連の新刊本も作られていないようです。

以前は、竹書房というところで、月刊雑誌で連載していたピカレスク漫画を単行本化していましたが、昨年連載が終了した『柳川次郎物語』は単行本化されていません。

新しく作られないのなら、すでにあるものを見たいという待望論は十分考えられることです。レンタルでも、『仁義なき戦い』はなかなか手に入りませんから。

ピカレスクコミックスが上梓されることと、社会の暴力化にどれだけの相関関係があるのかはわかりませんが、暴力否定と群像劇評価をきちんと両立できる理性はもっていたい、と私は思います。

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