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『のぼせもんやけん2 植木等の付き人時代のこと』小松政夫の奮闘記 [芸能]

小松政夫

『のぼせもんやけん2 植木等の付き人時代のこと』(竹書房)という小松政夫の書籍を読みました。新刊本ではないのですが、ここのところ“マイブーム”になっている『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(講談社)で、今風に言うナビゲーターをつとめている(もちろん淀川長治さんの物真似で)小松政夫を今まで以上に知りたくなったのです。



さて、同書は、コメディアンになりたくて福岡から上京。いったんは就職して車のトップセールスマンまでのぼりつめた小松政夫が、夢を諦めきれず、月給93%ダウンで植木等の付き人、というよりボーヤ兼運転手に転職。

デビューするまでのエピソードを書いています。

「のぼせもん」というのは、福岡では「変わり者」「興奮して暴走する者」のような、あまりいい意味ではないようで、本人も謙遜の意味で使っているのだと思いますが、人にどう思われようが、夢をあきらめないで頑張った男、という意味に私は解釈しました。

同書には「1」があり、それは車(横浜トヨペット)のサラリーマン時代の話が中心です。

2007年初版ですが、植木等さんが亡くなった落胆からいったんは上梓を諦めたものの、半年たって植木等さんとの大切な思い出を世に出しておこうと再び出版化の話が進んだというものです。

プロローグで、植木等さんの弔辞を読むところから始まり、エピソード述懐の後、弔辞が終わるように同書も終わる構成になっています。

同書全体を弔辞という構成にしたんでしょうね。

芸能人が亡くなると、わざとらしく死を惜しむパフォーマンスに走る芸能人がいますが、同書を読んでいると、亡くなった人を偲ぶというのはどういうことなのかがわかります。

悲しみにパフォーマンスはいらないのです。その人の語り口ですべてが分かるものです。

植木等さんの人柄と、それを支えた小松政夫の思いやりは読んでいて胸が一杯になります。

植木等さんは、小松政夫に「食べろ」「休め」という“命令”をするとき、一方的な言い方はしません。

それでは、小松政夫が気を使ってそれらをきちんとしないだろうと考えたからです。

そこで、お店では、さも自分が食べるようにたくさん頼んで、出来上がると「腹いっぱいだから手伝ってくれ」とそれを小松政夫に渡し、休むときは「自分も疲れているから休もう」と言ったそうです。

つまり、「食べろ」「休め」ではなく、「食べてください」「休んでください」という言い方です。

植木等さんというのは、押し付けがましさ、恩着せがましさが全くない人だった、ということです。

スターが、ボーヤに対して、自分を道化にしてまで気を使う。

こういう芸能人は今いないんじゃないでしょうか。

これは、たんに植木等さんが人格者だというだけの話ではなく、小松政夫に見どころがあったからでしょう。

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変わり者と思われても夢を諦めずに頑張ること


スタッフも、食えない時代の小松政夫をサポートしています。

といっても、自分たちの意思を曲げてということではなく、チャンスを与えよう、というニュアンスなのです。

たとえば、衣装係の人は、小松政夫が「親父さんが楽屋で着替えられるよう帯の結び方を教えて欲しい」と来るので、「ここは着付け教室じゃない」ととりあえずけじめはつけるのですが、「でも見てるのは自由だ」と助け舟を出します。

デートに来ていく服がないから貸してくれと来た時には、「そんな伝票は切れない」と表向きは断りますが、「貸す服」がないだけだといって、服をあげてしまうのです。

できのいいボーヤはいつまでも便利に使いたいところですが、植木等さんは自分で事務所と交渉して小松政夫をタレントとして契約させます。

そのときも、植木等さんが一人で事務所と交渉したそうです。おそらく、新人としては破格の契約をしたのでしょう。

ボーヤというのは、楽器の運搬、セッティング、雑用などを経験しながら勉強する小僧のことです。

勉強といっても、学校のように教科書があって先生が教えてくれるわけではありません。会社のようなノルマはありませんが、何もできなければいつまでもそこにくすぶるだけです。

そこから一人前のタレントとしてデビューするには、本人が周囲に認めてもらえるように力をつけてチャンスを逃さずモノにしなければなりません。

小松政夫は、「1日1回、親父さん(植木等)を喜ばす」ことを自分のノルマとしました。

植木等さんは、それをちゃんと見ていたそうです。

もちろん、小松政夫が、植木等さんをはじめ、クレージーキャッツのメンバー、衣装係など、周囲の人に恵まれたことはあると思いますが、小松政夫自身の意欲と能力がそこになければ、彼はデビューまではできなかったでしょう。

同書の中には、小松政夫の3日先輩のボーヤも出てくるのですが、同じ環境であるはずなのに、その人がデビューできたとは書かれていません。

希望を持って頑張ること。頑張れば絶対に幸運がついてくると断言はできませんが、頑張らなければ幸運のつきようがありません。

今、スランプだったりくすぶった環境だったりで、気持ちが萎えているような人には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
のぼせもんやけん2 植木等の付き人時代のこと。 -
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