森繁久彌さんの「生誕100年祭」が各地で行われています。11月16日~来年1月17日は、森繁久彌さんが生まれた大阪・枚方で「生誕百年記念森繁久彌映画祭」を開催中。先月20日には東京・東京會舘で、西郷輝彦や司葉子などが発起人になって約500人が参加した「森繁久彌さんの生誕100年をお祝いする会」が行われました。
来年1月17~28日には、高島屋大阪店で遺品700点や再現楽屋の展示、発起人らによるトークショーなどの「森繁久彌展」が開催されるそうです。
森繁久彌さんは早稲田大学時代に、谷口千吉さん(八千草薫の夫)や山本薩夫さん(山本學・圭・亘の叔父)と演劇部で活動していたそうですね。なんかそれだけでもう楽しそうな感じがします。
生誕祭が行われるのは、歴史上の偉人や宗教の開祖ばかりだと思いましたが、俳優では2008年に長谷川一夫さん、昨年は映画監督の木下恵介さんが「百年祭」を行っていますね。
子供の頃、『木下恵介アワー』観ていました。矢島正明のナレーションが「大人のドラマ」を感じさせました。じゃあ子供のアニメのナレーションは誰をイメージするかといえば、牟田悌三さんなんですが……。
それはともかく、もし、これからそうした催しがあるとしたら、石原裕次郎さん、美空ひばりさん、やはり国民栄誉賞を受賞した渥美清さん、があるかもしれませんが、価値観が多様化した現代のタレントではもう出ないかもしれません。
森繁久彌さんといえば社長シリーズ
森繁久彌さんというと、映画なら社長シリーズと駅前シリーズ、テレビは『だいこんの花』や『おやじのヒゲ』など竹脇無我さんとの父子ドラマ、舞台は『屋根の上のバイオリン弾き』というのがふつうイメージするところだと思います。
その中で、生誕100年にもう1度見るならどれ? ともし尋ねられたら、向田邦子さん脚本の『だいこんの花』も面白かったのですが、やはり『社長シリーズ』を私は選びます。
源氏鶏太作『三等重役』を原案とした、非オーナー社長が失敗を重ねながらも最後はハッピーエンドで終わる喜劇。森繁久彌、小林桂樹、加東大介などおなじみの俳優で、東宝が1956年から1970年までに33本撮っています。
クレージーキャッツの笑いを「大人の笑い」と以前書きましたが、私は『社長シリーズ』から教わることも多かったです。
社員の励まし方、逆に上司に厳しく叱責された時の処し方などいろいろなシーンが、現実の生活に応用できました。秘書が社長のもりそばをハサミで切るギャグ以外は(笑)
高度経済成長時代のドラマらしく、ある仕事のプロジェクトについて前向きに進めて最後に成約するストーリーは、観ると元気になれました。
今回ご紹介する『サラリーマン忠臣蔵』ですと、三船敏郎が、アメリカ使節団の歓迎会に芸者の宴会を計画している東野英治郎に対して、「浅い川を見せるんですな」と言うシーンがあるのですが、これはお色気を伴った芸者遊びを軽蔑する言葉なんですね。「芸者遊びなんて」というトゲのあるセリフはこのシリーズでは出てこないのです。
一方、東野英治郎も池部良に対して「芸者に鼻毛を読まれて……」と誹謗するシーンがあるのですが、これは女性が男性をもてあそぶときに使う言葉です。「芸者なんぞにうつつを抜かして」とは言わないのです。
ことほどさように、脚本の笠原良三氏は、「まんま」ではなく、隠喩やことわざ・格言、喩え話などで婉曲に表現するのが好きな人なんですね。
それは、サラリーマン社会が本音を隠さなければならないデリケートなやりとりを行っている現実を示し、かつ脚本の文芸的価値を高めることにもつながっています。
こうしたセリフの作り方は、勉強になるし、また洒落ているなあと今でも感心します。
その一方で、森繁久彌さんが浮気をしそうで結局できない、というずっこけた「お約束」も必ず入っています。喜劇ですからね。
そんな社長シリーズの中でも、とりわけシリアスだったのが、先週正編、来週続編が発売される『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(講談社)で収録の『サラリーマン忠臣蔵』『続サラリーマン忠臣蔵』です。
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仮名手本忠臣蔵の現代劇
みなさんは四十七士の忠臣蔵ってご存知ですか。『サラリーマン忠臣蔵』『続サラリーマン忠臣蔵』は、歌舞伎の演目『仮名手本忠臣蔵』を、役名だけでなくビジネスシーンにも翻案したストーリーです。
森繁久彌さんが亡くなった2009年に、テレビ東京で『続サラリーマン忠臣蔵』を追悼番組に選んで放送していました。
大石内蔵助良雄にあたる森繁久彌は赤穂産業の専務で「大石良雄」。長男は夏木陽介が演じる「大石力」。四十七士は「大石主税」だから字が違うだけ。
若社長として池部良演じるのは浅野卓巳をちょっとだけもじった「浅野卓也」。敵対するのが東野英治郎演じる「吉良剛之介」。
大石良雄と行動を共にせず、不忠臣に走ったといわれる大野九郎兵衛知は有島一郎が演じる「大野久兵衛」。小野寺十内秀和にあたるのは加東大介の「小野寺十三郎」。
堀部安兵衛は中島そのみが「堀部安子」。中島そのみ、ルックスだけなら今で言うキンタロー。みたいな感じですが、当時は中島そのみは「お姉ちゃん」シリーズで売り出し中のスターでした。
山茶花究は相変わらず悪役で、藤木悠や児玉清や八波むと志も出てるのですが、いや、みんな若い! 1960年の作品だから当たり前ですけど。
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『サラリーマン忠臣蔵』ストーリー詳細
半世紀以上前に、こんなおもしろい映画がおなじみの俳優で上映されていたのか、と感動してしまいました。
お勧めの作品です。
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