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『実録 プロレス裁判』の示した風評を覆す真実

『実録 プロレス裁判』の示した風評を覆す真実

『実録 プロレス裁判』(宝島社)という書籍を読みました。プロレスの裁判。プロレスファンでないと事件を知らない、知ってても判決には興味がないことかもしれませんが、今回はファンでなくても教訓となる事件を、とりあげてご紹介します。

今日は11月28日。今から11年前のこの日、プロレス番組のアシスタントをつとめていた女性タレントが、自宅に来ていたプロレスラー・棚橋弘至の背中を料理用ナイフで上から振り下ろすように2回刺し、警視庁玉川署に殺人未遂容疑で逮捕されました。

棚橋弘至の傷はかなり深く、第二の力道山事件になるかもしれなかったこの事件ですが、翌2003年6月2日に東京地裁で懲役3年、執行猶予4年の判決が出ました。

殺人未遂で実刑にならないのはおかしいと思いますが、“捨てられた”女性に裁判長の理解があったことと、棚橋弘至が女性の実刑を求めなかったことなどから、異例の温情判決となったのです。

この事件と裁判が書かれているのが、『実録 プロレス裁判』(宝島社)という書籍です。

実録プロレス裁判.jpg

プロレス関係者の裁判は、ギャラの未払い、選手の死亡に対する責任、引き抜きの賠償、試合の打ち合わせの齟齬、さらには棚橋弘至のような傷害事件など、過去にも現在進行中のものもいろいろあります。

しかし、プロレスマスコミは、プロレス関係者の訴訟を決して報じませんでした。

プロレスは、虚実ないまぜのデリケートな世界で、専門誌までが業界の演出に協力する側のため、対外的にはマスコミ報道を含めた全体がフィクションの世界です。

当たり前ですが、裁判はリアル社会の規範にそってすべてがあからさまにされます。

「試合の打ち合わせの齟齬」の裁判なんて、イメージダウンどころか、プロレスというコンテンツ自体が命取りになりかねません。

そこをあえて表沙汰にしたのが同書です。

といっても、民事裁判は、傍聴も裁判記録の閲覧もできる開かれた情報ですから、書籍にまとめること自体は何も悪いことではありません。

むしろ、誰もが遠慮して行わなかったことを明らかにしたことで、新たな真実を知ることもできるのです。

たとえば、メガネスーパーが1990年にプロレス団体を作り、既存のプロレス団体からレスラーを引き抜いたことで生じた契約選手の損害賠償裁判です。

「ケチ」の定評に耐えたジャイアント馬場


プロレスラーは、所属団体とギャラ等を定めた契約を交わしてリングに上がっていますが、既存の団体の契約書は、その選手が他団体に移籍する場合、違約金を払うという一項が入っていました。

そこで、メガネスーパーが、引きぬいた選手の所属団体である全日本プロレス、新日本プロレスからその違約金を払えと訴えられた裁判です。

契約期間中のレスラーを自分の団体に上げたのは事実なのですから、とっとと違約金を払えばいいものを、相手の根負けを誘う時間稼ぎなのか、メガネスーパーがきちんと払わなかったから裁判になりました。

ちなみに、メガネスーパーの社長は当時、専門誌の編集長(ターザン山本氏)に1000万円以上の金を握らせて、スキャンダルを書かないようにさせていたと編集長が自ら明らかにした話は、すでに書きました。

「金権編集長」はブラックジャーナリズムか

SWS(メガネスーパー)なるプロレス団体は、ターザン山本氏の評価はおくとしても、叩いて誇りを出さなければならない団体だったのです!

それはともかく、裁判は和解し、メガネスーパーが各選手の違約金を払ったようです。

全日本プロレスでは年間ギャラの5倍、新日本プロレスは同じく2倍の違約金という契約だったために、裁判ではそのもとになる数字として、各選手のギャラが明らかになりました。

そこでわかったことは、それまでいわれていた「馬場は守銭奴」「全日本はライバル団体の新日本より安いギャラ」といったネットの書き込みが真実と異なっていた、ということでした。

たとえば、新日本プロレスでは、移籍直前(1990年1月)までIWGPジュニアヘビー級チャンピオンだった佐野直喜(現・佐野巧真)が344万6205円。

一方、全日本プロレスで、やはり世界ジュニアヘビー級チャンピオンを短期間つとめた仲野真市は628万円です。

この差はいったい何なんでしょうか。

ジュニアヘビー級もヘビー級も、素顔も覆面(ザ・コブラ)もこなしたジョージ高野クラスで772万5000円、全日本プロレスで、それとほぼ同額のギャラは鶴見五郎の735万2000円、冬木弘道702万円でした。

鶴見五郎は、ジムの経営があったために所属契約は結んでおらず、年間興行全試合は出ていません。

全日本プロレスは1試合いくらの報酬ですから、もし鶴見五郎が全試合出ていたら、ジョージ高野も抜いていました。

同書は、「『ケチ』と言われ続けた馬場全日本の給与体系が、いかに恵まれたものであったか」と結んでいます。

同書には書かれていませんが、阿修羅・原という金銭トラブルを繰り返してやめたレスラーが、年金暮らしをしていると同じ出版社のムックにおける本人のインタビューにありました。

年金。規定の年数を払わなければもらえないものです。

阿修羅・原は、ラグビー時代の近鉄、国際プロレス、全日本プロレスの在籍期間が25年をクリアしていたことで、年金受給資格を獲得していたのです。

つまり、当時、全日本プロレス(と国際プロレス)は、社員ではない所属契約レスラーも「社保完」だったのです。

ギャラも業界的に安くないし、社員でないのに福利厚生もある。

なのにケチ呼ばわりされたら、ジャイアント馬場も立つ瀬がありません。

さらに、鶴見五郎は、表向きは、ジャイアント馬場がつまらない反則をするので全日本側に入れない(所属選手にしない)ということになっていましたが、前述のように真相は逆で、鶴見五郎の都合で所属選手になっていなかったのです。

この件でもジャイアント馬場はずいぶん悪者にされていました。

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マスコミ報道、たまには疑おう


ネット掲示板では、やれ、カブキのギャラアップが500円だの、秋山準がローンを組めなかっただのといった話が裏も取らずに何年にもわたって数えきれないほど書き続けられてきました。

しかし、それらはみな、証拠も示さない本人の一方的なインタビューを、編集能力もないマスコミが裏も取らずにそのまま垂れ流したものばかりです。

嘘でなかったとしても、都合の良いところだけを語っているだけかもしれないでしょう。

しかし、「嘘も百回繰り返せば真実になる」ではありませんが、繰り返し書かれることで、読む側だけでなく、書き込みつづける本人自身が、それを前提とした認識を固め、虚偽をもとに新たな虚偽を書き込んでいくのです。

つまり、ネット掲示板は、何の根拠もないつくり話を元に何年にもわたって「激論」を繰り返してきたわけです。

マスコミをマスゴミなんて罵っておきながら、ジャーナリズムのかけらもないプロレスマスコミの読み物は何でも鵜呑みにする、というのはおかしいです。

ジャイアント馬場の金銭観については、いろいろ意見はあるでしょうが、少なくとも裁判という、事実を突き合わせる戦いにおいて、それを否定する証拠があったことを「プ板」の連中は知っておくべきです。

そして、これはいつも書いているように、一般社会にもいえることです。

たとえば、先日亡くなった川上哲治さん。生前は相当な悪役として報じられ、嫌いな方も多いようですが、メディアの描く人物像は本当なのか、疑問をもった人っているんでしょうか。

いえ、好き嫌いは自由ですが、マスコミの言い草に乗っかって自分の価値観で判断しないのが哀しいのです。

マスコミが書いていることは、常に「どうして?」というフィルターを持つことです。根拠はあるのか。それは客観的なものなのか。ねらいは何なのか。

自分なりに疑い、確認する作業を習慣づけないと、いつまでたってもマスコミの思惑に振り回されることになるでしょう。

実録 プロレス裁判

実録 プロレス裁判

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2013/03/15
  • メディア: 単行本



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