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『最後のクレージー犬塚弘』から知った「恨むな、根に持て」

『最後のクレイジー 犬塚弘 ホンダラ一代、ここにあり!』(犬塚弘、佐藤利明共著、講談社)という本を読みました。昭和のジャズ・バンド、コミックバンド、コメディアンであるハナ肇とクレージーキャッツのメンバーの中で、ただ一人存命の犬塚弘が、自分の人生とクレージー・キャッツを振り返っています。

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私は、よくいわれる「遅れてきたクレージーファン」の世代。つまり、クレージー・キャッツ全盛時のリアル世代ではなく、その時期を過ぎてから青年期を迎えたので、記憶の片隅に残っている当時の活躍を過去の映像や資料で確認していくファンです。

おそらく今の若い世代ですと、もう名前だけ知っているかどうかの人たちでしょうし、DVDやYOUTUBEにアップされている動画を見ても、何が面白いんだろう、と思われるのではないでしょうか。

それは、「今」の価値観で「1960年代の笑いを見ている」からだと思います。

世の中は、100年たってもかわらない様式美もあれば、時のうつろいでかわっていくものもあります。

大人の笑い、粋な笑い、大仕掛けやイジメではなく言葉やふるまいの笑い……

クレージー・キャッツの笑いというのはそんな感じかな。

笑いの基本は今もそれと変わることないと思いますが、表現方法は今のほうがよりエスカレートしていますよね。

たとえば、ハナ肇が、団扇太鼓を叩くようにドラムを叩いていたかと思うと急に両手で叩き始めるという仕草が私は子供の時面白いと思いました。

でも、いまの小学生が見ても面白いとは言わないでしょう。

今のように「笑われること」をエスカレートさせた時代には、「どこが面白いんだ」となっても仕方ないと思います。

今のプロレスで、空手チョップ一発で終わっても観客は誰も満足しないでしょう。

必殺技がつなぎ技にすらならない“技のインフレ”プロレスですからね。

でも、当時は空手チョップに、その時代に生きる人々の思いが込められていて、技術的にもいきなり「今のプロレス」があるわけではなく、空手チョップのプロレスがあったからこそ「今」がある。

笑いもそれと同じではないかと思います。

講談社は、同書に引き続き、これまでに何度か書いたように、クレージー・キャッツの映画を中心に、60年代東宝喜劇映画をDVDマガジンとして隔週発売しています。

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森繁久彌の「社長」シリーズや、藤田まことと白木みのるの「てなもんや」シリーズ、コント55号の映画などが発売されていますが、いずれも、単純に今笑えるかどうかではなくて、“当時の笑い”として見る必要があります。

私は今のところ全巻観ていますが、犬塚弘が語るメンバーの人柄は、それらの作品の登場人物に重なるものがあるような気がしました。

「スーダラ節」を歌い、「無責任男」を演じることを悩んだ(つまり本人はそうではなかった)植木等は、犬塚弘にいわせると、無責任ではないけれど、無類の明るさをもった楽天家ではあるそうです。

植木等がいてこそのクレージーキャッツであったといっています。

その件で、同書は私にとっては意外な事実も書かれているのでご紹介します。

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苦労や悔しさは「恨む」のではなく「根に持つ」


クレージー・キャッツは、植木等がもっとも売れた人のように見えます。

東宝映画でも、「無責任男」「日本一男」など植木等主役の映画は何本も作られ、クレージー・キャッツの映画という建前でも、主役は植木等でした。

リリースした多数のコミックソングはグループ名義でも、大半は植木等の独唱です。

テレビも『植木等ショー』(TBS)など、単独の番組出演がありました。

地方公演に行けば、「ハナ肇とクレージー・キャッツ」のところを、「植木等とクレージーキャット」なんて紹介されたこともあるといいます。

とすれば、他のメンバーは愉快ではなかったのではないか。

とくに、リーダーのハナ肇は業腹だったのではないのか。

何より、植木等といえども人間です。増長してリーダー面したり、メンバーを切り捨てピンの仕事を優先したりしなかったのか、なんて邪推もしたくなります(私も人間だから)。

ところが、植木等と親しかった犬塚弘の話によると、植木等が我慢したのは確かですが、むしろ逆の立場なのです。

植木等が、何本映画に主演して東宝やナベプロのために頑張っても、作品は「無責任男」。業界的には少なくとも演技者としての評価が低かった。

犬塚弘によると、植木等には忸怩たる思いがあったといいます。

ところが、植木等を前面にして脇に回ったように見えたハナ肇はその間、山田洋次監督の作品に出てブルーリボン賞の主演男優賞を受賞。「無責任男」を熱演した植木等よりも俳優として評価が高かった。

植木等は、むしろそれを我慢した立場だというのです。

「あー、そういうことだったのか」

コアなファンはご存知のことだったかもしれませんが、外からはわからないものだなあと私は驚きました。

そんな植木等が、メンバーに言ったこととは……

「みんな、俺たち、これだけ一生懸命働いているけどな、どんな仕事をして、どれだけ頑張ったか、それだけは覚えておこうよ。嫌なこと、理不尽なこともあるけど、ちゃんと根に持っておこうな」

苦労や悔しさなどの試練は、「恨む」のではなく「根に持つ」。

私はこの件に、我が意を得たりと膝をたたきました。

苦しいからといって、悔しいからといって、他人を恨んだり嫉妬したりしても、建設的な展開にはなりません。

かといって、「人の悪口を言うな、嫌な思いをしても忘れろ」などとキレイ事にまとめ、その試練自体を水に流してしまうような生き方も結局同じことです。

試練の事実とその思いは、忘れずに必ず今後の人生で自己実現に結びつけよう、というのが植木等がいいたかったことだと私は解釈しました。

私たちも覚えておきたい話です。

「根に持つ」ということは決して悪いことではなく、むしろ必要なことだと住職の息子である植木等は言っているのです。

私はわかりませんが、仏教の教えにそういうことはあるのでしょうか。

といっても、植木等がハナ肇に対して「根に持」っていたわけではありません。

むしろ自分をクレージーキャッツに誘ってくれ、渡辺晋(ナベプロ社長)に引きあわせてくれ、自分が売れたら、自分をメインに立ててくれたことをインタビューの都度に感謝しているし、クレージーキャッツの活動を離れてからも、ハナ肇主演の『会社物語』(1988年、松竹)だけは出演しています。

同書にも、すでに体を悪くした亡くなる前の植木等が、犬塚弘の舞台を見に来て、いろいろアドバイスをしてくれたことが書かれています。

全体を通して、仲間思いのエピソードや、芸能マスコミからもスキャンダルを書かれなかったメンバーの人柄、古き良き高度経済成長期の健全で粋な笑いを思い出させてくれることなどから、読んでいて胸がいっぱいになり、ついまばたきが多くなってしまいました。

最後のクレイジー 犬塚弘  ホンダラ一代、ここにあり!

最後のクレイジー 犬塚弘 ホンダラ一代、ここにあり!

  • 作者: 犬塚 弘
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/06/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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