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エキストラ、いわゆる“仕出し”の醍醐味とは? [芸能]

エキストラ。業界的には「仕出し」と呼ばれる“役者”のことです。映画やドラマの中で、通行人や店の客、群集など、その演技に役者としてのキャラクターを要求されない頭数要員です。今も募集があるんですね。「日刊ゲンダイ」(8月8日付)では、そのエキストラを「定年後の楽しみ」として紹介していますが、かつて私が20代の頃、いろいろ楽しい経験をさせてもらったことを思い出しました。

1年前のこのブログで、8月14日は私のテレビ初出演“記念日”であることを書きました。

・私の作ったコマーシャル出演記念日

その後、私は中学、高校、大学、就職と見かけだけはありふれた人生を送っていましたが、いろいろあって大学再入学。ところがちょっと頑張り過ぎたか、体を壊して学業は挫折。かといって就職もせず、ブラブラしていた時期がありました。

その頃、アルバイトでやってたモデル派遣事務所(新聞の折り込み広告のモデルなどをあっせんするところ)がエキストラあっせんもやっていたので、チェッカーズ主演の「CHECKERS in TANTAN たぬき」(1985年)という映画に、定食屋で飯を食う労働者として映画“初出演”。

そこで一緒になったエキストラ専業のベテランに、クロキプロというエキストラ専門の事務所を紹介してもらい、お世話になることにしました。

クロキプロは、当時、東京・調布の日活撮影所のそばに事務所があり、日活撮影所にはずいぶん通いました。

フジテレビが今も13時30分から放送している帯ドラマとか、大映テレビの「スクールウォーズ」とか、やはりフジの月曜ドラマランドとか、あとは、エキストラですから台本も渡されず、タイトルもわからない作品にも出ているはずです。

そのうち、1台のカメラでひとつのシーンを何度も撮る映画もいいけど、3台のカメラワークで一発勝負のスタジオドラマもやってみたいなどと新入り風情がだんだん欲を出し、当時人気者だった「わらべ」という3人組のいちばん右側の人(高橋真美)が所属する事務所に“移籍”。TBS緑山スタジオでずいぶん仕事をしました。

たとえば、この作品は『ああ家族』(橋田壽賀子脚本)という13時から放送していた帯ドラマ。『渡る世間は鬼ばかり』のプロトタイプといっていいと思います。

ああ家族.jpg

シーンは、泥棒が入ったところ。左の山口崇・大空真弓さんがかけつけたその家の息子夫婦、右のベンガルさんが刑事役、そして真ん中でモソモソしている鑑識役が私です。山口崇さんの母親役がお馴染み赤木春恵さん。お得意の嫁姑モノです。ちなみに私のセリフは「はい」だけ。

80年代は2時間ドラマが急増した頃で、そのあおりで連続ドラマが激減しました。この作品は午後の1時からの帯番組で、いわゆる昼メロの時間帯だったのですが、70年代ならゴールデンタイムで放送していたかもしれません。

しかし、ここでホームドラマの底力を見せた橋田ドラマは、やがて『渡る世間は鬼ばかり』につながっていくわけです。

他にも沢田雅美さん、大鹿次代さんなど当時のファミリーが出演しており、ベンガルさんは緊張からか、撮影中はまめに私に話しかけ、気分をほぐしていたようです。

エキストラというのは、まれに役が付いても、そこからスターへステップアップするわけではなく、普通はいつまでも頭数要員の世界です。

現場に行ったものの、長い待ち時間の後、人数的に間に合ったからとそのままアシスタント・ディレクターの「ごめんなさい(出番なし)」で終わってしまうことだってあります。

監督の思いつきでその時セリフがあっても、結局編集でカットされてしまうこともあります。

そんなもん、何が面白いんだ、と思われるかもしれませんが、そんな仕事だからこそ、“お仲間”にはユニークな人たちばかりで、たとえば人生修行と捉えている人、どうしてもこの世界から足を洗えない元映画会社の大部屋俳優、エキストラから引きあげられるために、演技で認められるというより助監督とパイプを作ろうとしている人、鎌田慧氏ではありませんが、芸能裏情報を聞き出すためにもぐりこんだ芸能ライターなど。

目的は様々でしたが、いずれにしても私の様な興味本位と違うので、長続きしたんでしょうね。

その後、私は芸能人を取材する側に回ったので、この仕事は自然消滅的に廃業しました。

この話について、「20代の若い頃を、そんなことに費やすのはもったいない、就職してなんぼかでもキャリアを積んだ方がよかっただろう」と眉をひそめる人もいるかもしれませんね。

が、私の場合、たとえ短期間でも、学生や生業がある人のような片手間アルバイトと違い、平日も仕事をうけていた“専業エキストラ”だったからこそ、いろいろな作品にかかわれ、またこの道のベテランたちとも知り合え、演技論、芸能界の裏話、専業エキストラの私生活など、いろいろな話を聞けたと思いますし、それはそれで得難い経験だったと思っています。

今もCSで、昔のドラマを見て、「お、○○さん、これにも出てたのか、いい演技してんじゃん」などと、当時の“お仲間”を発見する楽しみもありますよ。

ということで、いつにもまして前置きが長くなりましたが、「日刊ゲンダイ」(8月8日付)が記事にしている「定年後のエキストラの勧め」について、該当部分を引用します。

日刊ゲンダイ・エキストラ.png
もう少し気楽さを求めるならエキストラ専門の事務所がある。30年以上の実績があるエキストラ事務所、綜芸企画・芸プロの広報担当者は言う。
「当社では、年齢に上限はありません。60歳以上の登録者だと男性は3~4割。最高齢は80代後半の方がいます。ギャランティーは当社の場合、基本1本5~6時間拘束で4000円以上です」
 拘束時間により金額は変わるとのことだが、セリフの有無や時代劇など衣装の違いは無関係。交通費はギャランティに含まれ、地方に行く場合は都内に集合し、そこからバス移動が多いようだ。
「近頃はボランティアのエキストラを募集するところがあってギャラが発生するエキストラの需要は狭まっているのが現状です。うちの稼ぎ頭でもすごくいい時で月10万円程度」(広報担当者)
 同社では、1500円の登録料(資料・写真代)と履歴書と身分証明書があれば、だれでも登録できる。
ただし、仕事はただ待っていてもこない。〝明日、仕事ありませんか?″と、自ら電話するのが基本だという。
 総じてギャランティーや交通費の有無は、制作側の予算や事務所の交渉力などによってまちまちなのが現実のよう。

まあ、仕事としてはむかしよりも条件は悪そうですね。

ちなみに、私がいっときお世話になったクロキプロは、まだエキストラ募集をしているようです。

クロキプロ

金銭的なことで多くを望まず、また、それでスターになるとか勘違いせず、新しい経験や見聞を積み上げて価値観や人生を豊かなものにしたい、と思われる方は、定年後と言わず、主婦でも、休みが一定しているサラリーマンでも、学生でも、チャレンジされたらいいのではないかと思います。

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