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吉田豪の喋る!!道場破り、宮戸優光の話はこう胸に落ちた! [スポーツ]

吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集

『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』(白夜書房)という書籍があります。タイトル通りの内容です。「BUBUKA」という雑誌で、吉田豪氏がプロレスラーにインタビューしたページをまとめたものです。宮戸優光という人の話が面白かったので、今日はそのことを中心に書いてみます。



『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』に登場するプロレスラーは、天龍源一郎、武藤敬司、蝶野正洋、藤波辰爾、ドン荒川、藤原喜明、山崎一夫、船木誠勝、鈴木みのる、宮戸優光、鈴木健、菊田早苗、大仁田厚、ミスター・ポーゴ、マサ斎藤などです。

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何だよ、またプロレスか、と思われてしまうかな。

でもまあ、私の読書録ということでご容赦を。

プロレス、とりわけ昭和プロレスファンの私としては、各レスラーそれぞれ面白かったですが、誰かひとりに絞るならば、宮戸優光(引退宣言していないので敬称略)の話が面白いと思いました。

宮戸優光。一般社会はもちろん、プロレスの世界でもそう通っている名ではないですよね。

UWFインターナショナルという団体に在籍中、全日本プロレスとビジネスでかかわりがあったとき、ジャイアント馬場や三沢光晴に失敬な口撃を行ったのと、引退して仕事に困った往年の名レスラーであるピル・ロビンソンをコーチとして雇い、ジャイアント馬場戦を身勝手に振り返らせた(馬場はレスリングができないが負けてやったというような内容)ことぐらいしか私には思い浮かびません。

その宮戸優光が、『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』のインタビューでは、プロレス界を窮地に陥れたミスター高橋の書籍についてきちんとした答えを出しています。

ミスター高橋とは、元新日本プロレスのレフェリー、マッチメイカー(興行でシリーズのテーマに沿って試合の組み合わせを決める人)です。

2001年に、レフェリー当時に経験したプロレス界の実態を暴露する『流血の魔術 最強の演技 すべてのプロレスはショーである』(講談社)という書籍を出しました。

内容は、プロレスは勝敗や試合の流れをあらかじめ決めている(注、決まっている、ではない)ということと、それをめぐる当時のレスラーのエピソードが綴られていました。

同書を、力道山時代からささやかれていた「プロレス八百長」説を裏付けるものとした一部の人からは、

以来、プロレスの様な猿芝居に熱中する奴はアホだ、というような揶揄がネットなどでも公然と書きこまれるようになり、プロレスファンも意気消沈。それが大きな原因で、プロレスが出口の見えない冬の時代に入ったなどと言われています。

プロレス八百長論者などはほうっておくとしても、プロレスファンが意気消沈したのは見過ごせません。

では、それに対してプロレス業界ではどう「対抗」したのか。

一部のレスラーや団体の社長、専門誌の元編集長などは、あろうことか同書に便乗して、「プロレスとはそういうもの」であることを前提に自分たちも二番煎じの暴露本を書いたり、一方では同書を肯定的にとらえるメディアを取材拒否する消極的な対応をとったりなど、いずれにしてもミスター高橋を「論破」することができずにいました。

それでは、プロレス業界はますます冷え込むだけです。

それに対して宮戸優光は、冷静に、ミスター高橋の暴露をやみくもに否定したり逃げたりせず、堂々と受け止めたうえで跳ね返す、「イエス・バット」で論破しました。

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ミスター高橋はしょせんレスラーではないからそれが見えない


宮戸優光の言い分は、まとめるとこのような内容です。

・ミスター高橋は現場で裁いたこと経験として事実を話している
・ただし、それはプロレスの3割~4割にしかあたらない
・残念ながら3割~4割をすべてとする見方や考え方がまかり通っている
・プロレスは残りの6割が大切である


反証例として、アントニオ猪木対ビル・ロビンソン戦をあげています。曰く……

ミスター高橋の本では“打ち合わせ通り”技の応酬による名勝負で引き分けになったと書かれているが、レスラーから見れば、あれはお互いが意地で技をカットし合ったプロレス的には全くの凡戦であり、結末は同じ(引き分け)でも、その内容は悪い意味だが「芝居」になっていなかった。ミスター高橋はしょせんレスラーではないからそれが見えない。

要するに、あの試合は、結果は打ち合わせ通りになっていても、経過については悪い意味で「ガチ」だった。

しかし、プロレス歴50年のミスター高橋をしても、「打ち合わせ」通りの試合にしか見えなかった。

つまり、宮戸優光は、「打ち合わせ」の有無認定自体に意味がなく、ましてやプロレスの(試合の)価値を決める決定打にはならないだろうという話をしているわけです。

これは、プロレス的には実に深い話なんですね。

大衆の勝負観には、真剣勝負は価値があり、「ショー」はくだらないとする向きがあります。

だから、ミスター高橋の「すべてのプロレスはショーである」という言葉に反応してしまう。

ではそう思っている人たちにつっこみたいのですが、ショービジネスにおける「真剣勝負」ってなんでしょうか。

プロレスの試合だって、キャリアの浅いグリーンボーイが、強そうなスターレスラーと戦ったとして、ゴング直後に急所攻撃の不意打ちをし、その勢いで相手に攻撃をさせず一方的に攻撃すれば「勝つ」ことはできるでしょう。

「勝つ」ことに意義があるのならそればそういうやり方は「あり」ですし、それだって立派な「真剣勝負」です。

しかし、そんな勝ち方は、そんな試合は、観客を入れる試合として価値があると思いますか。

それなら、お互いの力量に応じた双方の見せ場を予定して、そのうえで勝つべき人が勝つ、という「芝居」の方がよほど説得力があると思いませんか。

そういうのは「八百長」ではなく「予定調和」というべきでしょう。

……と、ここまではプロレスの話です。

私はここまで読んだとき、これは一般社会にも通じる真実が含まれているなあと膝を打ちました。

どういうことか。

たとえ、斯界の実力者が事実を語った暴露本であっても、その世界のすべてを語っているわけではない、ということです。

ニュースやドキュメンタリーを含めたマスコミ報道であれ、ネットのブログや掲示板であれ、真実の一断面を見せているに過ぎない。

そして、どれだけその分野に詳しい人間であっても、自分が無謬万能だと思い上がってはならない。

これをきちんと理解している人なら、マスコミに踊らされることなく、懐疑や対抗言論をつねにもって情報に対峙できると私は思うのです。

……とまあ理屈っぽい話はともかくとして、同書は吉田豪氏の進行が絶妙です。プロレス界の定説を覆す新証言など、レスラーの立場や個性を十二分に引き出した内容になっていますので、プロレスに関心のある方、あった方ならご一読をお勧めします。

吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集

吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集

  • 作者: 吉田 豪
  • 出版社/メーカー: 白夜書房
  • 発売日: 2013/02/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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