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『たけしのTVタックル』20周年の秘訣は“体制側の反体制”!? [芸能]

『たけしのTVタックル』(テレビ朝日系)といえばビートたけし司会の政治バラエティ番組。放送通算1000回に到達したそうですね。12日に記念の3時間スペシャルが放送されると報じられています。

『たけしのTVタックル』の放送が開始されたのは1989年7月3日。当初は、20年以上の長寿番組になるとは思えない、テレビ凋落の象徴ともいえる安易な作り方をしていました。

たとえば、90年代は超常現象討論が売り物でしたが、「信じる」派と「信じない」派が揚げ足取りやなじりあいをして「対立」を深めて“謎を残す”だけで、肝心の現象に関する科学的・論理的解明は全く行われないトンデモ企画でした。

政治的討論もありましたが、浜田幸一元衆議院議員や、田嶋陽子元参議院議員など、自らの話がくだらないだけでなく、相手の発言もぶち壊してしまう質の低い出演者が幅を利かせた討論ごっこ番組でしかありませんでした。

そして、現役の政治家出演を売り物にして各党から人気者を輩出しながら、“ブレない”野党の日本共産党の議員だけは絶対に出演させない奇妙なキャスティング。

これは、反共の浜田幸一氏の暴言という放送事故を用心した人選であることは明らかでしたが、まじめな日本共産党の現役議員よりも、本番中に平気で恫喝的な発言を行う浜田幸一氏を優先したキャスティングは、“その程度の番組”であったといわざるを得ません。

それが、あるトラブル以来、やっと浜田幸一氏が降りると、入れ替わるように世間受けのいい日本共産党の小池晃参議院議員が登場。他のジャーナリストや元官僚の出演者も一新され、一定の見識ある政治テーマで構成されることになりました。

ビートたけしは現在、『週刊ポスト』に連載を持ったり、『東京スポーツ』で客員編集長をつとめたりなど世相についてコメントする仕事をしており、この番組のMCをつとめることによる情報や人脈も役に立っているのではないでしょうか。

東スポ・ビートたけし.png
「東京スポーツ」(6月18日付)より

ところで、この番組は過去に2度、打ち切りの危機があったといわれています。そのうちの1度は、企画の行き詰まりや視聴率の問題ではなく、ビートたけし自身によるものです。

1994年8月2日、ビートたけしは新宿の路上でスクーターを暴走。カーブを曲がり切れずガードレールに激突して頭骸骨骨折で重傷を負いました。

たけしは1986年、フライデー襲撃事件でも謹慎していますが、それ以来の“戦列離脱”となりました。

それにしても芸能界は、ある程度の知名度になると、何度でも復帰できる甘い世界らしい。

ビートたけしの価値はどこにあるのでしょう。

青春学園ドラマや『太陽にほえろ!』など、日本テレビの人気ドラマを数多く手掛けてきた、元日本テレビプロデューサー・岡田晋吉さんの著書『青春ドラマ夢伝説』(日本テレビ出版部)という本をパラパラッと眺めていて、面白いくだりを見つけました。

「かねがねわれわれが描いている主人公は、『体制側の反体制の人物』である。テレビの特性として、主役を演じる俳優は、体制側の人間でも困るし、完全な反体制でも困るのだ」

なるほどなあ、と思いました。

ヒーローは、体制内でアンチを漂わせているのが一番いい、ということです。

これは、ドラマだけの話ではなさそうです。

そう、ビートたけしは一見鋭そうな視点と毒舌で「アンチ体制」を気取ってきましたが、決して反体制ではなく、むしろ類い希に見る体制側の俗物です。

だから送り手側も、そして受け手の大衆も安心して見ていられるのです。

ビートたけしはバイク事故で入院中、現代の資本主義社会の荒廃と結んでこんなことを書いています(『顔面麻痺』新潮社)。

「しかし、他人の不幸を糧にして生きてるヤツがいっぱいいるわけだよ。だからオレは共産主義は理想的宗教だと思ってるけど、共産主義の考え方は間違いじゃないと思っているんだ。  問題は、そういう立派な道具を扱えないってことだよ、人間が。馬鹿な人間が敗北したのであって、共産主義が敗北したのではない」

ビートたけしの主張に沿って突っ込みを入れるなら、「敗北したのではない」のなら、それを検証し克服することで、より現実的な発展の道筋が掃き清められるのではないでしょうか。

「馬鹿な人間が敗北」したのなら、次は敗北しないようにすればいいのではないでしょうか。

ビートたけしの主張には、社会にしても人間にしてもその「発展」の視点がいつも抜け落ちています。

「だめなヤツ」の指摘とおちょくりまでは一種の冴えがあっても、そこで“毒言”を止めてしまうのです。

そして、だめなヤツがだめなヤツのまま、おとなしく生きなさいと、逆旋回した後ろ向きにふさぎ込むネクラな結論がいかなるテーマにおいても待ちかまえています。

ビートたけしの徹底した女性批判に、当の若い女性たちの一部が「たけしは頭がいい」といってそれを喜んで聞く向きがあります。

これは、結局ビートたけしの「辛口」がしょせん保守的な範疇でのみ行われている点に、彼女たちが気づいて安心していることも一因ではないかと私は見ています。

良妻賢母イデオロギーを骨の髄まですり込まれている今の女性たちにとっては、それを勧められる方が、「社会変革の立場に立て!」というアジよりも楽なように感じるからでしょう。

といっても、だから「論敵」だった田嶋陽子氏が正しいとは全く思いませんが(笑)

顔面麻痺 (幻冬舎文庫)

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  • 作者: ビートたけし
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 1997/04
  • メディア: 文庫


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