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がん保険のカラクリ、それでも加入するのは? [社会]

『がん保険のカラクリ』(岩瀬大輔著、文藝春秋社)という書籍が話題になっているので読んでみました。著者は、ネット生命保険でおなじみのライフネット生命を立ち上げた一人として有名です。かんたんにご紹介すると、医療保険よりも保証の範囲が狭く、健康保険制度も確立し、がん治癒率も上がっているわが国で、どうしてがん保険が売れるのかを考えた書籍です。

がん保険のカラクリ
岩瀬大輔氏は、序章で、アメリカンファミリー生命(以下アフラックとする)に勤務する医師が書いた「がん保険とは何か」という論文を引用しながら、こう述べています。
がんという病気が私たちに本能的に与える不安を呼び起こし、同時に愛情や優しさ、感動の人生物語とともに保険商品を販売する。
「保険のニーズ喚起」と、「不安に訴えるマーケティング」は、常に紙一重だ。
 経済評論家の中には、がん保険という商品の有用性を否定する人もいる。
 かくいう私自身も、「消費者は必要以上に煽られているのではないか」という思いから、がん保険よりも、まずは貯蓄と一般の医療保険による備えを優先するべきではないか、と訴えてきた。保険がその根拠とする、感情を挟まない、冷静な確率計算に基づくのであれば、だが。
 しかし一方で、思いがけずがんに躍り、がん保険の給付金を受ける機会を得た人たちは、確実に感謝している。
 がん保険は、必要なのか。経済合理性では必ずしも説明しきれないその価値を、どのように理解すればよいのか。
ファイナンシャル・プランナーや金融評論家ではなく、かつては生命保険会社を立ち上げた、つまり保険募集(販売)を生業とした人がそう書いているのですから、率直に言って「がん保険」は顧客にとって得な保険商品ではないのでしょう。

けだし、けがも病気もすべてもつ一般の医療保険に比べれば、がん保険の保障範囲は「がん」だけ。

多くは掛け捨てだから、同じお金を貯蓄でお金を準備したほうが確率的には得。

がんだろうが他の難病だろうが、健康保険制度ならかかる医療費には上限があり、そもそも普通に収入や一定の貯蓄がある人なら「払いきれない」ことは考えにくいから、わざわざがん用の保険に入る必要はない。

高度先進医療はたしかに高額だがこれも確率が少ない。

こうして私の認識で枚挙するだけでも、なぜ「がん保険」なのか、に答えはありません。

かくいう私も、医療保険に薄い特定疾病の特約をつけているだけで、単独のがん保険には1円も加入していません。

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私も以前、保険会社に勤務していた者として、この著者と計数上の見解は全く同じだからです。

同じお金を払うなら、盲腸でも、脳卒中でも、肺炎でも、糖尿病でも全部持ってくれる方がいいに決まっているではないですか。わざわざがんだけに絞るのは合理的ではありません。

同書では、「生存給付金」という「ボーナス」がすばらしいように見えるが、そんなものは運用した保険料の一部を返しているだけで、実態は「ボーナス」と呼べるものではない、私も以前書きましたが「2人に1人ががんになる」という脅し文句のトリック、がん治療費用(未承認薬やサプリメントを除く診察・入院費)は意外とかからないこと、などがん保険のからくりを解説。

理想のがん保険は、「がん状態が継続している限り、治療給付金などの名目で毎年、まとまったお金が支払われるもの」であるはずだが、自分が立ち上げにかかわったライフネット生命の一部商品以外、その条件を満たしているものはないといいます。このへんのくだりはステマと勘繰る人もいるかもしれませんが、自分が立ち上げた会社で自分の「理想」を実現したという話なので、これはこれで必要なくだりでしょう。

そして次章からは、生命保険全般の説明と、「消費者は生命保険を理解していない」として、保険市場や商品の展望など、保険屋さんとしての見解でまとめています。

ということで、がん保険に加入されている方は、たぶん不快感、不安感などを抱かれたと思いますが、書籍の内容や著者の真意については同書でご確認ください。

がん保険に限らず、保険の「問題点」についてこうした書籍が根拠とするのは、確率です。簡単に述べれば、わずかしかおこりえないものに見合わない金をかけるのはもったいないから貯金したほうがいい、という理屈ですね。

私も以前はそう考えていましたし、今も明らかに無駄な商品は入るべきではないと思います。

私はこのブログで、そうした趣旨から記事を書いたこともあります。

>>医療保険、入るべきか入らざるべきか

ただ、『がん保険のカラクリ』にも書かれているのですが、消費者の価値判断は確率だけではないんですね。

たとえば1万人に1人の確率なら、一般的には「無視できる確率」でしょう。

しかし、それが1万人どころか、10万人になろうが100万人だろうが、その「1人」が誰にあたるか、という問題は決してクリアにはなるわけではないのです。

低確率であることが、イコール「あなたには起こらない」ということにはなりません。

「がん当たりくじ」は、どんなに低確率であろうが、自分にあたらないという保証はないのです。

原発事故による放射能・放射線被害について、「数字の低さ」をもって安全論を述べる科学者・医学者があえて触れないのはそこです。彼らの話はその命題において計数的には「正しい」。でも、一個人の危機意識を救うものとは限らない、ということです。

がん保険ではありませんが、私の妻は、長男をきわめて低確率の全前置胎盤(癒着胎盤)で出産。そのとき、保険や共済から「手術給付金」が出ました。

2年前の火災では家族傷害保険と医療共済の支払い対象となり、少なくとも約7年分の支払いに相当する給付がある予定です(まだ請求していないので確定ではないのですが)

全前置胎盤。いったい何万人に1人でしょう。
火災に至っては、その家系で200~400年に1回の確率と言われています。

そうした「低確率」に遭遇し、保険に入っていたことで支払った金額を超えるまとまったお金を得られると、やはり「入っておいてよかった」と思います。

がん保険に対しても、そうした「大金が入る」ギャンブル感覚は否定できないのではないでしょうか。

その意味で、商品自体にいかなる「からくり」があろうが、私はがん保険を頭から否定する立場は取れないのです。

がんになれば、お金もかかるし、またできることなら何でもしたい(つまりお金を使いたい)と思うはずです。

ここまで書いたところで、もしかしたら、「低確率のことを意識しすぎるのではないか。そんなこと言ったら交通事故が怖くて外に出られなくなるだろう」と思われるかもしれませんね。

もちろん、私も、交通事故の確率を怖がってひきこもることはしません。

そんなことを言ったら、空気を吸っても水を飲んでも「がん物質」は体内に入っていますから、人間は生きている限り、発がんの確率を発生させる生活をせざるをえません。

ここで問題にしているのは、たんなる「起こる確率」ではなく、「起こ“ったことでお金をもらえる”確率」です。

たとえ低確率でも、万が一そうなったらお金をたくさんもらえるチャンスがあるのなら、そのように手当てしておくのも悪くない、という話です。

「本当に“たくさん”もらえるの?」

それは一概に言えません。つまり、生涯で支払う保険料や、がんになったときにどんなお金の使い方をするかによって違うからです。普通に見れば「たくさん」もらっているのに、それまで支払った額や、かかってから使う金額が多ければ、「たくさん」とはいえないかもしれません。

繰り返しますが、現在の健康保険制度を考えると、日額1万円を超える「医療保険」は無駄だと思います。私も貯蓄すべきだと思います。

ただ、支度金、高額医療費など「まとまったお金」をもってくれるがん保険があれば、支払保険料や約款、他の加入商品との兼ね合い(総額で入院日額1万円以下をめやす)で、検討自体が無意味だとは思いません。

他人様の事情はわからないので、もちろんこれは私個人の経験に基づいた考えです。

まあ、私のような稀有な体験はまさに「低確率」ですから一般的なモデルにはならないと思いますが、いずれにしても、これから保険に加入される方、見直しを検討されている方は、そろばんと価値観(確率に対する考え方)の両方を満たせる選択をしていただきたいなあと思います。

がん保険のカラクリ (文春新書)

がん保険のカラクリ (文春新書)

  • 作者: 岩瀬 大輔
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/12/17
  • メディア: 単行本


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chima

みんながやってるからといって
そのほうがいいわけじゃないことも多いですね
by chima (2013-03-29 14:28) 

がり

がんにはならないだろうと根拠のない自信があって、
それでもアフラックにははいってるんだけど
普通の医療保険の入りかえようかと思う今日このごろ。
でもこういうのって、保険やめたとたん かかりそう。 ^^;
by がり (2013-03-29 15:17) 

RuddyCat-Lalah

このレポートはとても考える機会を与えてくれました。
ありがとうございます。
by RuddyCat-Lalah (2013-03-29 15:46) 

よいこ

だんなの家系にガンの人が多いので、うちはまさにアフラックです

by よいこ (2013-03-29 15:56) 

ryuyokaonhachioj

チョウの翅の模様も色々あって、タテハチョウの仲間
は、アカタテハ、ルリタテハ、シータテハ、は大体
同じような翅の紋様ですね。
by ryuyokaonhachioj (2013-03-29 16:54) 

沈丁花

有意義なお話を有り難うございます。
無関心を装いながら〜考えていた事です〜(笑)



by 沈丁花 (2013-03-29 18:00) 

K

ガン保険に入っています。毎月の保険料のことを考えると矛盾しますが、掛け捨てになってくれればと思います。
by K (2013-03-29 18:24) 

昆野誠吾

人生の設計でどこに重きをおくか、
どんな価値観で生きているか、
それによって良い商品にも悪い商品にもなる。
そんなものが大量に渦巻いているのが
現代社会なんだろうと思います。
カテゴリーがあまりに多すぎて、
良い悪いと言い切れないから歯切れが悪いですね(笑
因みに、がん保険入っていません。
それより運動して健康な食生活にお金をかけたいです(汗
by 昆野誠吾 (2013-03-29 18:32) 

heroherosr

私もちょうど今この本を読んでいる最中です。
最後まで読んでいないので、まだなんとも言えないです。
by heroherosr (2013-03-29 18:46) 

川鮎くん

決して 保険屋さんの味方ではありません
ガン保険と医療保険は終身保険のようです
健康な方はどう思うでしょうか
診断給付金 生存給付金 高度先進医療 入院保険
あと通院保険にも入っていれば いいのかな
ガン治療のため 通院治療でOKなのに
通院保険に入ってなく わざわざ入院する患者さんが
多いと聞いています
医療保険にも入っていれば万全かな~
by 川鮎くん (2013-03-29 19:58) 

ちくわ

勉強になります。
実は僕も以前癌保険入ろうかと迷ったことがあります。
根が心配性なもんで(>_<)
でも結局入らなかったけど。
個々で考え方があるから何とも言えないな~。


by ちくわ (2013-03-29 21:50) 

繭

保険って、好きじゃないです...( = =) トオイメ
高度先進医療だって、何年先まで予約で受けられないかもしれないですし。。
胡散臭さ№1です。。
by 繭 (2013-03-29 22:18) 

真珠

保険の選び方は人それぞれですね。
どういう医療を受けたいかによって求めるものは
変わってくるのでしょう。 私も見直しの時期には考えたいと思います。


by 真珠 (2013-03-29 23:28) 

みずき

保険は学生時代に親がわたしに組んだものを
そのまま引き継いでいるので、よく分かってないのです。
見直すべきか悩みます。
by みずき (2013-03-30 00:21) 

ナベちはる

保険はそれぞれに置かれた状況に合うものを選ぶのが一番ですが、書いてあることばかりにつられずに一度「カラクリがある」と疑ってかかって冷静にならないといけないですね。
by ナベちはる (2013-03-30 01:05) 

toshi

私も、あらたに保険に加入しようかどうか考えています。
コメント、ありがとうございました。
by toshi (2013-03-30 03:52) 

pandan

保険ちゃんとみて見ようと思いました。
by pandan (2013-03-30 04:22) 

isoshijimi

うんうん、なるほどです。というのも、家族構成が変わった今、保険をどうするか、悩み中というところでしたので。
でも、難しいですよね。確率が低くてもそれが自分ではない保証はなく、そこを人は気にして・・・。やっぱり悩みます。
by isoshijimi (2013-03-30 05:05) 

moto_mach

ちょっと考えさせられる記事ですね
う~む
by moto_mach (2013-03-30 06:04) 

やおかずみ

保険の掛け方は難しいですね。私も最低限で、過度
にならないようにしています。
by やおかずみ (2013-03-30 09:48) 

ミスター仙台

私も保険には入っています。
アフラックですが、
アヒルが可愛いという理由だけ?かな・・・
だけど、自分が罹患した場合の医療費を考えると、
掛け捨てですが、致し方ないかなと思ってます。
先端医療の費用を思うと、
支払えなくて治療を受けられないという結末は嫌だし、
家族にも負担は掛けられないし・・・
by ミスター仙台 (2013-03-30 10:59) 

alba0101

ご訪問&コメントありがとうございます^^

保険は悩みますね...
実際に病気になる確率が上がって来る頃に
保険対象外に...など...どうしても面倒なので
そのままにしています...(^^;)
by alba0101 (2013-03-30 12:20) 

いっぷく

みなさん、コメントありがとうございました。
みなさんのブログにお邪魔した際にまた書かせていただきます。

私も記事で書いたように、高度先進医療のついた
がん保険は検討に値すると思います。
世話になる確率は少ないといわれますが
医学の進歩に対する期待を込めて、といったところですね。
by いっぷく (2013-03-30 15:09) 

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