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だまし世を生きる知恵、人はいつも何を考えるべきか [社会]

『だまし世を生きる知恵ー科学的な見方・考え方』(新日本出版社)という書籍について書きます。タイトルに「科学的」と入っていることで、理系諸分野があまり好きでない方は苦手意識を持たれるかもしれませんが、ご心配いりません。同書は物理学や化学の啓蒙書ではありません。個別分野の知識の話ではなく、人間の判断もととなる「考え方」について、合理的な「知恵」を提案している書籍です。

だまし世を生きる知恵ー科学的な見方・考え方
「だまし世」というのは、要するにこの世の中、悪徳商法、カルト教団、疑似科学、マスコミのインチキ報道など、もうありとあらゆる詐術に満ちている、ということを表現しています。それらに騙されないためにはどうすればいいのか。そのつどいちいち物理学やマスコミ論など専門の勉強をしなければならないのか。

そんなことはありません。というより、後にも書きますが、専門家だって間違ってしまうことがあります。それらに騙されないために心しておくことは、学歴や知識の多寡と関係なく、きわめてシンプルなことです。

そのご紹介の前に著者プロフイールを。著者の安斎育郎氏は元立命館大学教授で、本来の専門は放射線防護学。東京大学の医学部で長く助手をつとめた後、立命館大学にうつり、平和学という学際的(文系、理系という枠組みでくくれない学問体系)な分野で研究と社会に対する発信を続けています。私は、ある学術的組織において9年間、安斎育郎氏を補佐する立場におりました。

安斎育郎氏は、人はなぜ騙されるのか。それは、非合理な判断に陥るからであり、その原因は次のことにつきると指摘しています。
1.物事の命題には、「科学的認識」で判断する場合と「価値意識」で判断をする場合とがある。その見定めを間違うとだまされる
2.「欲得」と「思い込み」をもつと非合理な思考に転落する
これだけです。
非常にシンプルです。学歴も社会的地位も関係ありません。
しかも、ごく当たり前のことを指摘しています。

たとえば、安斎育郎氏は「超能力」「霊能力」といった命題をとりあげます。「ある」ということを問うのなら、「科学的認識」で判断すべき問題です。

ただ、個々の心の中で、それをよりどころとすることは何ら妨げられるものではないし、そのおかげで心の安寧が保てた、豊かな人生を送れたという人生観も否定されるべきではありません。

つまり、それらは科学的(物理的)に存在を証明できなければ、客観的実在として認めることはできません。つまり科学的命題としては「真」として成立しません。が、「存在を信じる」という価値的命題は成立します。

ところが、カルト教団はここを都合良くごっちゃにして、まじめな信仰心を持つ人を騙すのです。

「科学的」というと、理系の人たちの中には、科学的知識を身につければいいと安易に主張する人がいます。私を含めて多くの方は、そのお説教的啓蒙にうんざりしてしまい、それ以降の話を聞きたくなくなってしまうでしょう。

安斎育郎氏はそのような立場を取りません。
私たちに気を遣っているからではありません。
そのような啓蒙は一面的なものであるという立場だからです。

たとえば、科学者だって研究を評価されたいという「欲得」をもってしまうと、研究の考察にバイアスがかかったり、もっと悪いケースでは捏造を引き起こしたりするからです。

オウム真理教の幹部が、科学知識豊富なはずの理系の高学歴者たちだったことは、科学知識と非合理の転落が必ずしもリンクしていないことの何よりの証明です。

科学者だから、もしくはその分野の知識が豊富だから非合理には転落しない、ということではないのです。

つまり、人間は老若男女、学歴、社会的地位、資産状況等にかかわらず誰でも騙されうる弱い存在と同書は指摘しているのです。

私自身は、ここに付け加えてさらに踏み込んだ考えを持っています。赤字部分が、私が安斎育郎氏の説に独自に付け加えたところです。
1.物事の命題には、「科学的認識」で判断する場合と「価値意識」で判断をする場合とがある。さらに、「価値意識」には「法律」「道徳」「たんなる主観」などがあるが、それらの見定めを間違うとだまされる
2.「欲得」と「思い込み」をもつと非合理な思考に転落する。「見栄」「嫉妬」にも気をつけなければならない
私はよく、このブログ記事でokwaveのアンケート質問を引用しますが、okwaveの質問を見ていると、ときどき「あれ?」って思うことがあります。

たとえば、質問者が、「これこれこういう経緯で相手を訴えたいがどうか」という「法律」の質問をしているにもかかわらず、「あんたのやり方がまずかったから相手が怒ってそんな展開になった」などと、身の上相談と勘違いした、回答として成立しない「主観」が書き込まれていることがあります。そんなときはおうおうにしてその場が荒れ、興味深い質問であるにもかかわらず管理者が削除せざるを得ない残念な展開になってしまうことが少なくありません。

相手が何を求めているのか、その命題の種類をきちんと見極められないおっちょこちょいは、周囲にも迷惑になるということです。

その「おっちょこちょい」というのは、きっと、その質問者への「悪意の思い込み」が強かったから出てしまったのでしょう。

「見栄」と「嫉妬」もやっかいです。プライドと見栄は違います。等身大とは違う自分を見せようというのが見栄ですから、その時点で十分「非合理」です。「嫉妬」というのは、相手の栄誉や成功にあやかって自分も頑張ろうとするのではなく、不毛な悪口を言い、ときには足を引っ張る直接行動にまで及ぶ場合があり得る点でより深刻です。

みなさんもご経験があるかもしれませんが、人間の嫉妬は、いかに人を見苦しく残酷にしてしまうものか、と感じることは少なくありません。

ただ、それらの本質は「他人に負けるのが悔しい」という感情ですから、ちょっと考え方を変えれば、向上心に化ける可能性もあります。

非合理に転落するか、それを発奮材料とするのか、その分水嶺は基本的な「考え方」を貫けるかどうかで方向が変わってくるのでしょう。

その調整や確認をするときに、同書の指摘は役に立つと思います。

だまし世を生きる知恵―科学的な見方・考え方

だまし世を生きる知恵―科学的な見方・考え方

  • 作者: 安斎 育郎
  • 出版社/メーカー: 新日本出版社
  • 発売日: 2010/10
  • メディア: 単行本


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pandan

思い込みって怖いと思います。
冷静さが必要ですね。
by pandan (2013-03-03 04:38) 

ゆうのすけ

毎日の生活の中に 直面することですもんね。
紙一重とは 良く言ったものだと思います。^^☆
by ゆうのすけ (2013-03-03 05:01) 

moto_mach

騙す方は騙す気満々で来るので

もし自分に来てしまったら回避できるか自信は有りません
by moto_mach (2013-03-03 05:09) 

RuddyCat-Lalah

私は『価値観・価値意識』で判断するとそれのみに囚われると
思うため『科学的』見地で判断します。
一応理系ですから。
心はともかく『科学的』判断がまず最初にありきです。

by RuddyCat-Lalah (2013-03-03 07:30) 

おっつぁん

「神はいる」ではなくて、「神はいると思う」なんですね。その違いは大きいですよ。
by おっつぁん (2013-03-03 07:32) 

ackylacky

この本には興味があります。
若い時のことですが、自分の考えを理解してもらえず悩みました。
人に理解してもらうには、それなりの会話の技術や見た目、雰囲気の作り方が必要だということが徐々に分かってきました。
でも、これって詐欺や怪しげな宗教がやっていることと紙一重なんですよね。
仕事を進めるために使いますが、正直さは重要なので今でも悩むこと多いです。
by ackylacky (2013-03-03 07:33) 

ハマコウ

20~30年近く前 はっきりとは思い出せませんが
関西のワイドショーだったでしょうか
いわゆる「心霊写真」が どうしてそうなってしまったか 
そのわけを写真家が中心になって 
毎回解き明かす番組がありました
このごろは煽るばかりで 
そういった姿勢が少なくなっているような気がします
by ハマコウ (2013-03-03 07:40) 

繭

「私は絶対大丈夫」なんて人でもコロリと騙されちゃいますものね。。

by 繭 (2013-03-03 07:57) 

やおかずみ

自分だけは騙されないと思っている人がかえって騙される
ということがあるのでしょうね。
by やおかずみ (2013-03-03 09:49) 

boba

ご訪問ありがとうございました<(_ _)>
by boba (2013-03-03 10:19) 

uryyyyyy

いっぷく さん、こんにちは。

詐欺師の口のうまさって
天才的ですよね。
もっといい方に使えばいいのにと思います。
そしてカルト宗教は潰れて欲しい・・・
by uryyyyyy (2013-03-03 11:13) 

alba0101

ご訪問&コメントありがとうございます^^

ダマされないようにするのは難しいですね..
上手い話は無いと心掛けていますが...
by alba0101 (2013-03-03 14:06) 

chalice

私の上司は年中騙されています。。。
基本的に人の言っている事を公平に理解出来ず、自分の都合のいいように解釈するクセがあって仕事が出来きず非常に迷惑しています。
甘えの構造が騙され癖に繋がるように感じていますが。淋しい考えかもしれませんが世の中旨い話しはないと言う事でしょうか。上司にこの本を読ませたいけど、何を読んでもそう言う人は都合の良い解釈しかしないでしょう。。。
バカの壁です。
by chalice (2013-03-03 17:40) 

くまら

間違いなく私は騙される人間です(;;)
by くまら (2013-03-03 18:58) 

isoshijimi

あとで振り返ってみると、ほんとうに、自分のみにくい嫉妬から生じていたりしていることってあるので、気をつけているつもりなのに、またやっていたり・・・。
一歩、二歩とどまって自分の言おうとしていることがどうなのか、見つめられるようにならないと・・・と感じてしまいます。
by isoshijimi (2013-03-03 20:34) 

truck-7

祝いコメありがとうございます!厄年万歳で一年を気合いで乗り越えます(^^)!
by truck-7 (2013-03-03 22:46) 

ゆりあ

自分は大丈夫って思ってても、いつしか騙されているんですよね^^;
母が何回も悪徳商法に引っかかっているので、最近そういうのには特に敏感になりました。
by ゆりあ (2013-03-03 23:32) 

☆KEY

本棚には安斎氏監修の「超能力」授業入門が。
この本は段ボール箱の中にしまってあったかな。
見覚えのある著者だったのでコメントしました。
悪徳商法撲滅は折りを見て進めます。
by ☆KEY (2013-03-04 22:42) 

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