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松野大介氏、薄笑いができなかった「芸人失格」 [芸能]

松野大介氏が、夕刊紙の「日刊ゲンダイ」で連載しているテレビ番組の批評が面白いと思い、14年前に上梓された「芸人失格」(幻冬舎)という本を読んでみました。

新刊本ではない、どころか今やブックオフですら探すのが困難な本です。にもかかわらず、アマゾンのレビューを見ると、直近では5ヶ月前に書き込んでいる人もいるのですね。私と同じ思いをもっている人がいるということかもしれません。

松野大介氏は、かつて中山秀征とABブラザースというコンビ名でタレント活動をしていました。

申し訳ないけれど、私はタレントとしての松野大介はとくに関心もありませんでした。「笑っていいとも!」の次に放送されていた小堺一機の番組で、お茶酌み役で出演していたことぐらいしか記憶にありません。

それも、たまたま学生時代だから昼の時間にテレビを見られたので知っていただけで、就職してからは、いちいち録画してまで見るほどの番組でもなかったし、いつ終わったのか、その後ABブラザースがどうなったのか、といったことは全く知りませんでした。

松野大介氏の書き屋としての活躍も、「日刊ゲンダイ」の連載ではじめて知ったほどです。

中山秀征とはコンビ解消をして、中山秀征にいい感情を抱いていないことは連載にしばしば書かれます。

まあコンビの喧嘩別れはよくある話だけど、20代を芸能界に賭けた人が、業種の違う書き屋として30歳過ぎてから出てくるにはいろいろ苦労もあったんだろうな、いったい何があったんだろうな、という関心があって本を手にとって見ました。

「芸人失格」は、人を笑わせるのが好きな松野大介氏と、愛想だけが自慢の中山秀征が、事務所の方針でコンビを結成。しかし、芸能界になじめず仕事がなくなる松野大介氏と、歌も芝居もできなかったのに「テレビ芸」で売れていく中山秀征。松野大介氏は小説家としてデビューするものの、実はタレントとしての未練もあるかのようなほのめかしも書かれている「ノンフィクション私小説」とでもいうべき構成です。

上梓されてから14年たっていますが、テレビ番組に対する批判はそのまま当てはまります。
・昔、シロウトがやっていたこと(他愛のないクイズ、ペット自慢、家族自慢、昔の恋人との対面、よってたかって騒いでいるだけの雑談等)を今の番組はタレントが当たり前のようにやっている。
・昔は「馬鹿なこと」が、80年代の「オールナイトフジ」の頃は開き直って行われ、今やさらに進んで当たり前になってしまった

「大物タレントの周りに人が集まり、その人の気分を害さないように笑いあう」番組は、まさに舞台裏の芸能界であると書いていますが、ちなみにその「大物タレント」というのは和田アキ子です(笑)

松野大介氏は、「バラエティーで意味のないことでみんな輪になって騒ぎ、大物に気に入られ、そして当たり障りなくその場で振る舞い、生きていく。それは何かの縮図ではないか、と私は思いはじめた。(中略)そのテレビでやっていることはいったい何だ……」と問題提起しています。

コンビを解消した中山秀征については、「何が面白いのか分からない」「へらへらしているだけ」という記述があり、レビューによっては、それをもって芸能界に残れなかった者の「嫉妬」と書いているものもありますが、きちんと読めば、少なくともそれだけでないことはわかります。

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“毛の商人”高須基仁氏は、自分は激怒か高笑いしかできない、薄笑いはできない、というようなことをある雑誌で書いていましたが、要するにそれは、世間に対して、同意も納得もしなくてもテキトーに合わせていくことができない、という意味であり、松野大介氏もそういう人間のようです。

一方、中山秀征は「薄笑い」が上手で、またテレビ界が「薄笑い」タレントを求めていることを中山秀征がきちんと認識して芸能界で自分のポジションを獲得した。

松野大介氏は、そんな中山秀征に対して、タレントとしてだけでなく、人間としても負けたことを認めるくだりがあります。だから単純な嫉妬ではないでしょう。

より正確に書くと、松野大介氏は、薄笑いが「できない」のではなく、その場ではとりあえずして、あとで自己嫌悪も含めて心の中で悩むタイプなのです。

それでいて、人に相談したり愚痴を言ったりするのが苦手なので、酒におぼれたり、カッターで手を刺す自傷行為に走ったりする。

痛いことが嫌いな私はその点が違うのですが、薄笑いが苦手、ということと、納得いかない他人の振る舞いにぶちあたると悩んでしまうところは似ていると思いました。

「まあ、そういう人もいるさ」「そういうこともあるさ」では流せないのですね。

だから私もわかるのですが、そういう生き方では芸能界だけでなく、一般人としてもうまく生きていくことはむずかしいだろうなあと思います。

そういう意味で、ちょっと重くて暗い内容ではありますが、生きるのが下手な人にとっては思い当たるフシもある切ない本です。

芸人失格 (幻冬舎文庫)

芸人失格 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 松野 大介
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 1999/04
  • メディア: 文庫


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コメント 13

みほ

3・11震災後、静岡茶から、宇治茶に、
変えたと云うコメントを読ませていただいて、
来て見ました。
by みほ (2012-10-30 04:42) 

cocoron

それわかります。生きるのが不器用な人っていますよねっ・・・・て、私もそうなんですけどね。真面目に考えすぎちゃうのかもしれませんね。
人は思ってるほど自分のことを見ちゃいない。
自分が思ってるほど人は深く考えてない。
そう思えれば少しは楽なんですけど。
by cocoron (2012-10-30 05:00) 

pandan

芸能界で残ってる人は、
そこで生き残るだけののもがやっぱり
あるのでしょうね。

by pandan (2012-10-30 05:22) 

hatumi30331

タレント時代を知ってるけど・・・
彼は今・・・本買いてるの?
人の人生・・・・色々ですからね〜♪^^
by hatumi30331 (2012-10-30 06:45) 

さうざんバー

生き方がヘタでも、頑張って生きている人はいる訳で、そう言う意味では、この方はとても真面目過ぎたんでしょうね(^^;)芸能界って、良く分からない世界です(^^;)ゞ犯罪犯しても復帰できる世界って、ちょっと理解できないです(^^;)ゞ
by さうざんバー (2012-10-30 10:25) 

1stdmain

つまり作家になれたところでハッピーエンドじゃなくて
今もタレントへの未練で悩んでるんですね。
たぶんそういう人はタレントとして
復帰できたとしてもまた悩むと思いますよ。
向上心とも違うし、何になれても何をやっても
苦痛な性格ってつらいでしょうね。
by 1stdmain (2012-10-30 13:06) 

chima

あんまり関係ないんですが
和田アキ子が永谷園のCMに出なくなって
すごくうれしいです
番組は選ぶけどCMまでは選んで観ないので…
by chima (2012-10-30 13:33) 

koume

私、中山氏って、あまり良いイメージ無いんですよね。
何がよくて売れてるのかって感じです。
どちらかと言うと松野氏の方が、当時から好きでした。
by koume (2012-10-30 14:05) 

よいこ

松野さんは知らないけれど、大物タレントの周りで。。。のくだりは、電撃引退したかの人も想像できて、結構面白いところを付いているなと要約を読ませて頂きながら感じました
by よいこ (2012-10-30 15:47) 

サンダーソニア

告発系の本ですね。
中山さんは芸能人の先輩に
「おもねる」のが非常にうまいです。
それも その世界で生きるすべですね。
食べ物のレポは わざとらしすぎて
ひいてしまいます^^;


by サンダーソニア (2012-10-30 16:13) 

uryyyyyy

いっぷく さん、こんばんは。

芸能界はヤクザな世界ですよね。
当たり前が通らない。
犯罪者が大きな顔をできるのって異常でしょ。
by uryyyyyy (2012-10-30 19:02) 

φ(・ω・)かきかき

だからTVっておもしろくない。
時間がもったいないので、私はTVを見ません。
by φ(・ω・)かきかき (2012-10-31 10:23) 

はる

私は、生粋のテレビっ子なので、結構今のテレビで私の役に立っていると感じています。
既にテレビは、『まじめ』な世界の主役の座は奪われているので、薄っぺらくてもいいんじゃない?って思っている派です。疲れた神経を中和するには、地上波テレビは私には必要なメディアと思っています。
by はる (2012-11-01 02:40) 

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