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コレステロール論争の戦後史、「高い」と「低い」のハザマ [健康]

飽食の時代とまでいわれるようになった現代は、栄養を摂りすぎるより、控えめである方が健康によいといわれています。

BMI(肥満度指数)、中性脂肪、そしてコレステロール。いずれも「低い」ことを求める健康情報が流行しているように見えます。

ところが、一方では、「少し太っている人が長生き」「現在の基準よりも少し高いコレステロール値の総死亡率がいちばん低い」といった説も一部の医師・医学者から出ています。つまり、こちらは数値がより「高い」ところであっても大丈夫だ、という立場です。

ワイドショーや女性誌の健康情報には「低い」派と「高い」派、両方の主張が混在しており、私たち視聴者、読者はいったいどうすればいいのか迷ってしまいます。

『間違っていた糖尿病治療―科学的根拠に基づく糖尿病の根本的治療』(医学芸術社)という、一般の人への啓蒙書としてはやや値段が高めの書籍が話題になっていますが、著者の大櫛陽一氏は上記で言えば「高い」派の急先鋒です。

大櫛陽一氏は、これまでにコレステロールの数値について、わが国の医療は、高いとはいえない数値でコレステロール低下薬を処方してきた。それが、「年間3000億円が無駄に薬品メーカーに払われている」ことになっていると批判的な立場をとっています。“医療費膨張”の戦犯のひとつだというわけです。

女性週刊誌でも、日本脂質栄養学会では「日本人では、総コレステロール値、あるいは悪玉といわれるLDLコレステロール値が高い方が、死亡率が低下している」(『週刊女性』3月1日号)と主張。

コレステロール値が高いと、統計上心疾患は少し増えるが総死亡率は減る。コレステロール低下薬を使っても心疾患自体は減らない。だからコレステロールは下げる必要がないというのです。

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コレステロールというのは、血液中や人間のあらゆる組織に見い出される脂質。細胞膜の構成成分や、性ホルモンや副腎皮質ホルモンや胆汁の原料になるなど、体にとって非常に重要な成分になります。

今世紀初めにロシアの病理学者・アニスコフらが、ウサギにコレステロールを食べさせたところ、大動脈にコレステロールが沈着して動脈硬化が起こったことから、「コレステロールが動脈硬化の原因である」と発表。これがコレステロール禁忌説の発端であると一般の啓蒙書は紹介しています。

以来、ふた昔ぐらい前までは、とにかく「コレステロールを下げる」ことが健康であるとされていましたが、最近になって大櫛陽一氏らのような「見直し」の説がメディアでとり上げらるようになり今日に至るわけです。

では、その数値の「高い」「低い」はどうやって判断すればいいのか。

日本動脈硬化学会のガイドラインでは、総コレステロールが220mg/dl以上、LDLが110mg/dl以上は「高脂血症」扱いで、低コレステロール低下薬の処方がされうることになっているそうです。

しかし、大櫛陽一氏は、その数値に科学的根拠はなく、もとより適正コレステロール値は年齢や性別によって異なるものであり、たとえば40歳以上なら、男女とも260mg/dl以上でなければ、コレステロール低下薬の処方の必要はないとしています(『間違いだらけの診断基準』大田出版)。

一方、日本動脈硬化学会は、「(日本脂質栄養学会の説は)科学的根拠がなく、必要な患者の治療を否定するような標記“ガイドライン”を断じて容認することはできない」としています。

要するに、お互いが「科学的根拠がない」と言い合っているのです。

これまでがそうであったように、今の医学的定説は、将来より高次なものに書き換えられることになるでしょう。

その意味で、定説に「待った」をかける新説はその突破口になりうるという意味で意義はあるかもしれませんが、現状、それを受け止める側はやはり困惑します。

私は総コレステロール値が低く、150mg/dl~170mg/dlをウロウロしているのですが、LDLは110mg/dl前後です。私の妻の総コレステロール値はもっと高いですが260mg/dl以下で、ただLDLは110mg/dlより高めです。

要するに、私たちは、日本動脈硬化学会でいえば「高い」が、日本脂質栄養学会でいえば基準値内という、まさに今回の論争に振り回されている微妙な数字なのです。

でも、そういう方は多いのではないでしょうか。

その立場から率直に言わせてもらえれば、人間の健康は複雑系であり、ある一点の数値(血圧や体重やコレステロール値)だけで健康か不健康かという論評を行うのは、要素還元主義に陥った誤りであると思います。

コレステロール値を低くさえすればいい、という従来の処方に懐疑的になることを否定はしませんが、同様に“高くても大丈夫”と言い切れるのか、という懸念もシロウトながら直感的に抱いています。

たとえば、今までコレステロール200mg/dlだった人が急に260mg/dlになったとすれば、そこには何らかの原因があり、かりに即心疾患を心配しなくても、ではその変化が何によるものかということについては注意を払う必要があるのではないか。つまり、その時々の数字が標準かどうかではなく、経時的変化が重要ではないのかとシロウトなりに考えています。

それを観察するためには、近所にかかりつけの医師をもつこと。そして、気になることがあれば何でも報告し、相談する関係を構築することであると思っています。

会社や地域の健康診断で「高コレステロール値」という所見が出たら、ホームドクターをもつ機会と前向きにとらえるのがいいかもしれません。

間違っていた糖尿病治療―科学的根拠に基づく糖尿病の根本的治療

間違っていた糖尿病治療―科学的根拠に基づく糖尿病の根本的治療

  • 作者: 大櫛 陽一
  • 出版社/メーカー: 医学芸術社
  • 発売日: 2012/08
  • メディア: 単行本


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コメント 10

1stdmain

コレステロールを、下げる食べ物ってよくいわれますが、
逆に上げる食べ物はないですかね。
卵もイカも、上げるだけでなく下げるものも入っているらしいので、バランス取れてますね。
by 1stdmain (2012-09-30 02:38) 

pandan

数値は気になりますね、
極端に高かったり低くなければ
いいのかな〜なんて思ってしまいます。
by pandan (2012-09-30 04:51) 

hatumi30331

私も息子も・・・体型のワリにはコレステロール値が低い体質です。 息子な低過ぎて病気?って言われたことも・・・
ほどほどって・・・・難しいですね。^^:
by hatumi30331 (2012-09-30 07:41) 

プースケ

こんにちは(^_^)
先日会社で成人病予防の講演会があり、少し太って
いる人の方が長生きするという話を聞きました♪♪
先週健康診断を受けたので、コレステロール値の
結果も気になっています(^_^;)
by プースケ (2012-09-30 08:27) 

リキマルコ

実は私、家族性の高血脂症であります!遺伝ですね・・・
若いころからコレステロール値500なんて数値がざらにでていました!!
でも野菜生活始めて、毎朝酵素ジュース(野菜と果物のジュース)を作って飲むようになってからナント300台になりました^^
私にしたらものすごいことなんですけど、一般的にはかなり高いのですね・・・(^^;)
by リキマルコ (2012-09-30 09:56) 

さうざんバー

内科の先生が、中年太りは、長生きするのには、理にかなっている!と言う言葉を信じて、中年太りを気にしていませんでした(^^;)高脂血症ですが、高血圧でなければ良い!と言う先生もいて、それも信じています(^^;)つまり、自分の都合のいい事だけを、私は信じているので、あんまり数値は気にしていません(^^;)結果は、私が亡くなる時に分かるので、報告しますね(^^)v
by さうざんバー (2012-09-30 12:20) 

旅爺さん

1日30品目食べなさい、とあるので食べる様にしてますが、
どうしても食べ過ぎてしまいますね。
医学は医師によっても様々な部分がありますね。だから何軒か変えたら良い医師に出合ったなんて聞くんですね。
by 旅爺さん (2012-09-30 13:54) 

chalice

私は痩せ過ぎ判定なのにコレステロール値は注意するように言われています。基準値内ですが高くなる傾向のようです。コレステロール値は肝機能など体質が大きく影響しているようなので、人それぞれで食事などだけではコントロール出来ない部分もあるようです。少し、コレステロール値が高いくらいが長寿って話も聞いたことがあるけど。。。こればっかりは。。。やたら高くなければだいじょうぶ?って素人判断しています。
by chalice (2012-09-30 19:37) 

beny

 明日、人間ドック(2日間)の予約入れとこうかなぁ。2か月先らしいですけど。
by beny (2012-09-30 20:24) 

chima

産後健康診断うけていないので
そろそろ受けないといけないですね
しかしたまに受けても判断に困りますね
定期的にうけないと…
by chima (2012-09-30 22:05) 

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