IQが0歳児並みに転落した高次脳機能障害児の計算力リハビリ記録 [遷延性意識障害]
7年前の受傷で、IQが生後5~6ヶ月並みに転落した高次脳機能障害者の長男。9ヶ月後に発語があり、会話は次第にできるようになりましたが、高次脳機能障害に見られる特有の症状があり、中でも学習上の困難、具体的には計算能力を失ってしまいました。
会話ができるようになる前から、階段を登るときなど、1、2、3…と数えることはできていたので、算数についてはあまり心配はしていなかったのですが、1+1とか2+3とか簡単な足し算をやらせてもまったくできなくなっていたのです。
ホワイトボードに2+3と書いて、その下に2個のドッツ、3個のドッツを貼り付けたカードを置くと、ドッツの数を数えて「5」と答えることはできても、カードを外すとできません。
どうやら、2を見てドッツ2個が頭の中で思い浮かばない、つまり2はこれくらい、3はこれくらいといった数の概念が失われてしまったようなのです。
これは大変なことになったと思い、まずは数字と数量の一致から始めることにしました。
3枚の紙皿にそれぞれ1から3までの数字を書き、同じく3枚のカードに1から3までドッツを貼り付け、カードを対応する数字の皿に置くのです。
これはすぐにできるようになったのですが、それならと皿の上に同じ数だけ積み木を置かせるようにしたら、これは難しいらしく、なかなかできるようになりませんでした。
手がうまく動かないのと、目と手を連動させるのが苦手なため、操作性を求められるととたんにできなくなってしまうのです。
そのうちに疲れてきて、疲れると間違いも多くなり、本人のやる気もなくなり、と、学習の効果があがらなくなってきたので、数直線を使った方法に変えることにしました。
積み木の大きさにあわせた枠
2から3つ増えると5、というやり方で、数の概念や足し算の意味などを身につけるのです。
本人も楽しんでできるように、数字のすごろくを取り入れてみましたが、コマを上に置くと数字が隠れてしまい読めないので、あまり意味がないことに気がつきました。それに上りまでの時間が長いと疲れてしまうので、すごろくは早々に見切りをつけました。
次は、数直線がいいならと積み木の大きさにあわせた枠を作りました。
積み木で数字が隠れてしまわないように、枠の上に数字のシールを貼ってあります。
2+3の足し算なら、2個のキューブを枠に入れ、次に3個入れて、数字を読むかキューブを数えて答えを出します。
ただ、これでは数直線というよりは、ドッツを数える最初のやり方と変わらないので、積み木はひとつにして、移動させる方法にすることにしました。
2+3なら、2のところにキューブを置き、「1、2、3」と数えながら5まで移動するというわけです。
これなら引き算にも応用がきくのでよいアイデアでしたが、今度は積み木をきちんと移動させられないという問題がでてきました。1マス、といっても線がひいてあるだけなので、そこにぴったり合うように置くのが難しいのです。
それに、数字が書いてあるとそこに気を取られてしまい、3マス進むべきところを3の数字のマスに移動してしまいます。
そこで作り直し。
数字シールは混乱のもとなのでなしにしました。
マスとマスの間は線を引くのではなく、コードを使って少し高さを出しました。ダンボール紙で作った教材なので、断面の隙間にコードをはさみこんでいます。これだとマスとマスの間に置くこともありません。
移動させるのは積み木ではなく丸いマグネットに。このほうが見やすいようでした。
せっかくマグネットを使うのだからと、マスの下にマグネットシールも貼りました。斜めにしても簡単にはずれないので、ボードを持ち上げて教えるときも便利でした。
自分で数えながら3なら3つめのマス、5なら5つめのマスにマグネットを置くのですが、何度もやるうちに数えなくてもその場所に置けるようになりました。
問題を解くときも、「2+2だよ。2の2つ先はなんだったっけ」と聞くと、頭のなかに数直線を思い浮かべているようで、しばらくしてから「4」と答えます。
これはなかなかよい方法でしたが、疲れていたり調子のあがらないときはマグネットの操作が負担になるようでした。
それよりは一桁の足し算なら暗記してしまったほうが早いということで、何回(何百回)も繰り返すうちに数直線を使わなくてもできるようになってきました。
簡単な足し算はそれでいいとしても、やはり数の概念や順番はしっかり覚えてもらいたいと思い、新たに作った教材がこちらです。
1から20までを順番に並べるだけですが、数字と、それに対応する漢字、ドッツを対応させています。
数字と、それに対応する漢字、ドッツを対応
数字は数の順番、漢字はその読みの学習です。
ドッツはサイコロをふったときに出た目がいくつなのかを見ただけで分かるようになってほしいと、サイコロの目と同じ並び方にしました。
ラミネートしてベルクロで貼るしかけです。
でも、20までドッツを並べてみたらかなり細かくなってしまい、視覚にも問題のある長男は数えるだけでかなりの時間がかかります。
そこで5は長い棒に、10は大きな●にしました。
つまり、6は長い棒とドッツ1つで「5と1で6」、20は大きな●が2つで「10が2つで20」というように覚えさせました。これはそのあとの20玉そろばんにもつながる数え方で、本人も覚えやすかったようです。
現在は足し算はタブレットで反復練習させています。まだ全部の数字を書けないので、ひたすら答えを選択肢の中から選ぶドリルですが、書きの勉強についても少しずついろいろな方法で進めているところです。
そちらについてはまたあらためてご紹介したいと思います。
脳は回復する 高次脳機能障害からの脱出 (新潮新書) -
高次脳機能障害・発達障害・認知症のための邪道な地域支援養成講座 -
2018-04-14 23:59
nice!(103)
コメント(0)
トラックバック(0)
コメント 0