SSブログ

“暴力団叩き”ブームの落とし穴 [社会]

戦後史上、今年ほど一般のマスコミで暴力団についていろいろ書かれたときはない。それはもちろん、島田紳助問題を「前説」的に起こして芸能誌まで巻き込んだ「暴力団排除条例」が東京で施行されたからだが、残念ながらマスコミが積極的に報じるときというのは、往々にしてうわべのセンセーショナリズムと覗き見趣味を満たす出来事やその論評でしかない。

たとえば、杉浦太陽(の父親)の事件を見ていこう。



『女性セブン』(2012年1月5・12日号)には、杉浦太陽と辻希美との別居理由に、杉浦太陽の父親の存在があったと書いている。
辻は杉浦太陽8 件(30)と結婚した直後から大きな悩みを抱えていた。それは杉浦の父親の金銭トラブルだ。


父親は元プロ野球選手だったが、退団後、不動産ブローカーのような仕事をするように。そして2、3年前から、複数の人から、借用書や印鑑証明書と引き換えに数千万円~1億円もの大金を受け取るも、いずれも返済することなく行方をくらましていた。2011年8月23日には杉浦の所属事務所に暴力団組員が乗り込む事件も起きた。

最後の「事件」については、一般紙にも報じられた。

杉浦太陽が暴力団員から「父親に会わせろ」と言われ、杉浦の所属芸能事務所のガラスを割ったとして器物損壊罪に問われた。本人でなく息子の杉浦の面会を求めたのは、組長が杉浦の父親に貸した金の取り立てをすると、「『プロダクションで必ず連絡がとれる』と、父親本人が言った」からという。

公判で被告は金銭の脅迫はなかったと言っている。が、その「面会の要求」が常識を超えたものにエスカレート。たくさんの催促電話や街宣車による誹謗中傷、事務所社長に対する威嚇を行ったりしたという。

そのため、記録上の被害は1枚のガラスが割れただけでありながら刑事事件になってしまった。これをもって、天下の産経新聞は「暴力団の闇」とまとめている。

が、筆者に言わせれば、「おいおい、暴力団叩きに一般紙まで便乗するなよ」である。

問題のおおもとは、杉浦太陽の父親が借りた金を返さないことにあるのだ。しかも、暴力団員に対して杉浦太陽に取り立てに行けと言ったのも父親なのだ。

「取立て」がしつこく過剰だったとしても、芸能人に取り入るというねらいが暴力団としてあったとしても、これだけでは即「暴力団固有の犯罪」とはいいきれない。

たとえば、別にヤクザでなくても要求がエスカレートする場合や、狡猾な犯罪はある。ストーカー犯罪がイコール暴力団がらみかというわけではないだろう。

別に暴力団の肩を持つわけではないが、取り立てる側ばかりが悪者になり、原因を作って踏み倒す奴がのうのうとしている報じ方は、やはりおかしい。

なのに、産経新聞はそうした問題には全く触れず、時流に乗って安易に「暴力団の闇」でまとめてしまった。

言葉尻にインネンをつけたいわけではない。「闇」を明らかにするのなら、島田紳助問題の真相に迫るとか、暴力団排除条例の矛盾や推進の真の狙いを論考するとか、今こそもっと迫るべき対象、「闇」という言葉を使うべきテーマがあるのではないか、ということだ。

組員が被告だからといって紋切り型に「暴力団の闇」などという表現を使うのは、片親の子弟がトラブルを起こすと、「あの子は親がいないからそんなことをする」と結論付けるステレオタイプの言い草と同じレベルである。

「暴力団叩き」が流行する今だからこそ、「暴力団は悪い」という論調さえ保っていれば読み物として成立する、という安易な風潮も戒めなければならない。

暴力団・西の拠点ともいわれた姫路で暴対に携わった元刑事の飛松五男氏は、自著『飛松五男の熱血事件簿 私だけが知っている不可解事件の裏側と真相』でこう指摘している。

「もちろんヤクザに悪い所はいっぱいありますよ。でも、それはわざわざ言わんでも世の中にさんざん出とるでしょ。カサに掛かってそういうのは報じるやないですか。それこそ、あることないことみな言うやないですか。

 でも、ええ所もあると。それは出ないんです。これは、おかしいやろうと。いったん悪者のレッテル張ったら、是々非々で見ないで悪いトコだけ見せて、良い所は絶対に報じないのは公正さを欠いとるやろと」

一方で、スキャンダル報道がタブーという場合もある。『いい人』は美談尽くしで、『悪い人』は徹底的に叩く。

そのような一面的な報道では、社会や人間を弁証法的に描くことができない。『いい人』だって間違いはある。美辞麗句の建前の裏にどす黒い本音があることも少なくない。というより、世の中そんなことに満ちている。

だから、うわっつらで善悪の二元論で判断する底の浅いものの見方は、国民に物事を多面的に考えさせない粗末で有害な啓蒙になってしまうのではないだろうか。

飛松五男の熱血事件簿―私だけが知っている不可解事件の裏側と真相

飛松五男の熱血事件簿―私だけが知っている不可解事件の裏側と真相

  • 作者: 飛松 五男
  • 出版社/メーカー: 鹿砦社
  • 発売日: 2011/06
  • メディア: 単行本


nice!(124)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 124

コメント 4

ryuyokaonhachioj

今後もよろしくお願いします。
by ryuyokaonhachioj (2011-12-27 19:03) 

pandan

いつも訪問ありがとうございます。
by pandan (2011-12-28 06:27) 

よいこ

いろんな視野で物事を考えるのって大切ですよね゜
by よいこ (2011-12-28 21:12) 

toyo

まったく同感です。
暴力団という呼称そのものが「善悪の二元論」という気がします。
どうも弱いものいじめの社会にどんどんなっていくようで怖いです。
by toyo (2011-12-28 22:51) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

Copyright © 戦後史の激動 All Rights Reserved.
当サイトのテキスト・画像等すべての転載転用、商用販売を固く禁じます